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彼ら、時雨と氷時の在所は、先日の出任せもあながち嘘ではなく、京より遙かに東であった。空祁とは彼らの出自である女系の一族で、霊力を持つ者を中心として構成される漂泊の民である。そして空祁の因習――それは、霊力を持つ男の双児は伝承に基づく凶兆であり、あってはならない存在とされるというものであった。

通常、稀に生まれる男児は霊力を持たず、一族内で育てられたのち雑役に回される。もし僅かなりとも力の予兆があれば、幼い内から乱波として仕込まれ、空祁の謂わば忍びとして一族に仕えることになる。無論、成人すれば空祁を裏切ることのないよう一族内で縁組が行われ、代々の空祁の血を濃くするために利用された。また、力の有無に関わらず、空祁にとって危険があるようならば、内々に始末されることも、成人とされる十五に達する前に放逐されることもあった。しかし双児の場合は違った。それが――空祁の因習の元となる、ある伝承に基づくためである。

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