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エッセイ:大ちゃんは○○である49

動き始めた電車の中で、僕はただただ景色のない窓の外を見つめるばかりだった。
背中にびんびんびんびん感じる何十という視線。
もしかしたらそう思い込んでいただけで、
僕に視線を向けていた人なんてほとんどいなかったかもしれない。
しれないが、自意識過剰と言われても仕方ないほどに、
同じ車両の人達全員が僕に釘付けになっているとその時は思った。
『なんだよ、こいつ。発車直前に大好きだからとか言っちゃってんじゃねーよ。恥ずかしい奴。』
とか思われたりしちゃってんのかなーとか。
『ヤバっ。見てるこっちが恥ずかしいわ。
乗りこむ前にホームで言えよホームで。』
なんて蔑まれちゃってんのかなーとか。
隣の車両に移動してしまえば、次の駅に到着するまでの恥ずかしさは消えただろうに
なぜだかその時の僕はその場を動くことができなかった。
周りに音声さんがいて、照明さんがいて、カメラマンさんがいて、監督がいて等々の状況ではないゲリラ的な撮影レッスン。
これは本当にメンタルが鍛えられた。
「つぎはぁー、蔵前ぇー蔵前ぇー」
の車掌のアナウンスがどれほど嬉しかったことか。
電車を降りた時、同じ車両から降りてくる人達の好奇の視線が痛かった。

つづく

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