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はじめての声優学入門*10時限目「アオよりイエが前で高いってなんの話?っの巻」

さて今週も始まりました10時限目の声優学のお時間です!今回は基本として押さえておきたい発声器官の6つ、名付けて「ネ申シックス」の5個目&6個目「舌と唇」をまとめてお話ししていきたいと思います。今回で基本の発声器官のお話は終了です。

ではスタートです、レッツラゴーゴー!


●アイウエオの舌の位置
普段何気なく話している言葉ですが、「ア」は何故「ア」に聞こえ、「イ」は何故「イ」に聞こえるのか?逆に滑舌が悪いと言われる人は何故発音がはっきり聞こえないのか。

発音とはどこでどのように行っているのかを知っている事は「声」や「言葉」を扱うプロフェッショナルとしては礼儀と言っても良いのではないでしょうか?
プロフェッショナルなのだから「発音は舌と唇を滑らかに使う」そんなザックリとした認識でなく見ていきましょう。

では日本語の5つの母音「アイウエオ」は何が違い「アイウエオ」と音が区別されるのでしょうか。違いは舌の位置と唇の形ですが、その位置がどのようになってるでしょう。

国立国語研究所にはリアルタイムMRI調音運動データベースと言う素晴らしものがあり。数々の文字や言葉を発音する際に舌や唇がどのように動いてるかをMRIで撮影した動画が公開されています。

こちらより「アイウエオ」を見ていきます。


<ア>

こちらが「ア」を発音している時の画像です。注目して頂きたい点が3つです。

1.舌の後ろ側、喉側の空間サイズ
2.舌の前側の空間のサイズ
3.唇の開きによる出口の空間のサイズ

赤線で舌の位置で作られた口の空間を示してみるとトンネルのような形になっていますよね、狭い道路から広い道路になっていく道を示した地図のような。まさにこれを「声道(せいどう)」と呼びます。

「あ」は以下ように喉の奥側が狭く唇方向に向かい広くなっています。ラッパみたいな。
喉奥から1.狭→2.広→3.広の形となっている。

この声道の形によって音は不思議と「アイウエオ」と変化するのです。他の4つの母音の声道の形を見てみましょう。


<イ>

随分と「イ」は「ア」とは違いますね。大きな違いは舌が前に出ている事です。喉奥から1.広→2.狭→3.狭(但し唇が横に広)の形となっている。

続いて「ウ」です。


<ウ>

「ウ」は喉奥から1.広→2.中→3.狭の形となっている。
続いて「エ」です。


<エ>

「エ」は喉奥から1.広→2.狭→3.広の形となっている。ラストは「オ」です。


<オ>

「オ」は喉奥から1.狭→2.広→3.中の形となっている。
声道の形だけを抜き出して「アイウエオ」の形を比較してみましょう。


●アイウエオによる口の中の形(声道)の違い

色々な道の形がありますね。もちろん個人差もありますが簡単に1.喉の奥(舌の後ろ側)、2.舌の前側、3.唇の開きを「アイウエオ」それぞれ比較すると以下となります。

<ア>1.狭→2.広→3.広
<イ>1.広→2.狭→3.狭(但し唇が横に広)
<ウ>1.中→2.中→3.狭
<エ>1.広→2.狭→3.広
<オ>1.狭→2.広→3.中

これを喉の奥側が狭いチームと広いチームに並べ変えると
「ウ」を真ん中に「アオ」と「イエ」チームに分かれます。1番の「狭、広」に 並びに注目です。

<ア>1.狭→2.広→3.広
<オ>1.狭→2.広→3.中
<ウ>1.中→2.中→3.狭
<エ>1.広→2.狭→3.広
<イ>1.広→2.狭→3.狭(但し唇が横に広)

今度は唇の開き(顎の開き)が狭い(小さい)方から広い方へ並べるとこうなります。3番の「狭、広」に 並びに注目です。

<ウ>1.中→2.中→3.狭
<イ>1.広→2.狭→3.狭(但し唇が横に広)
<オ>1.狭→2.広→3.中
<エ>1.広→2.狭→3.広
<ア>1.狭→2.広→3.広

この舌と唇の開き(顎の開き度合い)によって「アイウエオ」の文字の違いが生まれ、更に、この舌と唇の位置により「アイウエオ」は同じ音程でも声質の高低に違い生まれるのです。

この高低の違いは舌の前後の位置と上下の位置で出てきます。


●舌の前後と上下の声質の変化

・舌の前後では、前に舌がいると高めの声質、喉側に引っ込み後ろに行くと低めの声質となります。

・舌の上下の位置では、舌が盛り上がり上側にいると高音の声質、舌が下がる(顎が下がる、口を下に開く)と低音の声質になる特徴があります。

アイウエオの同じ音程でも声質の高低の違いは、舌の調音の位置によって生まれる訳です。


●アイウエオの声質の高低

アイウエオを同じ音程で発音してみた音源を動画で観てみましょう。

なんだか専門的な図が出てきて意味不明だぞ!?となると思いますので(僕も最初はそうだった)こちらの図の解説をします!

人間の声を解析すると図のように音を目で見る事ができます。

アイウエオにそれぞれ5本の横線がミルフィーユのように上に重なって出ます(アがわかりやすいですが)
これはアイウエオそれぞれに含まれる周波数です。(声質の成分と言うとわかりやすい)この5種類の成分が人それぞれ違うので、同じ音程で「ア」と出したとしても僕とあなたとでは人が聞いた時に声の違い、人の違いがわかるわけです。いわば指紋のようなものでこれを「声紋(せいもん)」と呼びます。

特に注目してもらいたいのは1番下の線と下から2番目の線です。(更に上に関してはシンガーズフォルマント<歌声フォルマント>の際に話します)
1番下の線は声に含まれる低音域の成分を示していて、上にある程、低い成分が強くなります。2番目は高い声の成分を示しています。上に行くほど高い声の成分が強くなります。

「ア」と「イ」を比較すると「ア」は1番下の線が高く、下から2番目の線は低いので「低い声質」、「イ」は1番下の線が低く、下から2番目の線は高いいので「高い声質」となる訳です。

同じ音程でも「アイウエオ」それぞれで1番目と2番目の組み合わせが違うのがわかります。

これを作っているのが最初に勉強した舌の位置、いわゆる「声道の形」なのです!!

続いて舌の位置が前から→後ろに引っ込んでいく「イエウオア」の順で並べ替えて発音した動画を見てみましょう。


本来だと「オ」よりも「ア」の方が舌は後ろにある傾向があるので下から2番目の線は「オ」よりも「ア」の方が下がり、綺麗に降りる階段ができるはずなんですが、どうも僕の「ア」の発音の癖は「オ」よりも前らしく、最後一段だけ上に上がっちゃいます(苦笑)、しかし舌の上下の位置はちゃんと「オ」よりも「ア」の方が下にいるようです。舌の上下の位置(顎の開き)はウイオエアですから、1番下の線の「エとア」を見ると上に線があり低い音質が出ているのが目で確認できますね。


●舌の前後位置による声質の違いは唇からの距離

「イやエ」のように舌が前に出ると高音の声質になり、「アやオ」のように舌が後ろに下がると低音の声質になる理由は唇から舌の盛り上がりまでの距離にあります。

<イ>

<ア>

この距離が短ければ楽器として高い音質、逆に長くなれば楽器として低い音質が出ます。
「オ」なんかは唇が舌が後ろに下がる上に唇が丸まって前に出ますからね、より距離が長くなり低い音が出るわけです。これは「喉頭」の勉強をした時に、喉頭から唇までの距離が短くなれば高い声になり、喉頭から唇までの距離が長くなれば低い声になるといった話でも学びましたね。

この知識、技術をもう少し声優技術に応用してみると。
声が高いキャラクターは舌を前めに、声が低いキャラクターは舌を後ろ目にとも言えます。唇を前に突き出すか、「イ」のように薄く引くかでも変わりますよね。

そして歌において「イとエ行」の歌詞、高音が歌いにくい人と「オとア行」の歌詞、高音が歌いにくい人もいます。その場合「イとエ行」が苦手な人は「オとア行」は比較的スムーズな傾向もみられますので、少し「イとエ行」を「オとア行」側に舌を調整すると改善する事もあります。セリフにおける滑舌に関しても同様の事が起こります。滑舌や発音問題に関してはまた別途ゆっくり解説の機会を設けたいと思います。

さて今回の内容、少々専門的な知識となりましたが、声を職業にされる方は知っておくべき知識と言えます。舌の位置による音の違いに興味を持ってくれて、もっと知りたいと言う方に僕も非常に参考に、勉強をさせていただいたリンクを下に載せておきます。

★いろんな母音や色んな単語を発声している時の舌や唇の動きをMRIでもっと観たい人は「国立国語研究所のリアルタイム MRI 調音運動データベース」へGO!→

★声道の仕組みや、声道模型を使うと人間でなくても「アイウエオ」が出せちゃう実験など楽しい情報を知りたい方は「上智大学 の荒井隆行教授の声道模型」へGO!→

★舌の位置による母音の違いや、言葉が人に与える影響をもっと知りたい人は慶應義塾大学の川原繁人教授の著書へGO!→


と言うわけで今回で基本的に押さえておきたい発声器官6種類「ネ申シックス」を全て網羅しました!!一度読んだだけでは頭に入らないと思うので、何度も読んでみて、自分の演技に応用をしてみてください!わからない事、質問、考えた事、は質問してくださいね。

それでは今回はこの辺で、次回11時限目の講義まで各自休憩してくだされ。アディオスパンパミーヨ!

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