(デザイン⑭ 最終章)会計におけるデザイン ~デザインの役割
デザインの役割
イルミネートの言葉にはイルミネートでふれたように、“本質に光を射す” と “目的地までの道を照らす” の二つの役割がある。二つ目の役割の「目的地までの道を照らす」が、経営において重要になる。それは、目的に会社の存在価値があるから。
このイルミネートの役割からデザインの役割を考えると、「存在価値を会計視点から明文化する」になってくる。「光を射す」が “会計視点” で、「道を照らす」が “明文化する” にあたる。
会社は創りたい未来の像を、目的の言葉の中に想い込めている。想い込めた目的を達成するために、理念やミッションを掲げている。
掲げた理念やミッションは目的に向かう行動を示し、目的を達成するまでの道のりを表している。会社はこの道を進み、活動していく。時には、道に迷い、道を間違え、そして道そのものを変えながら、目的に向かっていく。
「なぜ道を進んでいくと、道に迷ったりするのか。」
その理由は四つ。足元ばかり見て目的地を見失う、目的地ばかり見て歩いている道を見ていない、自分が歩いている道が絶対に正しいと思い込む、そして道そのものを見ずに好き勝手に歩いていく。
目的地までの道が照らされていれば、間違えることも迷うこともなく、夜空にある北極星を目指すように、光の射し示す場所に向かって歩くことができる。道を間違えたり迷ったりしても、光を頼りに元の道に戻ることもできる。
進むべき道が照らされていれば、安心して目的地に向かうことができる。
私の考える道は文脈で、文脈づくりは道づくりへとつながっていく。「大きな文脈から意味を探す」「価値を文脈で表現する」、ここまでふれた文脈に関する文章である。文脈づくりとは、「道の始まりの “意味” から “価値” を示すことで、目的地までの道をつくること」。
道が見えなくなっても、文脈を感じることでみえてくる。見えていないものがみえてくることで、不安が安心へと変わる。不安とは、みえていない何かから感じるもの。
「みえるように道を照らすことで安心な気持ちになる」、これがデザインの役割でもある。
会計からのブランディング
私はこの数年、「どのようにすれば気づきを行動に移すことができるのか」について研究してきた。「気づいたことを行動に移すことができるならば、社会はよりよくなる」という信念のもと研究をしてきた。
2016年、あるアーティストの言葉から研究テーマの答えが突然顕れた。答えは、「安心安全があれば」。
続いて、「何があれば安心安全になれるのか」について研究をした。答えは、「共感と信頼がそこにあれば」。
さらに、「どうすれば共感や信頼を得られるか」について研究を続けた。答えは、「共感は美しさから、信頼は正しさから得られる」。
そう、イルミネートで示した “正しさと美しさ” は、この研究からきている。
「経営における美しさや正しさをどう表すか。」
経営における美しさは、理想とする “目的” や会社の “存在価値”、そして理念やミッションの “言葉” の中にある。主観的な想いの中に、美しさはある。
対して、経営における正しさは、 “結果(業績)” が正しいかではなく、理念やミッションに基づいた正しい “経営活動(行動)” をしているかにある。この正しさを客観的な情報から示せると考える。
しかし、理念やミッションに基づいた経営活動をしてきたかどうかという行動の正しさを、会社は示さない。会社が示すのは、正しさを示さない会計情報。
デザインからみた会計の問題でもふれたが、示される会計情報からは信用は生まれない。どうすれば行動の正しさを示せるかについて思索した。
私たちは美しい言葉に共感し、正しい行動に信頼をおく。正しい行動とは、美しい言葉を実現するために行動したこと。
従来のブランディングは美しい言葉で表現していたが、「美しい言葉の実現に向けて、実行していること(正しい行動)を示すことができれば、ブランディングを強化できるのではないか」と気づいた。
「正しい行動(実現に向けて、実行していること)を何で示すか」と考えた時に浮かんだのが、会計だった。会計は会社の経営を表したもので、本来は正しく示さなければならない。しかし実際は、不正や粉飾などが起きているように、正しく示されていない。
会計とは、本来会社の正しさを示すツールである。会計の語源を遡っていく中で、“計” という漢字には、「言を正確にする」という意味があることを知った。
「言を正確にする」、この言葉から「言ったこと(目的・理念など)を正しく行動する」という意味に受けとめて、正しさをみることを “会計視点” と呼ぶことにした。
「美しい目的の実現性と理念やミッションの実行性を会計視点でみせる」、これがブランディングになる。ブランディングという言葉に意識が向くと、今まで気づかなかったことがみえてきた。
価値の評価が、ブランディングにつながっている。数字で会社の価値を評価してきたから、不正や粉飾などが起きてきた。不正や粉飾などが起きないようにするためにも、数字だけではない抽象的な指標(美しさと正しさ)での評価を通して、会社の価値とは何かを問い直す必要がある。
道を照らす
道を一方からだけ照らすと、照らされた向こう側は明るくみえるが、照らしたこちら側は暗くてみえない。道を照らすことは目的ではなく(手段にすぎない)、道がみえることが目的。
正しさと美しさの両側から、道を照らしていく。照らす灯りを、次のようにまとめてみた。両側からの灯りの強さが調和されず、一方の灯りが強すぎると道はみえにくくなる。多くの会社はどちらかに偏った経営をしていて、ここに大きな経営課題がある。道の照らし方がデザインに求められる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?