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古いものこそ価値創造の原点として 未来の家電のあり方を提案」  デザインアンダーグランド主宰 家電蒐集家 松崎順一さん

本記事は2014年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

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enmono 本日のゲストは、デザインアンダーグランドの松崎さんです。(70年代、80年代のヴィンテージ家電に囲まれた)とても癒されるアトリエからお送りしています。松崎さんは「家電蒐集家」という肩書きも持っていらっしゃいますが、どのようなきっかけで家電蒐集を始められたのですか?

松崎 私はインハウスデザイナーとして22年間、モノづくりをしてきました。20年も務めると自分のやりたいことがだんだん見えてきて、私なりの表現方法をしたいと思うようになりました。30代後半に車にはねられて背骨を骨折し、半年間入院しまして。医者から「半身不随になるだろう」と言われるくらいの大怪我でしたが、後遺症も全くなく、完治しました。

enmono 奇跡的ですね。

松崎 その時、「もしかしたら、自分は違うことをやるために生かされたのでは」と思ったのです。11年前にデザインアンダーグランドを立ち上げた当初は、何をやるのかは漠然としていたんですけれども、小中学生の時に馴染んでいた家電に魅力を感じて集め始めました。ヴィンテージ家電はモノからダイレクトに、デザイナーの情熱や考え方が伝わってきます。

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enmono 60年代、70年代は、メーカーのカラーがすごく出ていましたよね。

松崎 当時は3~4年かけて一つの製品をつくっていたそうです。現代は製品のサイクルが早すぎて、デザイナーや開発者のモノに込める思いが薄らいでいる感じがしてならないのです。思いを込めたいけれども、中途半端なままアウトプットしなければならないとか。

enmono 予算が限られているとか。

松崎 結局それがユーザー側にも伝わって、「なんか、ちょっと」と思われてしまう。それにモノが飽和状態になっていて、「持たない」とか「シェアする」という時代ですから、メーカーも何をつくっていいかわからないのです。

enmono iPhoneがあれば一通り揃う今、ヴィンテージ家電に惹かれる理由を教えてください。

松崎 デザインやディテール、フィニッシュの考え方など、圧倒的なこだわりからメーカーの当時のモノづくりの理念というのも見えてくるのです。思いが込められたモノは、時代を超えて愛されるのではないでしょうか。ここに集まったモノは、今でも素直に「かっこいい」と思えるモノばかりなんです。

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enmono 家電は機能も含めた製品ですから、スタイリングは時代を超えて生き残っても、テクノロジーの部分で今は使えなかったりと問題が出てきますが。

松崎 機能は当時のままなので、そこは使えなかったりしますね。でも、高性能イコール人に心地よいかというと、そうでもなくて。ラジオやラジカセ、オーディオなんかは、70年代、80年代の製品の方が音がいいです。スピーカーの質感で出しているから、癖がない。デザインアンダーグランドでは特に、ラジカセの魅力をさまざまなアプローチで提案しています。

enmono 本物を知らずに今の製品で聴いていると、それが標準と思うでしょう。本物を知る機会は、あった方がいいですよね。

松崎 本物を知るために行動する、そのプロセス自体も楽しいものです。昔は家電もレコードも食も、トライ&エラーをしてたんですよ。今は買うまでの楽しみの部分が端折られている。

enmono さまざまなサイトが善かれと思って、トライ&エラーをしなくても済むように情報提供しますから。

松崎 ある意味いいとは思うんですけれども、失敗することによって学ぶこともあります。世の中便利になりすぎて、人間にとって大事な部分を失ってきているような感じがします。

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enmono モノづくりは、だいたい失敗しましたよね。解体して、周りに残骸が転がったままで。

松崎 家電を買うと必ず、ばらしてましたね。私はインハウスデザイナー時代、若いデザイナーにモノを内側からも見ていく大切さを教えていましたし、現在もワークショップでレクチャーしています。マグロの解体ショーのように板の上にテレビなどを置いて解体していくのです。分解ではなく解剖学、オペなので、白衣を着て。

enmono ワークショップは、どういった所でやられているのですか?

松崎 伊勢丹さんなどです。伊勢丹さんはアプローチの仕方が独特で、柔軟です。私は家電にしても何にしても、売り方も大事だと思っていています。ファッション業界の方では、「今、何がトレンドとして面白いのか?」という仕掛けの部分を、複数のアパレルメーカーと打ち合わせしています。家電業界でも、新しい売り方を提案したいですね。

enmono ビジネスは広がっていきますね。

松崎 キット販売のようなスケール感で、本格的な家電が作れたら面白いと思いませんか。法律の規制をクリアして、メーカーがきちんとバックアップして。オリジナルブランドの家電も作ってみたいですね。ラジカセもそうですが、時代に合わなくなり市場が小さくなって大手メーカーが撤退した家電は、たくさんあります。それでも欲しい消費者はいて、数億から数十億の市場はあるのです。

enmono その市場規模はむしろ、数人の小さなメーカーの方が可能性がある気がします。ハードウェアベンチャーだからと言って、新しいことをして無理にリスクを取りにいかなくてもいいじゃないですか。それはアメリカのシリコンバレーあたりの風潮とは違ったりしますが。シニアベンチャーは、堅い道で身の丈に合ったことを楽しくやっていくのがいいですよね。

松崎 若い方達が先端を切り開いていって。シニアベンチャーは一攫千金を狙うよりも、それによって何人が幸せになったかを考える方が、価値感として高いと思うんですよ。今、家電メーカーに勤めていたインハウスデザイナー達が、みんなリタイアしています。その人達が持っているスキルと技術を融合して、シニアのモノづくりのなかで活かせたらいいなと考えています。

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enmono 松崎さん、楽しそうですね(笑)。

松崎 楽しいです(笑)。今は、自分が何に興味があるのかしか、興味がなくて。

enmono それは、インハウスデザイナーの時とは全く違いますね。

松崎 インハウス時代は最新情報を詰め込んでいました。いかに新しいモノ、面白いモノを提案するか、その一点で。でも、突き抜け過ぎてしまって、「自分って何?」と。病院に隔離されると、情報が入ってこないんですよ。入院して人生観が変わって、体重も半分になって健康になって、ある意味生まれ変わったんです。

enmono 自分自身を見つめ直す時間は必要ですよね。個を出していかなければならない時代に変わっても、それができない人は多いです。トレーニングが必要な方は、このアトリエに情報を遮断しに来てください。

松崎 ここは足立区なんですけれども、陸の孤島と呼ばれていています。情報がシャットアウトされるので、いろんなことを妄想できるんです。時間の感覚がなくなりますよ。壁の時計は全部、時間がばらばらで、どれも合っていません。

enmono アフリカにいるような感覚です。自分自身を見つめた後であれば、情報を上手く取捨選択できるでしょう。

松崎 自分にとって必要なものが整理されます。

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enmono 最後に、松崎さんが考える未来の家電のあり方とは?

松崎 モノはたくさんあります。「この中から選んでください」ではなく「我が社はこれです」と言えるような力強いプロダクトを生み出すメーカーが必要です。メーカー自体が断捨離する時代になってきていると感じています。こだわる部分がブラッシュアップされていって本格的に方向性を決めたメーカーが、どんどん出てきたらいいですね。そいういう部分では、日本は土壌はあるので。

enmono 眠っていますよね。

松崎 私やenmonoさんは、眠れる獅子を起こす役割。日本のモノづくりは、昭和20年代あたりから半世紀経ちました。モノづくりの概念が180度変わる時代が、半世紀たった今じゃないかと思っています。新しい価値付けをしていく時代に、いよいよこれから入っていくのではないでしょうか。マスに受けるモノって、受けなくなってきていますよね。ある一部の人に受けるものの方が、尖っていたり。個々が考えるモノづくり、小さなメーカーに期待する時代で、それはenmonoさんに共感する部分です。

enmono 本日はありがとうございました。

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