見出し画像

【火の鳥ヤマト編】君たちはどう生きるか!手塚治虫が問う21世紀のボクたちへ!名言も紹介

今回は火の鳥「ヤマト編」をご紹介いたします。


1968年に連載が始まった今から50年以上も前の火の鳥
火の鳥としては第3作目にあたる作品ですが
物語は1作目の「黎明編」の続きとなる本作。
ようやく火の鳥の全貌が見えてくる展開に
手塚先生はヤマト編にどのようなメッセージを込めたのか?


その秘密と解説をたっぷりとご紹介いたしますので
最後までお付き合いください。

それでは火の鳥ヤマト編行ってみましょう!


----------------------------------

本作の最大の特徴と言えば火の鳥全エピソードの中でも異色のギャグタッチで描かれているところです。
恐らく手塚先生は前作で絶望的な未来編を描いちゃったので
このようなタッチにしたのだと思われますが
未来編からの緩急のふり幅が大きいのでちょっと笑っちゃいますね

(前作衝撃の未来編はこちら)


まぁこっち(ヤマト編)の方が当時の手塚治虫の姿なので
未来編がド肝を抜いたというのが正しい見方なんですけどね

画像1


はいというわけでヤマト編見ていきましょう
舞台は4世紀ごろの日本奈良
「黎明編」の後に続く時代の物語となっております

ヤマトの国の大王の古墳作りにまつわる形でストーリーが展開していき
手塚治虫版ヤマトタケル伝説や禁断の恋、切ないラブストーリー
権力者の欲望や古墳づくりなど
色々と見どころあるんですが今回はひとつのテーマに絞って本作を
読み解いていこうと思います。

画像4

ズバリ!本作のテーマは「どう生きるか?」

これが火の鳥ヤマト編における最大のテーマだと思います。


このテーマを軸に本作の見どころに迫っていきますね。

大枠のストーリーはヤマト国とクマソという対立する二国がありまして
ヤマト国の王子オグナが、クマソ討伐に向かうのですが
クマソの人たちと仲良くなってしまいます。
そしてそこでクマソの歴史を知り自国との違いを体験します。

これまで自国の事しか知らなかったオグナは
色んな世界、考え方、文化があることを知るんですね。
さらにはクマソの娘と禁断の恋に落ち
愛と国と信念と、様々な感情の狭間に揺れ人生に迷いが生じます。

自分はどうすれば良いのか
「どう生きるべきなのか?」

さぁこの後一体どうなるのかというのが大枠のストーリーであります。

画像2


まず、ヤマト国の王子「オグナ」
クマソの老人「おじい」に出会い
本作の核心部分となる会話があります。

オグナはおじいにこう問います。
「生き血を飲めば死ななくなるという」
伝説の火の鳥を見つけたのになぜ捕まえなかったかと…

「火の鳥の血を飲めば老いずに済んだのに」

しかしおじいはこう諭します。

「人間はな死なないことが幸せではないぞ、
生きている間に…自分の生きがいを見つけることが大事なんじゃ」

これぞまさしくこのヤマト編の大テーマ

「こうあるべき」という常識や概念に縛られず
自分の「やりたいこと」「こうありたい」と望むことを意識して
生きていくことが本当の幸せであるというメッセージです。


そして何を隠そう
このおじいこそ前々作「黎明編」で地の底からはい上がって生きのびた青年タケルの子孫なのであります

黎明編で火の鳥に励まされ己が何をするべきかを問い、
それを実行し新しい世界へ足を踏み出して村を作った
その姿こそがこのクマソなんですね。

この繋がり最高!
こういう登場人物の因果関係が繋がってくるのが火の鳥の面白さの醍醐味であります。めちゃめちゃドデカイスケールの一端が徐々に明らかになっていく快感…。ぜひ体験してほしいですね


そしてこの「自分がどう生きるか」というメッセージは
本編には数々散りばめられています。


それを中心において見てみると
まず
後継者の川上タケルはオグナにこう問います

「なぜお主はそんな手の届かないものを望むんだね」
人間の寿命が延びたところで一体何になる」

タケルは続けてこう言います。

「お主も悔いのない一生をおくれ力いっぱい生きるのもいい」
「そうすればたった50年の人生だってじゅうぶんのはずだ…」

このように
「自分がどう生きるか」と問うセリフがいっぱい出てくるんですね。

これに対しヤマトオグナは苦悩していくんです。
クマソを討伐するためにヤマトから出てきたが
ボクが本当にやりたかった事はクマソの討伐なのか?

「だれかぼくの道を教えてくれ、ぼくはどうしていいのかわからない」…と

自問自答していくんですね。

画像7


反対に
オグナの親父ソガ大王
知性も威厳もない時の権力者だけど
自分の力だけは誇示したい典型的なダメ愚王

美化した肖像画を描かせたりニセの歴史書を描かせたり
その最たるものが自分のための巨大なお墓建設

そんなやりたい放題やってきた権力の限りを尽くした大王の
死にざまからも本作のテーマが伺えます。

死ぬ間際の大王のセリフには…

「予は今までなんのために生きてきたんだ?
墓を作るためだったのか?
なんとくだらねぇ人生なんだ」

「予はもっと、もっと何かやりたかった…」


自分の人生の虚しさを嘆き、後悔の念に駆られます。

時の権力者として散々やりたいことをやってきたつもりでも
それが本当にやりたいことではなかったと涙するんですね。

これは権力者の哀れな死に様を描いているようで
実は現代人である読者に対しての大きなメッセージになっています。

そして手塚先生はこういうシリアスな展開になると
クールダウンさせるためにしょうもないギャグを挿入してくるんです。
なんせ大王が「ジョニーウォーカー飲みたかった」ってセリフで死んでいきますからね。
手塚先生シュールなギャグぶっ込みすぎです(笑)
冒頭にも触れましたが本作はパロディが多い、
もう笑っちゃうくらい多いです。

時代を風刺したものからセルフパロディまで
結構な量が散りばめられていますので
なんだこれ?って思うかもしれませんがこれが手塚治虫なのです(笑)

画像5

時代設定を無視した当時の流行語とか
社会を風刺したブラックジョークも折り込まれていますので
そちらも併せて探してみると面白いかもしれませんね。


…さて
あとはオグナがタケルを刺し殺す名シーン
敵国である刺客を手厚く迎えていたタケルに対し
オグナは刃を向けます。

刺されたタケルは恨むわけでもなく迷いの中にいた
オグナの「自分がどう生きるか」という使命を全うしたのだと悟ります。

その覚悟を見届けたタケルは
あろうことか代々誠実だった男に付けられる「タケル」という
名前をも敵に送り絶命。
この屈指の名シーンにおいてもお互い目的は違えど
「自分がどう生きるか」に基づいた選択をした
二人の男の姿を描いていると言えるでしょう

画像8


その後は迷いもなく
己の信念に従って突き進む
ヤマトオグナ改めヤマトタケルとして物語が進んでいきます

古墳工事完成を止めること
歴史を勝手に改ざんすること
そして罪のない人々を殺させることをやめること

権力に逆らいながらもすべて「自分がどう生きるか」を選択し続けます。

最後には敵国の娘カジカとの禁断の恋を成就させるため
二人揃って生き埋めになることを選択します。

死ぬ間際には
「ボクは満足している、
ボクの一生は力いっぱい生きてきたんだ悔いはないよ」

と言葉を残し生き埋めのまま命を断ちます…。

画像3


オグナは迷いの中で火の鳥と出会ったことで
本当の生きる意味を悟ります。
オグナのそんな姿を見て火の鳥は一度も人間には飲ませたことがない
「飲んだものは不老不死になるといわれる」
伝説の生き血を差し出し、そして助けます。
これは火の鳥の中でも非常に珍しいことです。


画像6


これこそ
火の鳥の「なぜ不老不死を願うのか」という
超越した力をどう使うかを問うたメッセージであると言えます。

望むものをどう使うかかも分からずただ己の私欲のため
もしくはイタズラに必要以上の力を追い求める人間の愚かさ、醜さ
そうした人間の本質的な欲望を本作では描きだしています

そんな見せかけだけの強さより
「自分がどう生きるか」を明確にした人間の方が誰よりも強くなれるし
誰よりも幸せに生きていける。

そしてそれが正しいものに使われるのであれば
これまで高見の見物をしていた火の鳥でさえもそっと力を寄せてくれる…


限りある命をどう使うのか
「自分がどう生きるか」

これこそが「火の鳥ヤマト編」の最大のテーマであります。


火の鳥とは、本当に色んな解釈が生まれる読み方ができる漫画なので
どれが正しいものなのかという事はありません。
読み進めていく中で
この「自分がどう生きるか」ということをひとつの軸として
ヤマト編読んでみては如何でしょうか。

恐らくこれまでと違った目線で、
そして新たな気づきを与えてくれると思います。


最後に
「自分がどう生きるか」というメッセージを常に他の作品でも残していた手塚先生の有名な名言2つをご紹介しておきます。

まずはこちら

「医者は生活の安定を約束していた。
しかし、僕は画が描きたかったのだ。」


当時は漫画家なんてものは仕事という概念すら怪しかったですし批判の対象ですらあった時代です。
そんな時代において安定した生活より自分のやりたいことを選択した手塚先生、まさに「自分がどう生きるか」を表した名言のひとつだと思います。


そして最後にもうひとつ名言をご紹介して終わりにしたいと思います。


人間は、生きている間に、なぜもっと素晴らしい人生を送らないのかなぁ。素晴らしい満足しきった人生を送れば、死ぬ時にそんなに苦しまなくたっていいんだろうなぁ。

                            手塚治虫


というわけで今回は火の鳥ヤマト編ご紹介しました。

如何でしたでしょうか。
火の鳥は人生においてまさにバイブル的漫画であると言えます。
娯楽と知性を兼ね備えた素晴らしい漫画ですのでほんと一度手に取って読んでみてほしいと思います。
そして小さい頃に読んだことがあるという方も
この火の鳥は再読するほどに面白くなるというドエライ漫画でもあるので
きっと今までとは違う新しい発見があろうかと思います。

次回はこちら


それでは最後までご覧くださりありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?