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研究組織が社内ラジオをやる理由

こんにちは。佐藤信吾と申します。普段は社会学やメディア論を研究しており、株式会社ZENKIGENではZENKIGEN.Labの非常勤研究員として活動しています。

ZENKIGEN Labでは、具体的には労働現場における人々の声を質的に調査し、対話が創造性に与える影響や、人と人とが話し合うことの意味について研究を行っています。また、就職活動を通じた人々の体験の意味づけも探求しています。

今回は私が主に企画し、ZENKIGEN.Labが主催している社内ラジオ番組「ラボラジオ」についてご紹介します。


ZENKIGEN.Labという組織について

私が所属しているZENKIGEN.Labは、社会学、産業心理学、感情工学の専門家が集まる研究チームです。ZENKIGENの掲げる『テクノロジーを通じて人と企業が全機現できる社会の創出に貢献する』というビジョンに沿って、時間をかけて基礎研究を積み重ねていくことも厭わずに、丁寧に職場や労働に関する研究を深めています。

働くことを学術的に考える試みは数多く蓄積しており、たとえば産業心理学の領域では、職場でのコミュニケーションや会社の文化計測の指標に関する研究、感情工学の領域では、仕事場での人々の感情の揺れ動きの計測を目指す研究などがあります。
ZENKIGEN.Labでは、こうした先行研究を踏まえながら議論を行い、新しい研究の模索や職場への応用の仕方を探索しています。

また会社が新規事業を企画する段階では、Labのメンバーが自分たちで行なった研究の成果を共有したり、論文を発表したりすることで、社内の議論を活性化する役割も担っています。

なぜ研究組織が社内ラジオをやるの?

私は普段から、人々の体験の主観的意味づけ(人々が自らの体験をどのようなものとして理解・解釈しているか)について、インタビューなどの質的調査を通じて明らかにする研究を行っています。
この調査を応用したのが、社内ラジオ企画であるラボラジオです。

突然ですが、同じ職場で働く同僚が普段どんなことを考えているか、例えば「働く」ことの意味をどう解釈しているか、自分が取り組んでいる仕事をどのようなものとして理解しているかなどを知る機会はありますでしょうか。
ZENKIGENに限らず、その人の主観的なモノの見方や解釈を会社の中で話す場は、思いの外少ないのではないでしょうか。

現在の業務と直接には関係しないパーソナルなことも含め、「語るー聞く」という相互作用を通じて、多様な人々の主観的な解釈や理解の仕方をともに考える機会は、職場における相互理解にもつながるのではないかと考えています。そのような場を作ることを目指したのがラボラジオです。

ラボラジオって、どんなラジオ番組?

ラボラジオは、ゲストスピーカーが語りたいトピックについて自由に語る場です。ここではゲストの主観意識や独自の視点を知りたいと考えているので、ゲストが話しやすいテーマを設定しています。録画や録音は一切行わず、後で聴くことはできません。
これは、ゲストがリラックスしてパーソナルなことを話せるようにするための仕組みです。記録が残ることで、話し手が気を使ってしまい、対話が阻害されることを防ぎたいと考えています。

さらに、ゲストは一方的に話すのではなく、進行役である私と対話することでラジオ番組を創り上げていきます。対話による相互作用によって人々の経験や解釈の主観的な意味づけが立ち上がってくるという考え方は、私が普段の研究でも大切にしている視点です。

ラジオという場におけるゲストと私との対話によって、ゲストのもつ価値観や世界観、仕事に対する考え方などが主観的な「物語」として提示され、それが社内の他のメンバーにも届けられます。
ゲストがなんとなく感じているモノの見方や考え方を言語化し、それを社内のメンバーに共有することができる場としてラボラジオが機能したらいいなと考えています。

ラボラジオは、月曜日の夜に月1回配信されており、参加人数はゲストと私を含めて10人から30人程度です。Slackのハドルミーティングという機能を用いており、ほとんどのリスナーは退勤後に家事や育児、食事や休憩時間のおともに聴いているようです。
配信中はリアルタイムでチャットを通じて質問を受けつけており、私が随時ゲストに質問を投げかけています。ラジオ番組のお便りコーナーをイメージしています。

ラボラジオをやってみて

ゲストをお願いする場合、必ず事前にランチやオンラインの場をセッティングするようにしています。ラジオのゲストということで、最初は真面目な話をしようとするのですが、個人的には普段の生活のなかにこそ主観的なリアリティが現れてくると考えているので、事前の打ち合わせではそのように伝えて、ゲストが一番話したいことを探ります。そしてテーマを設定して、当日を迎えるというタイムラインになります。

ラジオを始めた当初は、国際情勢や労働市場の動向といった大きなテーマについて話していましたが、回を重ねる中で、よりパーソナルな話の方が面白いことに気づきました。
パーソナルな話とは、自分の愛猫の話や推しているアイドルの話、普段の文書仕事で何気なく感じている違和感、野球観戦の話などさまざまです。猫や野球、文書と関わる中で、ゲストが何を感じ、何に楽しみや苦悩を見出しているのか。そうした点にこそ社会のリアリティがあり、ひいてはゲストの見方や考え方が浮かび上がってくると思います。

人々が何気なく思っていることは、「主観的」であり「数値化できない(しにくい)」という意味で、職場では忘れられがちな要素かもしれません。しかし職場とは人々が集まる場であると考えると、集まった人々が自らの「主観的」な意味づけや解釈に基づいて行う相互作用は、仕事の内容や成否にも関わる重要な要素です。
この点に関する理解を深めることが、ラボラジオの裏テーマかもしれません。まだまだ生まれたばかりのコンテンツですが、色々な人が「主観」を「語るー聞く」場になればいいなと思っています。

ZENKIGEN.Labは研究機関であり、社内では少し硬くて遠いイメージを持たれているかもしれません。ラボラジオを通じて、Labが親しみやすい組織だと伝われば嬉しいです。

ZENKIGEN.Labは企業内の研究機関として実践的な側面と理論的な検討のバランスを意識しており、また社内のプロダクトとの適切な距離の取り方を常に模索しています。ラボラジオも、こうした研究機関と会社との距離の模索の一つかもしれません。
Labと会社をつなぎ、社内の人々同士の相互理解を深めるコンテンツとなることを目指しながら、今後もラボラジオを続けていきます。


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