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城山文庫の書棚から062『エルサレムの歴史と文化』浅野和生 中公新書 2023

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教。3つの一神教の聖地イスラエルでまた戦争が始まってしまった。政治的背景は日々のニュース解説に委ね、本書では聖都エルサレムの歴史を紐解き、宗教・文化の面から理解を深めたい。著者は美術史・建築史の専門家である。

ローマ、ペルシャ、ビザンティン、オスマン、英国と幾つもの帝国に翻弄され創造と破壊を繰り返し、各時代の史跡が何層にも積み重なって形成された街エルサレム。実際、11世紀に建てられた教会の地下部分は2世紀からある遺跡の一部が利用されたりしている。

中東戦争以降、イスラエルはユダヤ人とイスラム教徒の紛争の地というイメージが強いが、本書で多く取り上げているのはエルサレムにおけるキリスト教の史跡。偶像を禁止するユダヤ教・イスラム教と異なり、イエス生誕と新約聖書にまつわる物語に溢れているためだろう。

1967年のイスラエルによる東エルサレム占領は国際法違反であるというのが我が国の公式見解である。宗教が発生した順序はユダヤ教→キリスト教→イスラム教だが、ユダヤ人が紀元前に聖地から追い出したのはペリシテ人。パレスチナという呼称は「ペリシテ人の住む土地」という意味だ。話は単純ではない。