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古い日本映画を見て悲しくなる事。

古い日本映画をわりと多く見ている方だと思う。

映画会社によっても違いはあるけど、昔の映画の作り方にはパターンがあった。

まず映画会社のマークが出る、そしてタイトルがバーンと出る、そして、製作者、メインスタッフの名前が出て、俳優の名前が出て、最後に監督の名前が出て、映画が始まる.....  最後は{終}と出て、それで終る。

今は映画の終りにスタッフ、キャスト全員の名前が出るが、昔は本当のメインスタッフだけ、助手の名前などは基本出なかった。そんな名前だけだと映画なんて10人ぐらいで作っているみたいだ。

例えば昭和35年の日活映画、鈴木清順監督の「その護送車を狙え」

まず日活マークが出て、少しドラマがあってタイトル、そのあとスタッフのテロップはわずか4枚、出演者のテロップが何枚か出たあと、監督名、ドラマが始まり、終。

それですべて。スタッフは監督入れて13名。

同じ昭和35年の東宝映画、川島雄三監督の「接吻泥棒」

こちらも東宝マークのあと、少しドラマがあってタイトル。スタッフのテロップはわずか5枚。スタッフ名16人。

もう少し古い、昭和26年の松竹映画、小津安二郎監督の「麦秋」のスタッフテロップも5枚。スタッフ名は20人。

昭和28年の大映映画、溝口健二監督の「雨月物語」は少し多くて6枚、36人の名前が出されている。

昭和の時代の日本映画を一度でも見た事があればなんとなく分かっていただけると思う。

これを見て何を感じるか、感じないか……

昔の撮影所時代の映画が35人程度で撮れる訳がない、大道具さん、車両部さんなど含めれば100人前後のスタッフが関わっていたと思う。

映画に関わったのに名前が出ないのが悲しいのではない、昔はみんなそんなもんだと思っていた。

悲しいのは......

個人的な思いとして、助監督、監督助手として名前が出ていながら、監督作品が見あたらない事が悲しい。

鈴木清順監督の「その護送車を狙え」の助監督は武田一成だ、武田さんは後に監督となり、日活ロマンポルノで何本もの優れた作品を撮っている。「おんなの細道 濡れた海峡」など、大好きな映画がある。

溝口健二監督の「雨月物語」の助監督、田中徳三もその後、勝新太郎、市川雷蔵作品などで娯楽映画を撮り続けた。「悪名」「兵隊やくざ」「座頭市」「眠狂四郎」......

一方......

小津安二郎監督「麦秋」の監督助手、山本浩三。川島雄三監督「接吻泥棒」の監督助手、錦織正信。この両名は調べても映画監督作品が出て来ない。

映画を見た記憶もない。

この時代、100人からいるスタッフの中で、名前が出るのは本当のメインスタッフで、その中でも監督助手という仕事は、監督の次のポジションで、映画スタッフ全員をまとめる重要な仕事である。

そこまで上り詰めて監督作品が無い。

もちろん、監督にはなりたくないとか、なんらかの事情で、自ら監督にならなかった場合もあるだろうし、助監督から監督になる道がすべてではないのは分かる。

東宝とか松竹という大企業に居たのだから、人事異動があったのかもしれない。

ただ、いち映画ファンとして、映画を見続けていると、「雨月物語」を見た時、「あの座頭市を監督した田中徳三は溝口健二の助監督をしてたんだ」という、楽しみ方が出来る一方......

「麦秋」を見て、監督助手、山本浩三という名前を見た時、山本浩三って映画監督になったのかな? と思ってしまう自分がいる、本人の事情と関係なく、少し悲しくなる。

当時は助監督の経験を積むしか映画監督になる方法はなかった。

見習い、サード助監督、セカンド助監督、チーフ助監督と、少しづつ助監督としての地位をあげ、長ければ10年以上の経験を積まなければ監督になれなかった時代。

スクリーンに名前が出るのはチーフ助監督だけだ、それなのに、その地位まで行ったのに監督に慣れなかった......

それは他人事では無い。

当時は映像の監督と言えば、劇映画と文化映画、テレビは放送が始まったばかりの頃で、それ以外の映像を監督する仕事はほとんど無かっただろう。

今ならCMでもカラオケビデオでもAVでも企業VPでも、映像に関わる仕事の種類は多岐に渡ってあり、映画監督になりたくなかった、なれなかった場合でも、映像関係の監督としてやっていく事は可能だけど、古い日本映画の監督助手の、そのトップになったその先に、どんな仕事があったのか。

勝手に悲しくなって申し訳ない、映画監督になる事だけがすべてではない。

それは百も承知で、少し悲しい。

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※ 上記の映画は、ナゼかyoutubeで見る事が出来ます。

「その護送車を狙え」

「接吻泥棒」

「麦秋」

「雨月物語」


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