小木戸利光

「心と身体の調和と創造性を探求するシアターワーク」アーティスト 小木戸利光さん 前編

●ご挨拶と出演者紹介

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三木:はい、ということで2020年明けましておめでとうございます。本日は稲村ヶ崎の「Think Space 鎌倉」に、アーティストの小木戸さんにお越しいただいて身体性について色々とお話をさせていただければと思います。

本当に今日は鎌倉までわざわざお越しいただきましてありがとうございます。

小木戸:ありがとうございます。明けましておめでとうございます。188回もされているのですか?

三木:はい。こういうグダグダな感じで10年前からやっております。

小木戸:すごいですね。対談ですか?

三木:基本対談な形で。

小木戸:鎌倉で?

三木:最初は東京でやっていて。今日は非常に楽しみにしておりました。

小木戸:ありがとうございます。


●MBS最新情報(告知)

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https://prezi.com/vo4oona8ewwg/mbs188/


●三木さんとの出会いについて

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三木:俳優でもありアーティストでもあるということでよろしいですね?

小木戸:はい。

三木:私と小木戸さんの最初の出会いは、西川さんっていう方のVulnerability(バルネラビリティ)の集まりで初めてお会いして、その後で逗子でシアターワークのほうに私が参加させていただいて、非常に興味があったんですけども、本当に期待以上のワークに参加できたということで、衝撃的な感じのワークだったので。

小木戸:逗子のあの時は、内観療法とマインドフルネスとシアターワークが融合した「Contemplative Theatre」というプログラムにご参加いただいたんですよね。

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三木:そうです。私もzenschoolで自分の内側から事業を取り出すことをやってるんですけども、やはり身体性に何かヒントがあるなっていうことが前々から何となくわかっていたんですけど、初めて逗子のワークに参加した時に、「ああ、こういう世界があるのか」と。これをもっと僕らのzenschoolでも取り入れていきたいなということで非常に勉強になったという。

小木戸:三木さんにとって、どういう体験だったんですか。すごくお聞きしたいなと思っていたのです。

三木:実はあのワークの後ですぐ母親のことを思い出して、母親にすぐ連絡して泣きながら花束を持って行きました。

小木戸:すごいことですね。

三木:もっと心の内側に従っていいんだっていう感じで、何かそういう母に対する思いが出てきたっていう。

小木戸:三木さんは最近、お仕事のなかで、新しいイノベーションを考えるうえでは身体性が重要だとおっしゃっていますが、身体性はビジネスの世界では欠けがちなのですか?

三木:通常の事業企画とかイノベーションを起こすみたいな一般的なプログラムでまずやらないですよね。実は逗子のワークを受けた後に何回かzenschoolで実践する機会があって、ある受講生が3日間のzenschoolのプログラムで2日目に「みんなでダンスをしましょう」ということを言い始めて、通常のzenschool以上の発想がどんどんダンスの後にいっぱい出てきて、僕らから仕掛けたダンスワークじゃなかったんだけど、実際にやってみたらすごいインパクトがあってこれは何なんだろうなと思ったんですね。

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その裏にどういうロジックがあるかとかその辺は全く説明は僕らはできてないんですけども、何かそこのインパクトがすごいあったので。

小木戸:シアターワークは、三木さんにどのような影響を及ぼしたのですか?

三木:僕自身?

小木戸:ご体験いただいて、身体性の重要さを発見されたと思うのですが、それは具体的にどのような体験だったのですか?

三木:自分により素直になるというか、表面ではないお腹の中から出てくる発想というか、そういうものを取り出してもいいんだっていう自分に許可を与えるという感じですかね。みんながそういう風に変わっていくことによってその場ができるのかなって。そのプラットフォームの上に新しいイノベーションの発想が出てくるイメージですよね。

小木戸:ありがとうございます。それは僕がやりたいと思っているすごく大事なことの1つですので、とても嬉しいです。


●小木戸さんの自己紹介とこれまでの活動について

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三木:どういうことをやってらっしゃるのかをちょっと簡単にご紹介をしていただいてもよろしいですか。今こちらに小木戸さんのホームページが映っていますけども、クライアントということで色々な大学とか載ってますけど、こちらでどういう取り組みをされてるのか。

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小木戸:僕はアーティストで俳優です。18歳の時から俳優としてアーティストとして仕事をはじめ、これまでに様々な作品を発表してきています。今僕は38歳ですが、18歳からはじめたそのアーティストとしての仕事として、たとえば、俳優で映画やドラマやドキュメンタリーや舞台に出演したり、アーティストとして作詞作曲をして歌をうたってきたりもしています。

三木:音楽の?

小木戸:はい。音楽作品としてアルバムをリリースしています。何らかの作品に出演するのが俳優の仕事だとしたら、アーティストとしては、パフォーマンス作品を創り出して発表したりとか、あるいは本を書いてクリエイティブライティングの中で言葉を通して作品を発表したりもしてきました。人生のその時期時期における自分の心と身体が発している声というものがあるようで、その心と身体が必要としていること、望んでいること、出したがっていることに沿うように、表現が音楽になったり、パフォーマンスになったり、文章になったり、俳優として映画やドラマに出演して演じることになったり、表現が変容しています。

小木戸さんの自己紹介とこれまでの活動

三木:最初は俳優さんだったけども、段々とこちらのシアターワークというか…

小木戸:今も俳優、アーティストの仕事を続けています。ここ数年で大学などの教育機関からシアターワークの講師の依頼を受けるようになりました。大学の学問、学びの中に身体性を取り入れてもっと実感ベースで学んでいくカリキュラムをつくりたいということで、教育機関で仕事をすることになっていきました。

三木:それは突然?

小木戸:突然、依頼がきました。これは本当に不思議。

三木:どんなきっかけだったんですか?

小木戸:一番最初は、日本の早稲田大学、中国の北京大学、韓国の高麗大学校が共同して行っているCAMPUS Asia - 多層的紛争解決と社会変革のためのグローバルリーダー育成プログラムという大きなプロジェクトからの依頼でした。

今、日中韓の間で歴史観の違いとか解釈の違いとか記憶の違い、様々なことがコンフリクトとして心の問題として現れてきていますが、その日中韓の学生たちが1つのグループをつくり、あらためて多層的な紛争解決法や社会変革のあり方を学んでいくというリーダーシッププログラムです。そのプログラムの中に、シアターワークが導入されることになったのです。

三木:その時シアターワークの型みたいなのがあったんですか?

小木戸:僕のシアターワークは、僕自身の人生経験からできてきたものです。生きてきた道に色んな困難がありまして、その困難とどのように向き合って、どう心と身体の声を否定するのではなくそのままに受容しながら、どのように心と身体のウェルビーイングを築いてきたか。その実体験に基づいてできた、芸術表現とともに歩んできた人生から生まれてきたワークです。ボディワークや演劇ワークなど、自分自身がこういうワークをして心と身体が軽くなったとか、こういうワークをして自分自身のことをより受け入れられるようになったとか、自分自身が得てきた体験をもとに、ワークをつくっています。そうした実践をもともとは、アーティストとして自分自身のためにやってきていたわけですが、その実践が大学などの教育機関で生かされる日がきたのです。芸術学部の演劇科などで俳優になりたい人にシアターワークを施すというのではなく、平和学とか紛争解決学とか社会学とか法学専攻の学生たちの学びの中に演劇を応用するというプロジェクトでした。さきほど三木さんがビジネスの文脈でもおっしゃいましたけど、現代社会の多くの場では、頭が99%という感じですね。

三木:頭がすごい発達しちゃってるので。

小木戸:理論でとことんやっている場に、シアターワークを通して身体性を取り入れて、実感ベースで相互理解とかコミュニケーションのあり方を学ぶというアイディアです。異なる分野に芸術を応用していきます。このCAMPUS Asiaプログラムが、一番最初のきっかけでした。学生たちが約10日間かなり集中的に学びを重ねていきます。今まで2年間やってきていますのは、日中韓の学生たち計40名ぐらいが一つのチームとして、2011年の東北の地震と津波で甚大な被害を受けた地域を訪れて、被災された方々やご家族をなくされた方々への聞き取りをしながら、様々な人の人生に触れるというフィールドワークを行います。美しい自然とともに生かされていく命、そして、その恵みをもたらしてくれる美しい自然が、突然 命を脅かすほどのものになる。そのありのままの自然とどのように人生をともに過ごしていくのかなど、学生たちはフィールドワークで様々な思いを巡らせます。学生たちは、東北でちょっと黙ってしまうぐらい重いものを受け取りながら、学びます。そのフィールドワークを終えた後に、早稲田大学へ帰ってきて、シアターワークをはじめます。身体的なワークとともに心と身体をほぐしていき、演劇的なワークショップを丁寧に重ねて、自分たちの体験や心の中に芽生えたものを大切に見つめながら、それらを徐々に表現していき、皆で体験を共有します。ある社会問題に対する問題意識や感情が高まる人、誰かに会ったことで自分の幼少期からの深い心の声が浮かび上がってくる人など、それぞれの心に宿っているものを、丁寧に時間をかけてシアターワークを重ねながら、シアターワークの円のなか=芸術ゾーンのなかで表現していくのです。このような集中的な時間を重ねていきますと、10日後ぐらいには、芸術学部ではなく今まで演劇というものにまったく触れたことがないような学生たちが、最終的に自らの心と身体で本当素晴らしい演劇を作り上げるのです。ある人は、言葉が溢れてきて詩のようなものが出てきたり、小説のような物語が生まれてくる人もいれば、言葉にはならないものがあるって言って、身体表現や踊りに変わる人もいれば、歌をうたう人が出てきたり、演劇のシーンを作ったりする人たちが出てきたり。それらの表現はすべて、実際のフィールドワーク体験から自分自身の心と身体が感じていることを他者に伝えるものです。私たちは、一人一人の表現に触れながら、同じ場所を訪れ同じ人に聞き取りをしているにもかかわらず、私たちはこんなにもものの見方、受け取り方、その感性が異なっていることに気がつきます。このグループワークとしてのシアターワーク体験が、プロジェクトのテーマの一つとなっている多層的紛争解決というところへ繋がっていきます。演劇ワークの中で多層的な物の見方を学んでゆくのです。最後に10日間温めて創り生まれてきたものを成果として発表します。そこに色んな方が見に来てくれてシアターワークの醍醐味を感じてくださる人が増えていったり、三木さんのようにシアターワークの一般講座に参加してくださる方が増えていったり、そのようにして、自分でも驚くほどに、僕のシアターワークの取り組みは、みるみる進んでゆきました。アーティストとしての仕事のほかに、シアターワークというもう1つ大事な柱ができまして、今はその両方の仕事を通して、皆さんと触れ合っています。この新しい流れのなかで、三木さんともこうして出会うことができたと思っています。やがて、シアターワークは企業研修に入ったり、他の大学にも入ったり、国連の研修などのなかにも生かされていくようになります。

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三木:国連とかすごいですよね。

小木戸:どの分野の取り組みも、シアターワークが身体知を扱うということは共通です。他者に慈悲を向けていくとか、普段は浮かび上がってこない、普段はなかなか伝えられることのない自他の心の声を聞くということをとても大事にしている実践でして、それはあらゆる分野にとって大切なことではないでしょうか。ですから、その場が大学であっても企業であっても、あらゆる場所に有効活用することができるのです。

(ヘリの騒音が激しく轟く)

三木:今年2020年明けて中東のほうは色々緊迫状態なニュースが飛び込んできて、これからの世界の紛争がかなり厳しくなるんじゃないかと予想されるんですけど、どうやって紛争をなくすかっていうところに身体性がどういう風にインパクトを与えるかにすごい興味があるんですよね。

小木戸:実は、CAMPUS Asiaプログラムを担当されている先生は、長年国連の職員として武装解除の任務に当たったり、戦地で小型武器の回収に従事されてきた方です。その方は、長年のキャリアのなかで世界各地をずっと移動して常に戦地でPKOに携わってこられましたが、ついに日本に帰って来られていまして。今、あらためて、感情というものとどのように向き合っていくことができるのかとか、人の心や感情は切り落とせるものではないのではないかとか、大事に考えていらっしゃっていて、演劇という心がダイレクトに現れてくるものに注目してくださったのだと思います。CAMPUS Asiaの先生方とは、私たちの人間性や感情を、そして、人と人が同じ場を共有することで生まれる学びの尊さを、あらためて大切にするということを行っています。たとえば、今日この場で、Think Space 鎌倉の囲炉裏で、火を起こしていて、三木さんがいらして、宇都宮さんがいらして、僕がいて、同じ場を共有していて、ともに顔を合わせ、心と身体を向けながら、お話をする、思いを共有している。こうした場づくりこそが、まさにシアターワークだと思います。

三木:こういうこと?

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小木戸:同じ場にいて色んな思いを交換したり同じ体験をしたり、ものすごくシンプルなことのようですが、今の教育や社会のシステムの中では、こういうものすごくシンプルなことが…

三木:できにくい。

宇都宮:生産性とか効率とかで動いちゃいますもんね。

小木戸:それももちろん大事ですが、それだけが優先されすぎるあまり、人の心の声とかその人独自のユニークな感性が、切り落とされることがあると思うのです。弱さと捉えられがちな人の心のもっともやわらかくて繊細な部分にこそ、誰とも比べようのない、その人であるからこそのみずみずしい感性や潜在能力が秘められていると、僕は思っています。ですから、そこが切り落とされてしまったら、その人本来の命の力が発揮されないと思うのです。シアターワークでは、そのVulnerability(バルネラビリティ)を大切に扱います。三木さんのzenschoolでの安全な場づくりというのも、きっとそういうことですよね。「この場では自分は自分でいられる」ということが大事ですよね。最初はゆっくりかもしれないけれども、少しずつ自分の心の内を開いてゆくことによって生まれてくる深い対話の中から、たとえば、新しい人生のあり方、仕事のあり方を探求してゆく。シアターワークで大切にしていることと、三木さんのお仕事には交差している部分があると感じています。シアターワークは、それをある意味では、ほとんど1から100までフィジカルに扱っているということかもしれないですね。


●シアターワークの色んな場面への活用について

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三木:その(ワークの)いくつかを去年、今年で体験させていただいたんです。たぶんそれ以上に色んなワークがあるんでしょう。

小木戸:平和学や紛争解決学に活用されているTheatre for Conflict Resolutionというシアターワークもありますし、人の心と身体の癒しのためのドラマセラピーという芸術療法もありますし、老人ホームの中でのリハビリテーションとして心と身体の活力を得ていくための演劇活動というのもありますし、自閉症のある方々との演劇活動など、たくさんのシアターワークがあります。シアターワークやドラマセラピーの素晴らしいところは、芸術表現とともに深層意識に触れていくことです。芸術表現をする時、人は深層意識へと導かれると言われています。であるからこそ、芸術のなかでは、普段現れないような深い心の声が現れてきます。それが、人の心と身体の深い癒しにつながっていることから、演劇がドラマセラピーとして活用されたりします。また、ビジネスの世界でも、三木さんがおっしゃるように、身体性と結びついてこそ生まれてくるイノベーションがあるということに多くの人が気づきはじめていて、シアターワークは、リーダーシッププログラムにも活用されています。シアターワークといっても、本当にたくさんのワークがありまして、本当に深い世界ですので、三木さんと宇都宮さんにもっとご紹介したいです。

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後編に続く


対談動画


小木戸利光さん略歴

Theatre for Peace and Conflict Resolution 代表
シアターワークの実践家として、国内外の教育機関・企業・民間にて、演劇・芸術表現・ボディワークを応用した身体的な教育プログラムとしてシアターワークを展開するほか、芸術療法としてドラマ・ムーブメントセラピーを施す。講演・講義歴に、へいわフォーラム、国連、CAMPUS Asia ENGAGE(早稲田大学、北京大学、高麗大学)、早稲田大学大学院、慶應義塾大学、東京大学、スタンフォード大学、埼玉大学、関西大学、WorldShift、日本ソマティック心理学協会大会など多数。
アーティストとしての主な出演作に、長崎の被曝2世の葛藤を描いたNHK「あんとき、」(主演)、映画「菊とギロチン」大杉栄役、TBS「報道特集」密着ドキュメンタリーがあり、著書にエッセイ集「表現と息をしている」(而立書房)がある。


公式WEBサイト


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