金がない時どうするか!?
五十(ごと)払いという関西からはじまった商習慣がある。
5日や10日などの5の倍数の日に支払をすることで、例えば私の得意先では、月末〆の翌々5日払いとか10日払いが多い。一番金払いの良かった20日〆の翌20日払いの会社は、残念ながら倒産した。
景気のいい頃は、月に何回も入金があり、「うーむ、使っても使っても金が減らんな」などと通帳をながめたものである。「金が欲しくて仕事をしているわけではないんだがなあ」
なんと贅沢な時代であったか。
今は、まったく違う。
先ほども電話があった。
「すんまへん。10日振り込みの25万円。ちょっと待ってくれへんか」
もちろん私は「ああ、いいですよ」と言う。この時代、苦しいのはお互い様だ。どうせ相手は、払いたくても払えないのだ。無理強いしても仕方がない。
だが、普通の「ああ、いいですよ」では、なめられる。「へへ、なんや平気みたいやな。そしたらあと3ヶ月くらい待ってもらお」と不埒な考えに至るのである。
言外に意志を込めることが必要だ。
「ああ(この)、いいですよ(クソボケがっ)」
正直に言うと、金が入らないことにちょっと心がへこんだ。そして、それを自覚してちょっと驚いた。私は、意外とせこい男だったのだ。
私の元に金を借りに来たオッサンたちの顔が思い浮かぶ。ああ、あの人たちは、私が今感じている何倍もの、このモヤモヤしたようなムシャクシャするような、なんとも不快な気分を味わっていたんだな。
これが金という存在の重さである。少し足りないだけで、心は大きく乱されるのだ。ひどい場合には、自ら死を選んだり、人を殺してでも金を得ようとする。それほどの存在なのだ。
この気分は、いけない。
この気分に心が支配されてしまえば、いかに善良な私でも悪の道を歩むことになる。コンビニのあんパンを金を払わずにその場で食べ、警察の取り調べに対して、「ムシャムシャしてやった」と答える羽目に陥るのだ。
それだけは、阻止しなければならない。必要なのは、気分転換だ。気持ちの切り替えができない人間に未来はない。
私は、「気分転換」というキーワードでGoogleした。最初にヒットしたサイトを開いてみる。
1.泣ける映画を見る
私は映画を見て泣かない男である。「ニューシネマパラダイス」と「ある日どこかで」は危なかったが、それでも涙は出なかった。
2.親しい友人と話をする
私には友人はいない。おしゃべりも嫌いだ。そもそも金のない知り合いのせいで、こんな気分に陥ったのだ。これ以上、他者と関わるのはゴメンである。
3.動物と戯れる
動物は見るのは平気だが、触るのは嫌いだ。そもそもネコは馴れ馴れしいし、犬は騒がしい。動物と戯れて気分転換ができるほど、私はミュージカルな人間ではない。
4.髪を切る
ふざけるなあっ。私がハゲと知って、馬鹿にするかあっ。「頭が軽くなるというのは多くの人が実感できることかもしれませんね」だと? とっくに頭は軽いわいっ。
私は、そのサイトに見切りを付け、他の気分転換法を検索した。その内のひとつに、私は目をひかれた。
スキップをする?
その意外性に少し興味を持った。本文を読んでみる。
「あなたが最後にスキップをしたのは、いつのことですか? スキップをすれば、そのリズムと共に、あなたの心は軽やかになります。不安や怒りは、リズムと共に消えていきます。悩みなんて、スキップするだけで解消します。さあ、子供の頃にかえって、もう一度、スキップをしてみませんか」
特に、異議はなかった。
私は立ち上がり、スキップをしながら、仕事場をグルグルと回りだした。最初はぎこちなかったが、次第に調子が出て、子供の頃と同様、いや、それ以上に軽やかなスキップになっていった。
「楽しいじゃないか」と私はつぶやいた。
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