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きみのおめめ 4色のカード #17

「これは娘ちゃん、次は勝っちゃうかもなあ〜」
ふ、ふ、ふ、と笑いながら7枚のカードを手の内で整えている。
「いや、とともなかなか強いやつきてるよ〜」
ふ、ふ、ふ、と真似て笑う。
私は安堵して自分の手札を見た。

保育園でUNO(カードゲーム)のルールを教えてもらって、みんなで遊ぶようになったらしい。
なかなか勝てず家で特訓したいというので、数ヶ月前の5歳の誕生日にプレゼントした。
喜んだ娘とある約束をして、UNOの箱を開けた。

はじめの数回、娘は順調に勝利を得た。
「娘ちゃん、ほいくえんで練習してるからね」と得意顔の娘をたっぷりほめる。
しばらくして夫と私は何度も目配せし、そろそろいいだろうと夫が勝った。
娘は驚いた顔をしたあと瞳を大きく揺らし、じわじわと目に涙を溜めた。つぐんだ口をぐぐ、と曲げる。ぎゅっと目をつむった瞬間ぽろぽろと涙の粒がこぼれ、手に持ったカードを机に投げつけた。突っ伏して「娘ちゃんがいちばんがよかったのに」「娘ちゃんしかいちばんじゃないのに」と声を上げて泣く。
夫が娘の背を撫で落ち着かせようと努めても、私が頭をなでても、しばらく泣き止まなかった。
やっとのことで顔を上げた娘に、「約束、覚えてる?」と聞く。
たっぷり時間をかけてティッシュで涙や鼻水をふいたあと、
「負けても、泣くのはいいけど、怒ったらだめ」
語尾がちいさく響く。夫がそうだね、と目尻に残った涙を指ですくう。すくったはしから、次々に涙が浮かんではこぼれていた。

今すぐにそれができなくてもいいから、たくさん負けた気持ちを知ってほしいと思っている。(もちろん勝ったときの嬉しさも)
まだ言葉にできない悔しい気持ちを受け入れる練習と、諦めずに次のゲームへと持っていく練習を。
怒ってしまったらこう言うといいよ、という。娘なりに解釈したようで、
「カード投げてごめんね、悔しくて怒っちゃったよ。次は負けても投げたりしないよ、だからもう一回あそぼ」
そう言って、目のまわりを赤くしたまま、スン、と鼻をすすった。

それから半年、喜んだり、悲しんだり、時々怒ってしまったりしながら、3人でUNOやボードゲームをプレイしている。
「かかの番だよ!」
先程の勝負で負けて、悔しがりながらもそれを受け入れ涙を流さず次のゲームへと進んだ娘がいう。
カードを開いて確認する。赤、赤、黄色、緑、青、青、draw4。
「かかだって、たまには勝ちたいよ」
と言いカードを選ぶ。手加減なんてとっくにしていない。私の手にする一枚のカードをじっと見つめる娘に「勝負!」と言い、赤いカードを場に出した。

すごくすごく喜びます!うれしいです!