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暗くて静かで明るい朝

2022年6月27日(月)

アラームを掛けなくても、大体同じ時間に目が覚める。7月に近い日の午前11時は暑くて明るい。外は眩しさに加えて、車が走る音や虫か鳥の声が聞こえてきた。部屋は静かだった。

リビングに向かい冷蔵庫を開けると、白い皿にのった丸くて赤いものが目に入った。
トマトとチーズを交互に串に刺したもの。完熟の目玉焼き、いやベーコンエッグ。まだ皿は空いていた。

俺はふっと笑って、食パンをトースターに入れた。
串を一つ摘まむと、さっぱりとしておいしかった。

『カプレーゼに胡椒かけてみて。前のチーズの方がおいしくない?』

2022年6月19日(日)

ふと目を覚ますと、リビングに人の気配を感じた。3時19分。
リビングの扉を開けると、あいつが振り返って唇を軽く引いた。

初めて向かい合って飯を食べた。
温かい目玉焼きは初めてだった。
それから多分、メモがないのも初めてだろう。

バイトに出たあいつを見送ると、俺はもう一度ベッドに戻った。
次に目が覚めたとき、さっきの朝が夢か現実か分からなくなった。
腹は減っていない。

2022年6月10日(金)

いつものように部屋からリビングに入り、テーブルに目を向ける。しかし、そこには何もなかった。
いや、メモがある。

『暑くなったし冷蔵庫に入れておく。絶対に窓閉めて出て』

冷蔵庫を開けて、おにぎりと浅漬け、昨日からあるサバの味噌煮が一切れのった皿を取り出す。

いつもおにぎりの形が綺麗だ。白飯を食べたくない日はあっても、おにぎりはいつでも食べられる。
外は静かだったが、カーテンを開けると梅雨らしい雨が降っていた。

2022年5月26日(木)

目が覚めて体を起こすと、くわんと視界が揺れた。
丁度木曜日は授業がない。

しばらく目を閉じていたが、喉が渇いてリビングに向かった。
小さな皿にりんごが二切れのせられていた。
一切れだけを食べると、残りはラップをして冷蔵庫にしまう。

そういえば、俺もメモか何か残した方がいいよなとぼんやりと思った。

『常連のお客さんからもらったりんご』

2022年5月17日(火)

俺は火曜日が嫌いだ、今は。
卵焼きに浅漬けにおにぎり。それらを急ぎながらも丁寧に味わう。鍋の味噌汁を温める時間はなかった。
1限がある日はあいつのバイトはない。その分時間に余裕があるようだ。

『時間があったから出汁取ってみた。夜は天気荒れるらしいよ』

ほんと、ごめん。ごちそうさま。

2022年5月2日(月)

連休中、居酒屋は忙しい。くたくたになったうえに帰りが30分遅くなったせいで、3限に間に合うぎりぎりまで起きられなかった。

すっかり冷めて表面が硬くなったおにぎりを立ったまま食べる。作ってくれたあいつに申し訳ないと思っていると、中から鰹節が出てきた。へっと変な笑いがこみ上げた。

『今日は授業あるよ。4限は休講だって』

2022年4月23日(土)

あいつはほとんど毎日働いているらしい。早朝に出勤してそのまま大学に行って、授業がなければ午前中かもう少しの間働いているのだろう。俺が昼前に起きたときにあいつの姿はない。

ピザトーストの具材は玉葱、ピーマン、ベーコン。一口目で、伸びたチーズで上顎を火傷した。
同居を始めて約1か月、あいつとまともに話したのは数えられるほどだ。

大学2年の冬、俺はうんざりしていた。毎日がだらだらとしていて、適当に遊ぶことに飽きてしまった。
朝の授業で、瞼が重い友人たちの向こうのすっと前を向いたやつが目に入った。俺らとはタイプが違うし、輪郭がしっかりとしていた。
数週間後の同じ授業の後に、俺は一緒に住まないかと声をかけた。

『余ってもらったパン 行ってきます』

生活リズムが全く違うせいで同じ部屋に住んでいてもあまり会わないが、あいつと暮らすのは楽でいい。あいつは朝、俺は夜に働いている。

2022年4月20日(水)

妙に暗い朝だった。カーテンを開けても太陽の眩しさを感じることはなく、空には重たい雲が伸びていた。

綺麗な形のおにぎりと横に添えられたたくあん。鍋を開けるときのこが入った味噌汁がひんやりと揺れた。
味噌汁を温めながら、おにぎりを皿ごとレンジに入れる。

『昼には雨らしいから洗濯物は干さないでね。俺の分が乾燥機にあるから出すだけ頼む』

乾燥機はとっくに静かだった。

2022年4月4日(月)

朝起きると、と言っても時間は午前11時過ぎ。窓の向こうからは車が走る音や呑気な鳥の声が聞こえるが、部屋は静かだった。

目を細めながらリビングの扉を開けると、二人用のテーブルの上に皿が置いてあるのが目に入った。
白い皿を覗き込むと、トマトとチーズを交互に串に刺したものと、完熟の目玉焼きが控えめに並んでいた。皿の中心はぽっかりと空いている。
皿の横には何かの裏紙を使ったメモがあった。

『パン屋のバイトでいつも朝に出ます。自分のついでに朝ごはん作るから迷惑だったら言って。半熟派だったら悪いけど、いつ食べるか分からないから完熟にしておく』

俺はほう、というように少しだけ口角を上げると、キッチンへ向かい食パンを取り出した。


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