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雪解け

純白の空からひらりひらりと小さな結晶が舞い落ちてくる。
俺は零度に近い気温の中、コートのポケットから携帯の画面を見て、一人ぼやいていた。
「全く2015年になって2ヶ月経ったのに、まだ車はガソリンを使って地を這っている。
俺の好きな映画だと、2015年は車は空を縦横無尽に飛んでいるぞ。」
大きく溜息をついた。
後ろから「先輩!! 置いて行きますよ。」車で待っていた森木が怒っていた。
俺は軽く手を振って車に乗り込んだ。
乗り込んだと同時に、森木から紙コップにホットの紅茶入れ差し出された。
森木は満面の笑みで「先輩はただでさえ不健康なのに、珈琲なんか飲むから最近よく寝れてないんでしょ!」医者でも無いのに警告してくる。
俺は溜息を吐きながら「分かりましたよ。お医者様」と皮肉を込めて言って紅茶を受け取った。
さぁ数時間のドライブの始まりだ。助手席に座ってるこの小娘は、森木美沙。
地方の田舎出の最年少女性刑事で、刑事総監のお気に入りらしい。
最近は俺と組んでる簡単に言えばキャンキャン吠える子犬だ。
なんで本庁勤めの俺らがわざわざ足を運んで、こんな雪山の屋敷に向かってるかというと。
日本五代財閥の一つ白斑財閥の所有物である屋敷にモノが置いてあった。
そこは近くにスキー場を経営していて、言わばホテルだ。
そこに今朝、屋敷の中庭に鹿の生首とすぐ脇に「報いを受けろ」と書かれた紙があったそうだ。しかも、紙の裏にはまだら模様の白い蛇の家紋のようなものが書かれていたらしい。
警視総監と屋敷の管理人小諸裕二は大学時代の友人らしく、でちょうど手の空いていた俺たちが駆り出されたって運びだ。
俺はそっとコートの内ポケットから、あの写真を見た。何回見てもあまりにも奇妙だ。
それのしたって、いつまで車を走らせても、一面銀世界がただひたすらに続く。
本庁勤めだから、雪が見れるのはあまりいやではないが、こうも視界に入るもの全てが雪だと憂鬱になるな。もうそろそろ例の屋敷にが見えてくるころだ。
もし出世コースから外れていないかったら、今頃本庁で暖房の効いた部屋で踏ん反りかえってたんだろうに。
あれは、俺に責任以外の何物でもでもない。あのことは、何処までも俺に蝕んでいく。
山の麓の開けた場所に屋敷は身構えていた。古くからあるんだろうなって知識がなくてもわかるくらいだ。
俺の見立てだと、日本の古くからある、いくつかの瓦屋根の建物何かを囲うように配置している。
車を屋敷近くに止め、そそくさと屋敷の正面玄関に向かった。
雪は足首くらいまでつもっている。ザクザクと音を立てて玄関に向かう、後ろの森木は人生初の雪らしく本当に子犬のようにはしゃいでいた。
やっとの思い出で玄関につき木製のドアを叩いた。すると、ドアを開いて若い男のスタッフが出迎えてきた。
紺色の上下の行灯袴を身長百七十くらいの髪の長い茶髪の男だ。
男は「どちら様でしょうか?」不思議そうな顔をして聞いてきた。
俺は警察手帳をだし「こんにちは、刑事の井上と森木です。今朝のことについて伺いに来ました。」そういういうと、男は慌ててお辞儀をしながら「惣社光です。こちらへどうぞ」と中に入れてもらえた。
屋敷は全体的に木造の建物それに全て廊下でつながっている。
屋敷の中央に中庭がある。俺たちは惣社の案内で、各建物について教えてもらった。
「井上様が入ってきた。玄関から見て中庭の向こうにある右の建物が客室ニ号館でございます。客室ニ号館の廊下を左にいくと食堂とスタッフの部屋がございます。見えてはおりませんが、食堂の後ろに倉庫がございます。玄関から廊下を右の突き当りに管理人夫婦の部屋がございます。最後に、反対に左の突き当りは客室一号館がございます。」
それにしても、不思議な配置の屋敷だ。
例のモノ置いてあった中庭だが、砂利と石灰石らしき一メートルくらいの大きな岩と
一本天に向かって伸びている松が植えてある。
よく見ると床の下を這って行けば通れるかも知れない。
松の葉には、空から、降ってくる美しい結晶が葉を着飾っていた。
まず、始めに今朝置いてあったモノのことを聞くため食堂に向かった。食堂に着くと、管理人、スタッフ、客が大きな和室を囲んで座っていた。
俺は「すみません。お待たせ致しました。刑事の井上と森木です。皆様、ご自分のことをお話ししてください。」と言う。
一番左奥に座っていた男が立ち上がった。口を開いた「えっと、私はこの屋敷の管理人の小諸裕二です。隣座っているのは、妻の清美です。」
小諸裕二、50歳で白髪のスポーツ刈り、低身長細身で優しそうな顔をしている。
小諸清美、49歳で透明感のあるショートカット、少しふっくらしている。
この事態にイラつきが隠せず、眉間にしわが寄っている。
次に、清美の隣に座っていた男が話した。「私はスタッフリーダーの塩尻作之助です。隣から、サブリーダーの上田仁です。上田の隣の女性が曾根原優梨奈です。最後に、お2人を玄関迎えに行った。惣社光です。」
塩尻作之助、22歳で坊主頭、高身長でモデルみたいな体系だ。眠そうな顔をしている。
上田仁、塩尻と同じ22歳でマッシュルームに酷似した頭だ。この人もイラつき、机を指でリズムを刻んでいる。
曾根原優梨奈、19歳で茶髪で肩まで髪が伸びている。最近の流行なのか、しっかりした目つき。この事態に少し動揺してるようだ。
惣社光、18歳で身長百七十くらいの髪の長い茶髪。いわゆる童顔、この事態にはあまり興味を示していない。
左側の紹介は終わった。
右側の一番奥に座っていた男が口を開いた「次は私かな?あ、犀川竜介です。客室一号館に泊まっています。私はスキーが好きなので。有休を使って来ました。」
犀川の隣の男「鼠穴総司です。おいらも客室一号館に泊まっています。ここには雪山の取材できています。」
鼠穴の隣の男女「舞田智幸です。隣が妻の紀美です。私達も有休を使って旅行に来ました。」最後に、若い男女「深志至貴です。隣が松代芽衣です。えっと僕たちは、同じ大学の写真サークルです。同じサークル先輩からこの地域の旅館とかで使えるチケットの余りをいただいてきました。」犀川竜介、46歳で低身長顔がゲッソリしている。顔色も悪くあまりこの事態よりも、体調の方が優先順位が高そうだ。
鼠穴総司、35歳でネズミみたいに目が細く、前歯がでかくて猫背で細い。
早く部屋に戻りたいのか、首からぶら下げてるカメラのボタンをいじってるいる。
舞田智幸、26歳で髪をかき上げている。服を着ていてもわかるくらいの筋肉質。人種を間違えるくらいの肌が黒い。
舞田紀美、25歳で金髪混じりのボブ、日本人離れの堀の深い顔。旦那の事が怖いのかびく付いている。
深志至貴、20歳で170越えの背丈それにたわしみたいな髪の毛。眉毛が鉛筆で書いた線くらい細い、あくびを頻繫にしている。
松代芽衣、深志と同じ20歳、150㎝後半で艶のある長い黒髪。いつも萩原朔太郎の小説
「月に吠える」を持っている。
とりあえず、この場のいる人のことは分かった。
俺はコートの内ポケットから、写真を取り出しながら話した「皆さんこの写真に映ってるモノについてなんでもいいです、気になった事や不可思議のことをあればお願いいたします。」
皆、あまりいい反応はしないよな。
鼠穴がはっと思い出したかのように話し出した。「そういえばこの地方には大蛇納言って妖怪がいるだろ。あ、あいつだ!!」鼠穴が言い切る前にスタッフの惣社が言い返した「いや、それは違いますよ。第一妖怪って誰が信じるんですか」
しかしここで食いついたのが客の松代だった「大蛇納言が復讐する前にするやり方と同じなのよ!なら、大蛇納言よ!」しびれを切らした俺が止めに入った。「まぁまぁ、その大蛇納言がやったっていう可能性が高いんですね?」手を広げながら言った。
俺は続けた「とりあえず、一旦解散します。また、私たちがお話を聞きにお部屋に伺います。」と言い放って皆を部屋に返した。
全員がぞろぞろ食堂から出ていく、森木俺の顔を覗くように質問してきた「先輩、さっきの妖怪の話ほんとに信じるんですか?」
俺は思わず笑ってしまった。「いや、そんな信じるわけないないよ。第一あれをやったのがその妖怪だったら俺たちは手も足もでないだろ」俺が言い終わったころには、森木は怒って小諸夫婦の部屋に向かっていた。
まさか、あいつまさか信じてたのか?とりあえず、追いかけた。
小諸夫婦の部屋前に来た。昔の家によくある、障子が均等に桝に貼ってある引き戸。
引き戸の向こう側から男女の大声が、障子を震わせていた。
部屋の中で夫婦喧嘩しているみたいだ。「だいたい、何でこんな些細な事で警察なんか呼んだの?あんなのただのいたずらでしょ?」清美さんが声を荒立てて言った。
「もし、大蛇納言の仕業だったらどうするんだよ。松代さんも言っていただろう、復讐する前のやり方だと。やっぱりあの事がばれたんだ。」裕二さんは相当怯ええているようだ。
とりあえず、扉をノックした。扉が開いた中から奥さんの清美さんが開けてくれたが、
「何も言うことなんかないわ」と言われ、ピシッと扉を閉めてしまった。
俺たちは諦めて食堂のニ階にあるスタッフ室に向かった。
向かう途中でふと建物真ん中にある中庭を見た。
雪が降っていても、首から流れた血の跡があるはずなのに。
砂利の上は透明度のある雪が一面に積もっているだけ。
少し立ち止まって考え込んでいると「先輩、鹿の生首あったところに血の跡無いですね。」森木がボソッと言った。俺は頷いて「お前もそう思うよな。本当に鹿の生首だったのか?」すると、コートのポケットから携帯電話がけたたましく鳴り響く。携帯の画面には警視総監と、俺は慌てて電話に出ると「井上くんおつかれどうだい解決できそうか?」全くこの狸はと思ったが思いを嚙み殺しながら「お疲れ様です。何とも言えませんね、第一まだ何の事件も起きていないのでね。そろそろ地元の警察庁に戻るとこです。」いうと警視総監は「そうか何も無い事が一番だな」言い切ると電話を切られた。
俺は軽く舌打ちをして、そのままスタッフ室に向かった。
スタッフ室について扉をノックして上田がでた。「どうぞ中にお入りください。」
スタッフ室は、八畳くらいの和室が二つ壁で仕切られてそれぞれに扉が付いている。
左が上伊と諏訪の部屋右が上田と塩尻の部屋みたいだ。上伊と諏訪と塩尻はまだ仕事が残っているからいなかった。上田と塩尻の部屋の右の壁には蛇が木に絡まってる長方形ポスターが飾ってあった。窓辺には壁から壁にピッタリハマっている木の机が置いてあった。窓ははめごろしで取り外しは無理だな。
上田が言うには「最近塩尻がずっと蛇について調べては不敵な笑みを浮かべるんです。あの壁のポスターだってあいつのです。あいつ絶対蛇に取りつかれてるんですよ。」とかなり怯えていた。俺はメモを取りながら「そうですか昨日の夜何時ごろに寝ましたか?それと、不審なモノ音を聞いてませんか?」上田は「えっと昨日は十ニ時には寝たと思います。塩尻は明日の朝ご飯の仕込みがあるとか言っていませんでした。見てないからあれですけど、曾根原ちゃんと惣社くんも同じ時間に{おやすみ}と言ってる声が聞こえたので二人も寝てたと思いますよ。特に物音は聞いて無いです。」と答えた俺はメモから目線を外して上田を見ながら「最後に、大蛇納言について教えてください。」上田はびくびくしながら答えた
「そ、そうですね。大蛇納言は戦後からこの土地で頻繫に見かけられている妖怪です。
噂だと、恨んでいた相手の首はね、はねた首に蛇に嚙まれた様な嚙み後を付けるんです。
これも噂なんですけど、白斑の一族の誰かが自殺した時に白斑を恨んでいて、その怨霊だ何て言われてますよ。」
何とも言えない話だな、子供でも作れそうなほど簡単な作り話だ。
「分かりました。ご協力感謝します。」そう言って俺たちは部屋を出て、客室1号館に向かった。
客室1号館は犀川と鼠穴が泊まっている。部屋に向かってる時の俺の本心ははやく帰ってホテルに戻りたい。ただそれだけだった。
部屋についた。十六畳くらいの部屋が二つそれに露天風呂もついてるときたこれは凄いな。
右が犀川の部屋で左が鼠穴の部屋、ひとまず、犀川の部屋を尋ねた。
犀川は常に顔色の悪い病弱そうな男。机の上に円柱型の薬をいれが見えた。
犀川にも先ほど上田した質問聞いた。「私は、昨日九時に寝たんですけど、深夜一時くらいに会社の上司から電話があり、結局は深夜二時くらいに寝ました。特に物音は聞いていませんね。」お礼を言った。
次に、鼠穴の部屋を訪れた。鼠穴は、本当にネズミみたいに前歯がでかくて猫背で、いつも一眼レフカメラを大事そうに持ってる奴だ。
鼠穴にも同じ質問してみた「おいらは、夜雑誌の来月号の原稿を書いてました。なので、寝たのは明け方四時くらいにだったと思います。うーん物音か。ないですな。」鼠穴にもお礼を言い部屋を後にして次に、客室ニ号館に行った。先ほどの一号館とほぼ変わらない部屋だった。
そこの一人で寝るか二人で寝るかくらいの違いだ。
右が舞田夫婦の部屋で左が深志と松代の部屋だ。とりあえず、舞田夫婦の部屋を訪れた。
舞田夫婦は旦那は浅黒くて筋骨隆々な感じで、奥さんは如何にもヨガの先生みたいな細くて無添加のものしか食べてないような感じだ。
二人は夜の十時には布団に入っていたそうだ。物音もこれと言って気になるものはないみたいだ。
次に、深志と松代の部屋に訪れた。深志は、髪がチリチリで背が高いモテそうな奴だ。松代は、いつも本を持ってる文学少女って感じの黒髪で綺麗な女の子だ。
二人は、昨日は深夜三時くらいまで持ってきた携帯型ゲームで盛り上がっていたそうだ。
結局寝たのは明け方五時くらいみたいだ。特に物音は聞いてない。俺たちは、二人にお礼を言い部屋を後にした。
まったくこうなると本当に妖怪の仕業になってしまうな、それか塩尻か。
今すべき事は、塩尻に話を聞くことだ。ちょうど通りがかった塩尻に話を聞いた。
塩尻は、髪が目くらいまである黒縁眼鏡の背の高い男だ。
塩尻が言うには「確かに、昨日は明日の朝ご飯仕込みで起きてましたけど、深夜三時には作業を終えて寝ましたよ。まさか、私を疑ってるんですか?冗談よしてくださいよ。」と笑って答えそのまま立ち去って行った。
確かに、塩尻がこんな事する動機が無い。俺は諦めて車に戻ろうと玄関に向かうと小諸裕二が「刑事さんここ数日は帰れないですよ」と声をかけてきた。確かに、この地域は雪がひどいからなホワイトアウトに類似現象が起こって車は運転できないよな。
しかし、ここに泊まるわけにもいかないよな。そっとコートのポケットから携帯を取り出して、時間を見るともう午後六時だった。俺たちは正午くらいに、ここに着いてからもうそんなにたったのか。
すると、小諸は「もしよろしければ、お客様のお食事後でしたら食堂に予備の布団引いて泊まれるよういたしますよ?」
俺は少し返答に戸惑っていたとここで森木が「本当ですか、じゃあお言葉に甘えて」と嬉しそうに答えた。
仕方ないこのまま帰られる訳でもないとお願いした。その少ししてから食堂で海鮮丼やら、蒸し野菜の盛り合わせを腹いっぱい食べた。
一応仕事で来ているからノンアルコールビールで我慢した。客の皆さんはあまりいい顔してなく、食べてられてもいなかった無理もないな。
客が部屋に戻って、スタッフがすぐさま布団を引いてくれた。俺は満腹なのもあるのか少し横になっていたら、眠りついた。
確実に夢なんだろう、どこかの裏路地都心だろう、でも雨が降ってるスーツが濡れてる。手も濡れてる、髪も濡れてる。
ここはどこだ。ジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。
画面を見ると、2008年3月8日12時22分。
何かを思い出した俺は走って表に向かった。
数多の建物の角を曲がって光のさすほうにいく。
そこは歩行者天国になっている所に出た。
軒並み建っているビル群、しかもほぼ全てにゲームやビデオの広告が付いている。
絶対にそうだここは秋葉原となると。
シャツめくって時計に目をやると、十ニ時ニ十九分五十秒。
後ろから声をかけられた「先輩!あいつ現れませんね」
どうしても顔が思い出せない顔がぼやけてる。
この後輩は絶対に知っているのに。
こいつに俺は何かあるはずだ。
少し遠くから、腹に響く重音と断末魔が響いた。
俺は顔が思い出せない後輩に「行くぞ!あいつだ。奴に違いない」そういうと音のなったほうに走り出した。
交差点の付近の中で一番大きいと思える建物に、2tトラックが頭から突っ込んでいた。
トラックのフロント部分はペシャンコになっているだろう。
周りにいた人たちが逃げおおせる中に運転手らしき人が降りてきた。
運転手は両手でナイフを持っていた。完全に目が血走っている。
「おい、手をあげろ周りは包囲されている無駄だ。あきらめろ!!」と言い放ち、後輩に手錠をかけろと指示を出した。
俺は男に銃を向けたまま、携帯電話で本庁に電話救急車と応援を頼んでいた。住所があまり分からなかった。
周りを見渡して街灯の住所を探していると、後輩が倒れた。
運転手が馬乗りになって、奇声を上げながら持っていたナイフで、奴を切り刻んでいる。
ほんの一瞬だけ奴の顔が思い出せた。
だが、それよりも今は目の前の運転手を撃ち殺す事が重要だと、銃爪に指をかけた。
後は指に少し力を入れて、銃爪を弾くだけだと思った刹那、携帯電話が煩わしい鳴って起きた。
同期の大稲からだ。電話に出ると「よぉ久しぶりだな。なぁ、今日あいつの命日だぜ。今夜同期みんなで集まるんだけどこれそうか?」
俺は少し考えてから「すまん、今訳あって地方の山の中なんだ。俺の分もみんなで楽しんどいてくれ」と言い残して電話を切った。
そうかあの後輩はと思う間もなく、叫び声が聞こえた。
森木を起こして急いで声のするほうに走った。
客室一号館の廊下でスタッフの上田が腰を抜かしていた。「どうした!何があった!」声をかけても上田は何も言えずにただ鼠穴の部屋を指さすだけだった。
森木と目配せをして銃を片手に、恐る恐る鼠穴の部屋に入る。
入ってすぐ瑠璃色の掛布団と純白のシーツそれと、合わせ鏡のような白い枕のうえに鼠穴の生首から鮮血が純白のシーツに滲んでいる。
まったく気味の悪い事だが、鼠穴は天井に向きながら笑っていやがる。
首の下のほうには、大蛇納言のやり方と同じの蛇に嚙まれた様な嚙み後。布団を引っぺがしても身体は無いその代わりに白い蛇がまだら模様で描かれている家紋の紙を見つけた。
その後トイレ、クローゼット全て見たが、誰もいないしかも、あいつの大事そうに持っていた一眼レフカメラが無い。さらに、窓は閉じている。完全な密室殺人か大蛇納言か。
一方、吹雪の中影が言い争ってる。片割れの影「本当に奴は殺す必要があった?計画の歯車が崩れる。」もう一方の影「大丈夫、心配ない。絶対にね」
場所は変わって屋敷内の井上は、本部に電話ししていた。
だが、「この雪じゃ、当分はいけないよ」と雀の涙の希望も残されなかった。
仕方ない、ひとまず全員を食堂に呼び出し各部屋を俺たちが捜査すると宣言した。
管理人室を見終わる直前に、森木が「先輩!これに何かを飾っていたんですかね?」なんのことを言ってるのか分からなかった。
森木が指差す先には、トイレに行く廊下の壁に真っ黒の額縁のようなものがあった。
確かに、額の真ん中に、何かを支えるためのボルトが出ている。
考えている暇は無い。まだ犯人が近くにいる可能性が高い。
その後も各部屋を見たが、特にこれといったモノはなく、全員に謝罪とお願いをした。「皆様のお部屋を調べましたが特に異常はありませんでした。お時間をいただきすみません。ですが、ここで一つお願いがります。本日中は、何処にもいかないで下さい。スキー場にも行かないでください。なるべくお部屋にいてください。」そう言うと、みんな頷きトボトボと部屋に帰っていたが、舞田紀美操り人形の糸でも切れたように倒れた。
これに関しては、仕方ないとしか言いようがないな。俺と旦那の智幸が肩を貸して部屋まで送り届けた。
客室ニ号館から出てきた、俺に仁王立ち待ち構えていた森木が「そう言えば、私達倉庫って調べてないですよね。一応調べるべきじゃないですか?」それには一理ある。
食堂の裏にあって倉庫兼スタッフの風呂だ。
倉庫は薄暗いしかも、大量の資料が山積みになっていて奥にも棚があるがそこにはもう何年も使われていないだろう埃の被った本がずらりだ。
電気もランタンが天井から点々とあるだけ、嫌な場所だ。
とりあえず、手間の山積みの資料をあさるがどれも経費で買ったモノのレシートばかりで関係はなさそうだ。
数時間かけて資料を見終わって棚の本に取り掛かっていると、筆記体で{白斑法衣日記}と記されている。
何も考えずに日記を開くと、中からぱさっと音を立てて四つ折り紙が落ちてきた。
開くと白斑の親戚の家系図といったとこかしかし、その紙は下のほうが破られていた。
そこには白い蛇がまだら模様で描かれている家紋が大きく書いてあった。
森木に家系図に書かれている名前を書き出すように指示した。
俺は日記をパラパラとみた気になったのが最後ページだ。
{私には、もうすぐそこまで迎えの足音が聞こえる。私の遺産は親戚で均等に分けるはずだが、小諸はきっと遺言道理にはしないだろう。それが実現されていたら、親戚一同には申し訳ない頭が上がらない。
どうにかしたいが私には跡継ぎもいないまったく悲しいが月まで届きそうだ。}
で終わっていた、見るからに弱々しい字だった。小諸は遺産を独り占めしたのか?
すると、家系図を調べていた森木が「これに書いてある家系図だと、もし諏訪と上伊の孫が入れ歯年齢二十~十七歳ですよ。この屋敷にいる、二十未満ってスタッフの曾根原に惣社にお客の深志と松代ですよ。」おっとそうなると今名前が上がった四人が怪しくなるわけだ。
しかし、こんな手の込んだ殺人を考えることは可能なのか?
俺は口を開いた「四人まで絞ったが別れてつくのも危ないな今日の夜は食堂に四人を寝かせよう。そうすれば犯人は動きたくても刑事がいて、うごけまい。」森木はあまり乗り気ではなかったが、これ以外の案がなく渋々了承した。シャツをめくりアナログ時計を見ると、午後六時を指していた。
急がないともう少ししたら、夕食が終わる。食堂まで急いだ。
食堂につく頃にはちょうど夕食が終わった頃だった、そこで四人を引き止め先程の事を話した。
深志と松代は「いや、嫌ですよ。こんな危ないところで食堂なんか格好の的ですよ。」
ごもっともの意見だしかし、ここで断られると困る。
俺は敢えて強気に「じゃあ何かここにいれない問題でもあるんですか?」二人は諦めたようだった。
曾根原と惣社はあっさりと承諾だが、「私たちは明日の朝ご飯支度もあるので、遅くなりますよ。」すぐ「ああ、問題ない仕事はしてください。あくまでも、寝る時だけです。」と返した。
ひとまず荷物などを持って来てもらった。
時計の針が九時を回るころ深志、松代は風呂に入って行った、曾根原、惣社も仕事をしに客室に向かった。その間も俺と森木は廊下を巡回していた。
何事もなく深志と松代は十一時には寝た。曾根原も惣佐も午前三時には寝ていた。
一つ初めて知ったのは、管理人の二人もスタッフ用の風呂使うことだ。
旦那の方は見たが奥さんは入らないのだろうか?
特に問題もなく朝を迎えた。
朝、雪が弱まったの知り車の無線を使おうと玄関を出た。
玄関の目と鼻の先に見覚えのある女性が倒れていた。
あれは間違いない、小諸清美だ。
彼女の首には一周する切り傷があり、首元には蛇に嚙まれた様な後があった。
不自然なのは、白装束のような服を着せられるているところ、それに硬直した指にまた例の斑の蛇が書いてある紙が挟まっていた。
紙には{自分でも気づいてるはずだ。次はお前だ}と書かれていた。
だが、昨日の夜は吹雪だった。
外に大の大人が自分で行くわけもない、犯人が運んだとしても視界もまともに取れない状態で大人一人を運ぶのは不可能に近いな。
俺はすぐ屋敷に引き返し、森木に報告して車のトランクに入ってるブルーシートをかけとくように言った。
俺は珈琲をもらい、事件を整理して行くと不可思議な点が幾つか出てきた。
まず、何で鹿の生首を置いたのか。次に、鼠穴が殺された理由だ。最後に、どうやって外に被害者を運んだのか。
ここで俺は何かを思い出し、倉庫に向かった。家系図をもう一度見ていると気づいてしまった。大蛇納言の正体に、しかし、全員の前でいうことでは無い。
小諸裕二と上田と塩尻と曾根原と惣社をスタッフの部屋の上田の部屋に集めた。
五人は上田と塩尻の狭い部屋に座った。小諸には妻の死はまだ伝えていない。伝えた途端にどんな行動に出るかわからないからだ。
俺は五人の前に立ち「これからこの大蛇納言になりすました犯人を暴きます。」と言い切った。
一同ざわめいた。惣社が「僕たちの中に犯人がいるって言いうんですか?」と聞いてきた。何も言わずにうなずいた。
続けた「ひとまず、全ての犯行を解いていきます。まず、初めの鹿の生首のについて、あれは生首ではありません。あれはただの標本です。
犯人は、管理人の部屋にあった標本を管理人お二人がご飯を食べに食堂に向かった時に盗みだしました。そして、みんなが寝静まった頃に中庭に紙と標本を置き中庭の下のすき間を這いつくばって通って、部屋に戻りました。
次に、鼠穴のはもっと単純です。これは推測でしょうけど、鼠穴は一回目の犯行のあなたたちを写真に収めていたんでしょう。彼はジャーナリストだしここの親族関係も調べていたんでしょう。それで犯人をゆすったから殺された。
隣の犀川は抗精神病薬を服用している、それを睡眠薬とすり替えるなんて犯人なら難なくできますもんね。
夜中に鼠穴を殺人し首以外を遺棄した。多分あまり遠くまで捨てには行け無いので、屋敷付近のどこかに埋めてあるでしょう。
最後に、小諸清美は風呂場で待ち伏せしていた。
犯人に後ろから鈍器で後頭部を殴打され死亡、それから清美に白装束を着せ、自分の身体に片方のロープを結び反対を倉庫の一番端の柱に結び、それで清美を玄関まで運んだ。
このロープは自分が屋敷戻るとき猛吹雪で視界が取れなくても、ロープを伝って行けば帰れる。私の推理間違えていますか?」
曾根原が辛口で反論した。「いくら何でもそれは、無理じゃないですか。ロープをくくっていたとしても死体を担いでいくなんて無理ですよ。第一こんな広い屋敷で」
俺は思わず笑ってしまった。「そうですよね。無理かもしれないですね。ですが、何故曾根原さんは犯人が担いで死体を運んだのを知ってるんです?私はただ運んだと具体的な運び方は言ってませんよ。」
曾根原ははっと口を抑える。
続けて「言い忘れていました。この犯人は一人ではない、二人なんです。そうでしょう曾根原さん惣社さん」三人の目線が一気に二人に集まった。
小諸は細い腕で必死に惣社の胸ぐらを掴み泣きながら嘆いていた「なんでだよ?一体何が目的なんだよ?」小諸はそのまま泣き崩れた。
俺は最後に二人秘密も話した。「お二人は、曾根原でも惣社でもないですよね?
あなたたちは、上伊と諏訪が本当の名前だ!」流石にこれにには二人も観念したようだ。
上伊優梨奈がポツリと事の経緯を話し始めた。「元々私達、小諸、上伊、諏訪、曾根原、惣社は白斑の親戚で一心同体だった。しかし、先代白斑法衣が死去し遺産を小諸が独り占めし、もとからあまり好きでなかった私たちを一族から外して家業も取り上げられた。
おかげで私の父は私が七歳の時に失踪したそこからは母が女手一つで育てていれた。
その母も病気で入院中で次の手術で治るかも知れないが、手術費用が高すぎて学生の私には払えないだから、小諸が経営しているこの屋敷に忍びこんだ。遺産のありかを聞いて母の手術費にするために」上伊は泣きながら語った。
それに続くように諏訪光も話し始めた「僕の家も仕事を取られて僕が五歳の時に家族で無理心中した。
僕は子供だったのもあって、七輪の煙が身体に回るのが遅くて、命からがら家から出た。でも、もう他のみんなは動かなかった。父が握りしめていた遺書を読んで分かった。
小諸が裏切ったということを、それに僕は許せなかった。
僕の家族をめちゃくちゃにしてそのくせ自分は、吞気に暮らしていやがる。
許せなかった、15年の恨みを晴らすために優梨奈ちゃんと計画を立てていたんだ。」
小諸はただ頭を畳にめり込むくらいに下げて謝っていた。外から車の止まる音が聞こえた
「ほら、二人とも立って署に行こうか」と言い上伊に手錠をかけようとした。
その時、上伊は隠し持っていた注射を出し小諸を羽交い締めにした。「近づくな!光だから、鼠穴は殺すべきじゃなかった。この注射には蛇の猛毒が入ってる。
このまま警察に捕まるくらいなら、こいつにも罰を死して償わせる。」そう言い放った時の彼女は、蛇のようだった。鋭い眼光に自分以外を全て敵対し、人間とは思えない冷たい表情。しかし、憎み切れないところはある。
森木が取り押さえようと後ろから近づいたのに気付き、捕まる前に小諸の首に毒を半分ほど注射し、残りを自分の首にも打った。
すぐに二人は口から泡を吐き倒れ、痙攣して動かなくなった。
俺も森木も必死に解毒処理をしたが、二人共目を開けることはなかった。
諏訪は何も言わずただ突っ立ったまま、大人しく手錠をかけられパトカーに乗せられた。
結局は、死体が四体も出てしまった、しかも犯人の一人が死亡という嫌な幕引きとなった。
俺たちは、現場を地元警察に任せて帰ろうした。
すると森木が「先輩、なんであの二人が上伊と諏訪のだって分かったんですか? しかも、何で二人だと思ったんですか?」質問してきた。
ここでこの事件は終わらせたほうがいいと思った。俺は「そうだな。倉庫の家系図は破られていたが、白斑法衣の日記の最初のページに破られていないのがあった。
それに曾根原も惣佐も小諸裕二と同じ代で終わっている。唯一残っているのが上伊と諏訪だったんだ。
それと、犯人が複数人だと思ったのは、二つだ。
一つは、一人で犯行をして同じ部屋の人間気付かれずにするなんて不可能に近い。
二つは、二人の部屋にシフト表があって、あの二人の夜のシフトが丸被りだったからだ。」
これには森木も納得し、車に乗り込んだ。
空は噓みたいな青空だ。
俺は遠くを見つめながら「森木、少し俺七年前の話を聞いてくれ」と言い車のエンジンかけた。
後日談だが、鼠穴の身体も一眼レフも雪の中から見つかった。
上伊の母親に多額の現金が匿名で振り込まれた。
逮捕された諏訪だが、裁判では諏訪のこれまでのすさんでしまった人生を語った。裁判官に情が移ったのか、今回はあまりにも特殊なため無罪となった。この事は、雑誌メディアで取り上げられた。
その後、諏訪には証人保護プログラムが適用され、また別の名前で新しい生活を送っているそうだ。
俺は彼に手紙を書いたこれからの人生の事や困ったら頼ってくれなど、手紙の最後に文豪、萩原朔太郎の言葉を記載した。
{人は新しく生きるために、たえず告別せねばならない。
すべての古き親しき知己から、環境から、思想から、習慣から。
懺悔者の背後には美麗な極光がある}
この言葉が彼に届いて欲しいと願うばかりだ。


甲骨仁


前作に出てきた刑事2人を主人公とした物語です。皆様の暇つぶしになっていただけましたか? よろしければ感想をお願いします。


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