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きみのおめめ 長いごはんの時間 #11

「娘ちゃんが、いっちばん、いっちばん、むずかしいと思うやつ、聞いて!」
保育園では30分でお昼ごはんを食べるのに、家での食事はたっぷり時間をかける娘がいう。
今はごはんの時間だからおしゃべりばっかりはだめだよと言っても、いいから、と遮り同じ言葉をくり返す。
ぜんぜんよくないよ。
そう思いながら、パンはパンでもかたいパンは?と問う。
そんなの、ぜんぜんむずかしくなーい!とふくれながらも、
「フライパーン!」
とけらけら笑う。

時計の針は1周まわったのに、娘のお皿にはお肉と天かすだけ丁寧に取り除かれた焼きそばがある。
好きなものを先に食べたあと、あまり好きではないおそばへ進む前の時間稼ぎがはじまった。
おそばの後には、程よくしなしなのキャベツも控えている。
黄色いおはしで、今度はおそばとキャベツを分けはじめていた。
きれいに、適度な時間で食べてもらうことの、なんと難しいことだろう。

随分前に食べ終わった自分の食器を片付けながら、何歳くらいで好き嫌いを分けずに食べれるかな、と聞く。
娘はうーん、と斜め上をみて悩んだあと、
「10歳!」
と明るい声でいう。
大袈裟にがっくりと肩を落とす私をみて、ふふふ、と笑いながらやっとおはし持ってくれた。

刻々と過ぎる1日の終わり。平日の夕方、毎日きりきりとした焦りを感じながら過ごしている。
この軋む時間でさえも、数年後に思い返して懐かしむのだろうか。
自分の食器を先に洗いながら、やっと半分ほどになった娘の焼きそばを見て、深くため息をつく。

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