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生きていく意志

大好きな映画がある。

幕末太陽傳だ。

日活創立百周年記念でデジタル修復版が新宿で上映されたときに観に行って、その魅力に取りつかれてしまった。

あまりに好き好きいってたので、誕生日にBlu-rayをいただきました。

最近では宝塚でやったらしいですね。佐平次がイケメンていうのはどうなんでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、この映画は、居残り佐平次、三枚起請、品川心中、お見立てなどなど、いろいろな落語が混じって一つの映画になってるんですよね。

この主人公の佐平次(フランキー堺)っていうのが、どっからどう見てもイケメンじゃないんだけど、見てるうちにどんどんかっこよく見えてくるっていう。廓に居残って、若い衆みたいなことをしながら、様々な問題を解決していく。それは種々の落語の通りで、佐平次はどんな時でも笑顔で飄々と廓の中を走り回る。でもこの映画で一番好きなのは、佐平治が唯一苦しい顔を見せるシーン。

無一文で廓に来たことがばれて、行灯部屋で居残りが決まって、蜘蛛の巣が張る部屋に通されたときの佐平次。案内人が帰って部屋に一人きりの佐平次の顔が本当に寂しい。埃をふーっと吹くとたまりにたまったものが一気にむせ返って…

ゲッホゲッホ!!

肺病を患う佐平次はせき込んで倒れてしまう。

へらへら笑って、飄々と生きる人前では決して見せない姿。ここ名シーンだよね。

それでも、嬉々として生きていく佐平次。何がすごいってこの人は、自分をよく思わない人たちをどんどん仲間につけていく知恵と不思議な魅力がある。

僕は佐平次になりたかった。こんな人になりたいなぁと本当に、素直にあこがれたんだ。前職は、佐平次みたいに気が付いてなんでもその場でできる人間が重宝される職場だったし。

でも、無理だった。佐平次は今でいうなら超マルチタスク人間。無数の資格を持つ派遣社員みたいなもんでしょうか。

僕はマルチタスク人間じゃない。あの時は気が付かなかった。気が付いていたかもしれないけど、佐平次になれるって思ってた。

そして病気になってしまった。

病気になってから観るこの映画はちょっと違って見えた。病気という共通点で佐平次を見るようになった。そうしたら、ラストシーンの一言がより身に染みて感じるようになった。

地獄も極楽もあるもんけぇ。俺ぁまだまだ生きるんでぇ。

この時、僕が佐平次になれなかった理由がなんとなくわかった気がしたんだ。


チョコ棒を買うのに使わせてもらいます('ω')