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東京女のカープ熱狂録その1 ––始まりの鐘は、鳴りやまない––


プロ野球のペナントレースも残された試合数はあとわずか。贔屓の選手が引退するとのニュースが流れた。それは、あらかじめ予感されていた未来だった。しかしその報道はあまりにも短くて、彼の去就をむすぶ文言に欠けていて、わたしは昨夜から泣きそうになっている。

いまスポーツニュースを探ればあるいは、球団から新しい未来の提示があるのかもしれなかった。けれど初報の残酷はそのままだ、と思った。

38歳。レーザービーム遠投が魅力の外野手。
2013年、15打席連続出塁の日本記録達成。
今季、前季ともに一軍登用なし。

大好きな応援歌を、チームのファンならずとも名曲だと奮い立つその歌を、ポップス歌手がサビに引用までした唱歌を、わたしたちは今季の一軍でいちども歌うことがなかった。引退興行はあるだろうし、それはたぶんわたしが広島の本拠地で観るチケットの日だろうとも思った。けれども、「最初で最後だ」と思った。

東京ものが付き添いで見始めたプロ野球だった。市民球場に足を運ぶようになったころ、ある打席で周囲のファンが一斉に立ち上がった。リードの笛がちいさく鳴った。大げさにたとえるのなら、表彰式の国歌が始まる気配だった。

「始まりの鐘が鳴る」

朗々と、誇らしげに歌い上げられるイントロの強さ。その後続く名前叫びの迫力。メインメロディの美しさ。わたしは目と耳を奪われた。それは圧倒的なものだった。それはたぶん、カープに対する初恋だった。

それからは全国のスタジアムを行脚するようになり、沖縄にも日南にも幾度となく通った。数年前の沖縄では、大野に戻る荷物の脇で、チェックアウト後にメガネとスーツの姿でサインをくださった。腕が震えた。ペンを落としてしまい、謝った。真面目な顔をした、笑顔の豪快な人だった。

わたしに野球の喜びをくれてありがとう。

ありがとう、廣瀬純。

廣瀬純 応援歌 『広島伝説』
https://m.youtube.com/watch?v=R4hCAkzVIDM

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