ロシア語一日一善(245)

レフ・トルストイ編著 八島雅彦訳注『ロシア語一日一善』東洋書店 から

Знание бесконечно. И потому знающий очень много бесконечно мало превосходит того, кто знает очень мало.

Знание бесконечно:「知識は無限である」だが、形容詞短語尾であることを考えると、「無限にある状態である」ということであり、「知識そのもの」が無限という性質ではない、と言うことか。述語としてбесконечныйが使われているときはほぼ短語尾になるようだ。

знающий очень много бесконечно мало превосходит того:знающий очень много でいったん切ると分かりやすい。「多くのことを知っている人」 бесконечно мало превосходит 「無限に少なく勝る→ほぼ変わらない」

試訳

知識は無限である。したがって、非常にたくさんの知識がある人があまりにも知識が少ない人よりも勝っていると言っても、その差は限りなく小さい。

なかなか日本語にするのが難しい。「非常に多くのことを知っている人」だとたどたどしいので、「非常に多くの知識がある人」としてみた。「博識な人」とまとめてもいいかもしれないが、原文の形動詞で説明する感じが消えてしまうし、「あまりにも知識のない人」との対比も消えてしまう。

最初は бесконечно мало がこの文の核かなと思って「非常に多くの知識がある人とあまりにも知識が少ない人の差は限りなく小さい」などと訳していたが、これだとпревосходитの語感を無視してしまう。あくまで知識がある方が上なんだけど、微々たる差しかないと言っていると解釈したので、訳文では文を二つに展開する形になった。

確かに知識はあればあるほどいいが、結局のところ、森羅万象を知り尽くすことは不可能で、知識の総体を考えたら、たくさん知っている人もあまり知らない人も、そんなに違いはない、という話か。現代ではインターネットのおかげで情報が手にしやすいし、どう調べれば欲しい知識が手に入るかという方法の方が大事になっている。ただし、あらかじめ知識があることで、それが図らずも背景知識や予備知識として機能して理解が進むということはあるので、やっぱり知識はあるに越したことはないんじゃないかなあと思った。

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