10月の語学まとめ ショート動画は教材として使えるか?
10月に取り組んだ語学学習をまとめる。自分の現在地や学習の手法を検討し、今後の方向性を定めるため、自分の思考の整理を兼ねて毎月その経過を書いている。
まず定点観測として今月の勉強時間をまとめる。10月31日時点の勉強時間は以下の通り。()は目標とした時間
ドイツ語とフランス語がメインで勉強している言語、それ以外の3言語は現状維持ができればいいくらいのモチベーションで勉強している。今月は英語をあと10分勉強すれば、目標としていた数値には到達する。全体としては170時間くらいで、これはいつもよりちょっと少ないくらい。
10月は新たな試みとしてyoutubeのショート動画を教材にしてみた。勉強の手順はこんな感じ。
動画を聴きながらスクリプトを起こす
一文ごとに同じスピードで発音できるまで繰り返す
全体を止めずに聴解とオーバーラッピングを繰り返す
順に詳しくみていく。
1 動画を聴きながらスクリプトを起こす
そのショート動画の難易度と自分の実力に合わせればいいが、動画を聴いて自分が聞き取れたところを文字にしておく。私の場合は、メモアプリにスクリプトを起こし、新出の語句や表現はその場で調べて日本語を添えていった。聴き取れなくても動画にはスクリプトがついているので、間違った表現を書くことはない。どんなに簡単に思えても正確に書きとるには相当の実力がいるので、どんな難易度の動画でも教材になる。
2 一文ごとに同じスピードで発音できるまで繰り返す
書き起こしたスクリプトを参照しながら、一文ごとに区切り、自分で発音する。自分一人で発音するのではなくて、動画の音声と同時に発音するようにする。もしも動画の音声についていけなかったり、つっかえてしまうところがあれば、その一語だけ発音を調べて徹底的に鍛えて発音できるようにする。ネイティブのスピードが基準となるので、なかなか一発でオーバーラップできないが、局所的に反復すると割と早く発音できるようになるし、何よりさっきより発音できるようになったという成長実感がお手軽に得られるので楽しくなってくる。ショート動画では「一秒前に戻る」のような操作ができないので、同じところから再生するのが技術的に煩雑になる。そこで私はショート動画をLingQという有料言語学習プラットフォームにインポートして、動画を自動的に区切ってもらっている。区切り方が意味のまとまりを無視するのが残念だが、一定の場所から何度も再生できるので重宝している。字幕がついているyoutubeの動画ならなんでもインポートできる。
3 全体を止めずにリスニングとオーバーラッピングを繰り返す
全ての文が動画と同じスピードで発音できるようになったら、全体を通しで発音する。ショート動画はデフォルトでループ再生になっているので、まず一度目は動画の音声とかぶせて発音をするオーバーラッピングを行い、二度目は音声を聞くだけのリスニングをする。三度目はまたオーバーラッピングするというふうに繰り返す。あまりに単調になるようなら、オーバーラッピングをシャドーイングに変えたり、音声のリスニングをスクリプトを見たり見なかったりに変えてみるのもいい。動画の難易度に合わせてさまざまなやり方が考えられる。
ショート動画を教材として導入してみた感想としては、かなり手ごたえを感じている。1分間というのは教材としてちょうどいい長さだし、編集された字幕がついているのが多いというのも教材に適している。何度も繰り返すことが語学においては重要だ。例えば7分の動画なら3回繰り返すだけで20分を超えてしまうが、1分の動画なら20分で20回繰り返せるわけだから、反復がキーとなる語学学習とはかなり相性がいい。また、この方法なら外国語における4つ技能(読む、書く、話す、聞く)がカバーできる点もポイントが高い。教材の選択としては個人の興味や関心にあったものならなんでもいいが、コンパクトに分かりやすくまとめた解説系の動画がいいのではないかと思う。
次に先月視聴した外国語のyoutube動画からおすすめのチャンネルをいくつか紹介する。
After Skool(英語)
After Skool は一般書の内容をアニメーションで解説してくれるチャンネル。分野は人文系が多いイメージ。著者本人が最初に動画であいさつをすることが多く、販促という側面はあるが、粗悪なファスト動画ということはない。本を読むほどではないが、それなりに内容のなる英語を摂取したいという学習者にとっては適切なコンテンツと言える。気になる書物の下見としてみるのもアリかもしれない。上の動画はシニシズムについてで、アメリカでは他人を信頼する人の割合が減少していることを引き合いに出して、希望を持ちにくくなった社会の実相とその対策を述べている。
Le Corps La Maison L’esprit(フランス語)
Le Corps La Maison L’esprit はブラジルのリオに住むyoutuberのチャンネル。名前はLaetitia さんのようだが正確には分からない。もともとブロガーをやっていたらしく、動画のテーマは多岐に渡る。一言で言うならば「ライフスタイル」というジャンルだろうか。上の動画は今年40歳になられたということで、四十路を迎えた自分自身を振り返っている。話すスピードは完全なネイティブレベルだが、フランス語の字幕も編集でつけてある動画が多く、学習教材としての価値は高い。年齢が私の7つ上ということもあって個人的には人生の先輩の話を聴いている感じがする。漠然と生活のなかで感じる実感をうまく動画に落とし込んでいるなあと感心させられることが多い。フランス人的なものの見方も興味深く、日常から入っていく洞察はときにかなり哲学的な次元まで話が及ぶこともあり、なかなか刺激的なチャンネルだ。
Lesen - Denken - Philosophieren (ドイツ語)
Lesen - Denken - Philosophieren はニコラスさんのチャンネルで、主に本の紹介をコンテンツにしている。今私が読んでいるヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を扱っているのをきっかけにこのチャンネルを知った。哲学寄りのブックチューバーのようで、それはチャンネル名にも表れている。(直訳すると、「読む 考える 哲学する」)youtuber としては垢抜けていない感じだが、むしろゆっくりとしたテンポで話してくれるためかえって聞き取りやすい。上の動画はオススメの古典文学10選。古典に馴染みがあまりない人でも読める作品を10冊紹介している。これまでなかなかドイツ語のブックチューバーを発掘できないでいたが、とうとう自分と同じ読書ジャンルの人を見つけたという感じがする。まだチャンネル登録して日が浅いが、ニコラスさんの今後の動画に期待している。
Mica Gandullo (ポルトガル語)
アルゼンチン人のミカさんが運営するこのチャンネルは、主に他人の動画の見て感想を発信するというリアクション系のチャンネルだ。ミカさんの話すポルトガル語は確かにスペイン語訛りがあるが、聞き取りづらい感じはしないし、動画内のポルトガル語は他の動画のものがほとんどを占めるので、教材的な観点からはそれほど気にならない。ポルトガル語圏を外の文化から眺めた意見を共有できるので、学習者としては共感できる部分も多くて楽しめる。上の動画はポルトガル語の成立過程の歴史を解説した動画に対してリアクションしている。ミカさんのチャンネルを見ていると、語学学校で同じくターゲット言語を学ぶ外国人とその言語について話しているような感じがしてなかなかおもしろいし、新しいチャンネルの発掘にもなるのでとてもありがたい。
Однажды в России(ロシア語)
Однажды в России は直訳すると「ある時、ロシアで」で、テレビで放映したコント番組をyoutubeでも配信している。コントのタイトルには必ず 「Однажды 特定の場所」 (ある時、〜で)と表示されて始まる。テーマ曲はクッソかっこいいのに、内容はあまりに品がない。上の動画の最初のコント、“Однажды в самолете“ (ある時、飛行機で)は一言目から、 “Какой позор, какой позор, какая-то ужасная была идея заняться сексом в самолете!“ (なんて恥、なんて恥なの、とんだ思いつきだわ、飛行機でセックスなんて!)という幕開けであり、臆面もなく全力で下ネタに走るのがいかにもロシアだなあと思わせる。コントの質としては微妙なのかもしれないが、ある意味ワンパターンな展開が多いので教材としてなかなか使える。
youtubeの動画もLingQにインポートしている。LingQでは自分にとって新出の単語をリストにしてチェックすることができるので、まずはそこで新しい語を頭に入れて、内容を理解しやすくしている。動画の途中で気になる表現が出てきたら中断して、メモアプリに書き込む感じだが、多少分からなくても内容理解に支障がないならある程度想像で補って見ていく。調べる基準は「調べたくなったかどうか」にしている。ショート動画の場合は短いので、細かいところでも徹底的に分析して深い理解に努めるが、10分以上ある動画の場合、逆に浴びるように外国語を摂取することを心がけている。外国語学習でもしばしば論争になる「分からなくてもいいから多様なマテリアルに触れて大量にインプットするべきvs同じマテリアルを完全に理解するまで繰り返しやるべき」という対立があるが、どう考えても答えはその中庸だろう。この「量か質か」という綱引きの構図は根本的に間違っていて、本当は「量も質も」こなさなければならない。だから量重視のインプットと質重視のインプットを交互にやるのが最適じゃないかと睨んでいる。
まとめ
フランス語とドイツ語の勉強を同時に始めてこれで10ヶ月が経った。10ヶ月の割にはここまで分かるようになったかーと思う一方、ついでに勉強しているポルトガル語やロシア語の理解力に比べると雲泥の差がある(これらは数年の蓄積があるから当たり前)ので、まだまだ足りないと思うこともある。この10ヶ月、聞き取り以外の技能では常にフランス語がドイツ語の上を行っていて、フランス語で感じた進歩を30日後にドイツ語で体験するという感じだった。Duolingo のコースの進度やLingQの合計習得語彙数なんかを見ても、同じくらいの勉強量なのに常にドイツ語はフランス語の一歩後ろにあるという感じだ。なんとなくこの距離感が気に入らないので、11月はドイツ語を強化する月にしようかなと考えている。具体的には今のフランス語の勉強時間の半分くらいをドイツ語に充てる感じ。ここ10ヶ月で初めてフランス語の勉強量を減らすことになるので、これまで積み上げてきたフランス語が落ちるのではないかという不安はあるが、さすがに基礎は固まっててちょっとやそっとじゃ衰えないと思うので、フランス語の目標を月20時間くらいにしてみようと思う。来月はドイツ語で100時間、それ以外の言語を合わせて80時間くらいが目標かな。