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Hotel Material(京都)での、イスラエル人宿泊拒否について―

京都市にあるHotel Materialが戦争犯罪を理由にイスラエル人観光客の宿泊拒否をしたことが、4日ほど前からイスラエル人のSNSなどで話題になり始め、ついに昨日には大手メディアYnetにも記事として取り上げられました。 

大手メディアYnetの記事

事の顛末

イスラエル人のアレックスさんが同ホテルをネット予約したところ、しばらくするとこんなメッセージが届いたようです。 

こちらHotel Material 支配人の、ジェロニモ・ゲレスです。
ご予約いただき、ありがとうございます。時間を取り、私たちのホテルを選んでいただいたことを、感謝しております。

しかしながら、現在イスラエル・パレスチナ間で起こっている紛争のなか、イスラエル国防軍が戦争犯罪をおこした可能性があるとの報道もあるため、私たちはイスラエル軍との関連が疑わられる方からの予約を受け付けることができない、という旨を残念ではありますがお伝えさせて頂きます。

国際人道法により禁じられている戦争行為の実行に加担していた、または現在でも加担している可能性がある方々に宿泊を提供することは、共犯者であるとの理解を生みかねないリスクがあるからです。 

(一時抜粋してあります)

この情報は日本への旅行に関するイスラエル人のFacebookグループや、日本に住むイスラエル人のネットワークを通して知られることとなり、そこから在京のイスラエル大使館の耳に入ることに。
そして事実確認を取った後、在日イスラエル大使館のギルアッド・コーヘン大使は日本国内の「関連当局(記事内の表現)」に対して問い合わせ、調査と適切な手段を取るよう求めたようです。
また同時に、同ホテルを運営する株式会社ルークスの沖潮社長に対し、

  • ホテルは宿泊時に軍歴を尋ねなかったということは、ホテルはユダヤ的な名前またはイスラエルという国籍のみを根拠に予約拒否を行った。これは明らかな差別であり、日本の旅館業法のガイドラインにも則っていない行為。

  • どのような形においても、差別は認められるものではない。

  • 京都にある同ホテルの支配人に対し、この件についての徹底的な調査行い、同従業員の解雇や謝罪、スタッフに対して反差別的な法律や方針を教育するという保証など、必要な処置をとるよう要求。

といった内容の、抗議文書を送りました。

イスラエル大使が送った、抗議文書。

また「旅行者のための日本」という、イスラエル人向けの日本旅行に関するFacebookグループの管理者の友人に話を聞いたところ、ここ3日ほどの間に数十人のイスラエル人が同ホテルに対しGoogleマップで低評価のコメントを書いているようですが、(ホテルまたはGoogleによって)全て削除されているとのことでした。

興味本位にHotel Materialのインスタグラムを見てみると… 最後の投稿は2022年7月なのですが、ほとんどのコメントがここ2日間ほどのもの。そして予想通りパレスチナの国旗をプロフィール画像にした海外からのアカウントから、大絶賛のコメントが殺到していました(写真下)。

もしかするとこのホテル、今後はイスラム教徒の旅行客で大人気になるかも知れませんね。
(イスラム教徒の方々が来るとなると、ホテルの1階にある背脂ベースのラーメンを出す「ラーメンディテール」は、どうにかした方が良いかも…なんて冗談は置いておいて)

考えられる背景+雑感

kbs-kyoto.co.jp より

今回の背景としては、もちろん(京都で解体・改修・不動産などをしている)沖潮社長が親パレスチナ支持者という可能性も否定は出来ませんが、ホテルの支配人と彼の国が関係しているのでは、というのが筆者の推測です。
注意:これはあくまでも、個人的な推測です

というのも支配人のジェロニモ・ゲレス氏はブラジル人で、現在ブラジルとイスラエルは外向的に(断交とまではいきませんが)かなり冷え切った関係にあります。
今年2月にブラジルのルーラ大統領がイスラエルをナチスになぞらえた発言を行い、それに対しイスラエルはブラジル大使を外務省に呼びホロコースト博物館の見学を強行。それに反発したルーラ大統領が大使を本国に召還していました。そして5月末には、召喚されていた在イスラエル大使が正式にイスラエルを去り、事実上「大使が空位の状態」になり新大使の任命も行われていません。

実はルーラ大統領は左派系でただでさえ親パレスチナ的傾向が強いうえ、前ボルソナーロ政権(2019~22)は右派系で大使館のエルサレム移転を明言するなど、親イスラエル色が強かったため、今回の両国間のゴタゴタにはそんなボルソナーロ政権時からの反動があるのかも知れません。

なぜ、このイスラエル・ブラジル間の外向的な軋轢が影響しているのでは、と考えられるかと言うと、宿泊拒否のタイミングです。

Booking.com より

予約サイト「Booking.com」を見ると、戦争が始まって半年が経った4月の段階では、イスラエル人がまだ宿泊できていたことが分かっています。
したがって6月になっての宿泊拒否には、5月末の上記のような外交劇からのブラジル政府の決定があるのでは、といった深読みが出来てしまうのです。

もちろんブラジル政府が(このような小規模な)ホテルに対し、営業方針を通達したといったことは絶対にあり得ません
しかしジェロニモ・ゲレス氏が母国政府の決定に呼応するような形で(彼自身がルーラ大統領の立場・決定に賛同し)、イスラエル人宿泊者の受け入れ拒否を決めた可能性は、もしかするとあるかも知れません。
 

そして雑感としてもう一つ気になったのは、イスラエルを取り扱う日本人記者が見せた、相変わらずのスタンスです。
あるイスラエル支持の方がX(旧Twitter)でこの件について投稿したいたのですが、するとこれに対し「差別を禁止する法律がないので、どうしようもないですね」と反応されていました。

旅館業法に抵触している可能性は置いておいて…
まず、法律がないのでどうしようもない時こそメディアの出番ではないのかなと…
そしてもうひとつは、このジャーナリストはもし同じようなことがパレスチナ人に起こった時―パレスチナ人旅行客に対し、日本のホテルが「テロ行為に関係している可能性」を理由に宿泊拒否を行い、騒ぎが起きた際―
はたして同じように、「どうしようもない」のツイート1つで終わらせていたでしょうか…
(恐らくそんなことはないでしょう)

最後に

とにかくまずはホテルが謝罪文を発表し、国籍による差別を撤廃することを願いたいと思います。
そしてここ最近、

  • 東京でのイスラエル人選手の柔道着強奪事件

  • 日本を含む極東で高まる反イスラエル(かねては反ユダヤ)的雰囲気の特集

  • 今回の宿泊拒否

と、日本に対するイメージがあまり良くないニュースが、イスラエルメディアでは続いています。
なので次は、日本に関する良いニュースが報じられ、それを見ることができればと思います。
イスラエル人のお友達が居られる方は、「あんなニュースもあったけど、日本は安全だよ」と声を掛けてあげて下さい。

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