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パーシャルレップvsフルレンジ

フルレンジとは何か、種目による差異

トレーニングは基本的にはフルレンジで行うことが効果的であるとされている。この「フルレンジ」という言葉は、「対象筋に負荷が乗っている全可動域」を意味する。

フルレンジは、トレーニングの種目によって変化する。例えば、フリーウエイトのプリーチャーカールやインクラインカール等で、重力ベクトルと前腕が拮抗し、重さを骨で受ける場所がある。この場所以降では対象筋への負荷はなく、これ以上収縮させる必要はない。

重力を骨で受けている状態になり、そこからさらに収縮するようなレンジは一見可動域が大きく見えるがフルレンジではなく、必要ない。


良いパーシャルレップ、悪いパーシャルレップ

トレーニング種目、特にフリーウエイト種目は重力を負荷としているため、ダンベルやバーベルの位置が異なることでモーメントアームが変化しトルクが変化する。そのため、最も筋肉に対して負荷の乗る最大トルクという場所がある。最大トルクを通過するパーシャルレップは、フルレンジで発生する負荷の弱い範囲が少なくなり、筋肉が休息する可動域がなくなるため、効果的といえる。

また、限界まで筋肉を追い込んだ後のパーシャルレップも有効である。最大トルクを通過することは不可能な余力で、さらにパーシャルレップを行うことは、トレーニングボリュームの向上に貢献する可能性がある。

限界も迎えてなくて、最大トルクも通過しないパーシャルで扱う高重量は、対象筋にとっては高負荷ではなく、筋肥大には効果的ではない。


パーシャルレップの利点は筋力向上?

パーシャルレップは可動域がフルレンジと比較して狭いため、高重量が扱える。高重量が扱えるため、パーシャルレップ筋力向上に効果的というメリットがあるとされる。

[i]筋力と筋肥大には一定の相関関係が見られており、可動域を狭くし高重量を扱うパーシャルレップは、筋力向上、それに付随する筋肥大を促すように思える。

上記はベンチプレスの1RMと大胸筋の筋断面積の関係を示した図である。ベンチプレスの1RMと大胸筋の筋断面積の間に強い相関関係があることが分かる。

私は筋力と筋肥大に相関関係があることには同意するが、パーシャルレップによる高重量は、筋力向上、筋肥大には効果的でないと考える。理由は、パーシャルレップは部分的な筋力向上、筋肥大しか起こさない可能性が高いからである。[ii]パーシャルスクワットとフルスクワットでの1RMと筋肥大の違いを調査した研究では、フルスクワット群の方が、筋断面積が増加し、クォータースクワットよりも、クォータースクワットとフルスクワットの1RMの重量、つまり筋力も増加していた。

高重量を扱うパーシャルレップは、最大トルクを通過していないことが多い。最大トルクを通過するレンジでの使用重量を上げていくことが、結局は筋力と筋肥大に効果的なのではと思う。

パーシャルレップはメタボリックストレスを与えやすい?

[iii]肘関節の屈曲時のパーシャルレップとフルレンジの筋肥大への差を比較した実験では、パーシャルレップは筋肥大を促進するとされる筋肉内の低酸素環境を増加させることが期待された。筋肉内の低酸素状態は、いわゆるパンプの際に引き起こされるものである。44人の若い男性が22人ずつ、パーシャルレップ群(45度~90度)、フルレンジ群(0度~120度)に分けられ、実験前と実験後での筋断面積の変化を調査した。両群とも8回3セットを週1回計8週間行った。短期的にはパーシャルレップ群にて低酸素環境の増加が見られた。長期的には、パーシャルレップ群の方が、フルレンジ群と比較してかなり筋断面積が増加した。

この研究から、パーシャルレップは筋肉へのメタボリックストレスを促すことが期待される。

一方で、[iv]パーシャルレップに効果がないと結論づけられた研究もある。この研究は対象筋が羽状筋である外側広筋であり、調査にはレッグエクステンションが採用されていた。レッグエクステンションは最大収縮位で最大のトルクを発生する種目である。この特性と実験の内容から、この実験において、パーシャルレップ群はレッグエクステンションの最大トルク以外の可動域で運動を行ったこと、パーシャルレップの羽状筋での効果は懐疑的であることが推測される。

パーシャルレップの効果を得るには最大トルクを得る必要があること、パーシャルレップは羽状筋ではなく紡錘状筋で効果があることが示唆される。

パーシャルレップのシステマティックレビューの考察

[v]パーシャルレップとフルレンジの効果を調べた論文を体系的にまとめたシステマティックレビューでは、6個の論文が精査され、下半身を対象とした4つの研究ではフルレンジトレーニングが有効であるとし、上半身を対象としたトレーニングでは、有効な推論は導けなかったとしている。

このシステマティックレビューでは、[vi]パラレルスクワットとフルスクワットで、大腿四頭筋の筋肥大に有意差が見られなかったことを理由に、「特定の筋肉の活動する可動域の閾値に達すると、それ以上可動域を増加させてもさらなる効果が得られない」という仮説が立てられている。この仮説は最大トルクを通過するパーシャルレップが有効であることの理由にもなるため、追加の研究が期待される。


参考資料

[i] https://tinyurl.com/2zrc2jkc

[ii] https://tinyurl.com/2gux7okd

[iii] https://tinyurl.com/y53ce53q

[iv] https://tinyurl.com/y4d4jfjq

[v] https://tinyurl.com/2fe7gym3

[vi] https://tinyurl.com/yyn3ko6n

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