――ありゃあ一体おなごなんじゃろうか。笛吹きは男のような声音の口上をしよるがなあ。
――最近は一日にいっぺんしか姿を見せん。男のほうも白拍子みたいななりじゃ。声音もまあ男のように聞こえるが怪しいもんじゃな。
――そこらの歌舞伎衆よりも随分幼いようじゃが、ほんにどないな身の上なんやろか。
――どこぞの寺社勧進にも見えんし、女郎屋の座のように身を売ってるとは思えんしなあ。
――渡来風を装っとるが、ほんに南蛮人じゃから口をきかんのと違うか。顔立ちも皆この国とはちと違って見えよる。
彼ら、式刻座の噂は、興行が河原で定着し続けるにつれて変容しつつあった。京一番の舞い妓と謳われた時雨についても、手放しに讃えるだけであった評判から、その素性を様々に勘ぐる噂が京の町中に膾炙し始めていた。
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