見出し画像

【ヤバイ】有害図書指定になった手塚治虫の性教育マンガ!「生」と「性」を描いた衝撃の問題作!愛に性器は必要か?人間以外と性行為はできるのか?

今回は手塚治虫の性教育マンガ「アポロの歌」をお届けいたします。

「愛」とは一体なにか?
このシンプルな問いに大人でさえ答えられる方は少ないのではと思います。
「生きる」ことと「愛する」こと、この壮大なテーマに真正面から描き切った本作は当時、有害図書にまで指定された問題作となりました。

その内容とは一体どんなものだったのでしょうか。
巨匠手塚治虫が描いた人類普遍の「愛」のテーマ
今回はたっぷりご紹介いたしますのでぜひ最後までご覧になってみてください。

それでは本編行ってみましょう。

-----------------------------

本作は
1970年4月より「週刊少年キング」にて連載された作品であります。

早速有害図書にまで指定されたあらすじを見ていきましょう。
本作の主人公は近石昭吾という少年であります。
彼は、複雑な家庭環境で育ったため「愛」という感情に対して
屈折した思いを幼い頃より抱いており
人を愛するということを激しく軽蔑していました。

画像6



そんな彼が医師から電撃療法を施されたことで夢の世界へ誘われ
一生愛する人と結ばれないという試練を体験することになります。


人を一度も愛したことがない昭吾が
人を愛しそうになると現実に引き戻され、また違う世界に飛ばされ
新しい出会いの中で愛情が生まれるとまた引き戻され、
何度も何度も引き戻され、
決して成就することのない愛の無限ループを体験するんです。

画像1

そんな体験を繰り返すことで
徐々に「愛」「生命」について学んでいくのですが

最後に辿り着いた世界は2030年の未来
そこはクローンによる合成人間が支配する世界でした。
生殖行動を必要とせず愛のことなど全く知らないクローンの女王
対して愛する心を持たなかった昭吾
生殖行動に興味津々のクローンの女王は
昭吾に強制的に性行為を行うよう命じるのですが

人間とクローンとの間に愛情は芽生えるのか。
はたまたクローンとの間で性行為は成立するのか。

画像2

生物の根源的な行動を通して2人にどのような変化が起きたのか
注目のクライマックスはぜひご自身の目で!
というのが本編のあらすじになっております。


本作は
まさに1970年代という時代の狭間というにふさわしい実験的作品であり
少年誌向けの作品にしてはアダルトなテーマでありました。
今読めば全然大したことない内容ですけど
当時はこれでも有害図書指定に認定されるくらい過激だったわけです。

どうしてこのような作品を手塚先生が描いたのかという経緯ですが
1960年代末頃まで、
子供に向けて性を語ることをタブーとする風潮がありました。

ところがその流れは1970年ごろから急速に広く開放されることになります。
その背景にあったのが
1968年に登場した永井豪先生のハレンチ漫画「ハレンチ学園」の影響です。

画像3


性描写や裸の描写といった過激な表現が徐々に世間に認知され
それ以降、少年誌にも「性」を扱ったマンガが次々と発表されるようになっていきます。
そうした中で描かれたのがこの『アポロの歌』なんですね。

元々、性の描写に関しては1950年くらいから教育委員会などと
戦ってきた手塚先生。
それこそ害悪の親玉として吊るしあげられてきた歴史があるので、
ことさら性の描写に対してはこれまでデリケートに描いてきたにも関わらず
自身の意図しないスピードで社会が変化してしまったことに、
実は戸惑っていたんですね。

おそらく
「今までめちゃくちゃダメって言ってたのに裸描いちゃっていいの?」
「だったらオレも描いてやる」的な勢いがあったのは間違いありません。

事実、手塚先生はあとがきでこう述べておられます

「昭和四十二、三年頃、いちじ、
「子どもの性教育」について、いろいろさわがれた時期があります。
NHKなんかでも、その特集がくまれるし、
雑誌ではにぎやかに、その論争がくりかえされました。
すこしまえに、永井豪さんがれいの「ハレンチ学園」で、少年漫画にお色気をもりこみました。
ある程度のセクシーな画は、おとながどういおうと、
子どもたちはもうあたりまえにうけつけるようになってきていました。
いや、むしろ、大学生や高校生が、そういうものをもとめて少年週刊誌を読むという、おかしな時代になってきていました。
「アポロの歌」は、そんな時期にかかれた一種の青春漫画です。」

と語っておられるように
性描写が単なる刺激物になってしまったことに
抵抗して描かれた作品であることが分かります。
にも拘わらず手塚先生のこの「アポロの歌」が有害図書に指定されてしまうんですね。


ここら辺が当時いかに性描写への線引きがあいまいであったかが伺えます。
確かに本編で女性の裸は出てきますが
いたずらに刺激する描写、快楽のための「性」表現というのは一切感じません。

時代が劇画や過激な描写に流れていく中でも
手塚治虫が常に子供たちに伝えたいのは「命のテーマ」でありました
「命とは何なのか」「生きるとは何なのか」
手塚治虫は古いと言われながらも一貫してこの信念は貫いていくんですね。

世間一般に広まったドーパミン的快楽っていうんですかね。
刺激物だけの性描写というのは人気を得るための即効性があるんですけど
読者がその刺激に慣れてくるとどんどん過激にならざるを得ません

そういうある種の中毒性がある描写に世間が染まっていった時代で
手塚先生は自身の普遍的な作品とのギャップに悩んでいくんです。

この「アポロの歌」もスランプの真っただ中に描かれた作品でありますが
やはり性描写を描きつつも根底には「生命の神秘」を描いています。

人気を得るためにお色気を出そうとするんだけど下品にならないように
お下劣にならないようにって気を遣っている感じが
ここら辺は見ていてすごく手塚先生のジレンマを感じることができます。

ちなみにこの「命」を描くという信念の集大成として「ブラックジャック」が代表作として浮かぶと思いますがこの「ブラックジャック」こそ
この「アポロの歌」連載の後に「ばるぼら」という
創作の女神を描いた作品を経て「ブラックジャック」へと繋がっていく
一連の流れは手塚治虫のもがき苦しんだ葛藤が作品に現れており非常に面白いです。


この辺は
「ハレンチ漫画の歴史」「悪書追放」「スランプと手塚治虫」という記事があり自分で言うのも何ですがめちゃくちゃ面白い記事でありますので
ぜひそちらをご覧になってみてください。


話を戻しますと
手塚先生が描きたかったことは「性」を通した「命」の表現であり
それは生殖活動によって途切れることなく続いてきた生物の根源的な行為でもありそれが「愛」なのだと言ってるわけですね。

本編で昭吾が
無数の動物たちが交尾をする姿を見てひるむシーンが描かれております。

画像4


説明できない威圧感
まさに生命の営みにたじろいだわけですよね。

自分がこれまで否定してきたものが実はあまりにも巨大で美しいものであったのか知るわけです。

画像5

「愛によって生まれる性行為、これによって誕生する“命”」
その神聖にして偉大なる愛の姿に昭吾はショックを受けるんですね。

そしてこう漏らすんです…

「なにかゾっとするほど神聖な場所だった」


説明できない不思議な力とは、種族を増やすために存在していることを知り
人間はバカだと言います。
動物たちは愛し合うことにとてもまじめで真剣
それに比べて人間は裏切ったり憎んだり別れたり…
つまらないトラブルが多いと

こうした生命の尊厳の本質を描こうとする作品の主題は
手塚治虫の代表作『火の鳥』に通じるものがありますね。

火の鳥「異形編」では
「他人の生命をないがしろにしたために自分に報いがくる」という
三十年後より先の明日が来ないという絶望的な無限ループ地獄が炸裂してますし


宇宙編の未来永劫「生きる苦しみ」を味わう時間が循環する牧村とか
無限の時間という意味では未来編のマサトも「死ねない苦しみ」を通して命の在り方を語っています。

生命編では「人間狩り」をしていた青居も
自ら作り出したクローンに命を狙われたり
手塚先生は常に「生命はいかなる理由があろうとも軽んじてはいけない」
と命の尊厳と儚さを描いていますね。

特に復活編では人間と無機物との恋を描いており
この「アポロの歌」に出てくる合成人間と非常に良く似た設定です。

合成人間とは人間が作り出した生物で頭も良く肉体も完全な人間、
いわば完全クローンのことなんですが
合成人間はクローン増殖によって誕生するので生殖行動を行いません。
だから性器がありません。

じゃあ性器がなければ愛することができないのか?という
こういう非常に哲学的で深いところにまでこのマンガは迫っています。
その答えはぜひ本編を見てお確かめ頂きたいと思います。


似たような描写で火の鳥復活編でもロボットとの恋が描かれており
つまりは「種の存続」という
生存本能を否定する行為の真意にも迫っています。

手塚先生は「生命」の成り立ちにおいての「愛」の立ち位置にも
鋭くえぐっており同種以外の恋は成就しないので悲劇しか生まないと
結論づけています。

奇しくも
「アポロの歌」でも似たような最後を迎えるわけですが


「アポロの歌」の連載は1970年の4月
「火の鳥復活編」の連載は同年の10月と
実はほぼ同時期に同じような題材を少年誌と青年誌に同時に放り込んでいるので手塚先生にとってこの題材は未来の子供たちに伝えたいメッセージであると言えます


愛と性の本質を描こうとする本作は
単なる性描写を描いたエロマンガではありません。
ましてや有害図書指定なんてもってのほかです。

若干の残酷描写や人形に恋する「黒手塚」要素を十分にはらんでおりますが
大人も楽しめ生命について考えさせられる「愛」のテーマ「アポロの歌」

まだまだ解説しきれないほど性の描写について盛りだくさんであります
ぜひお手に取って頂き読者それぞれに生命の神秘を感じ取って頂きたいと思います。



そんな「アポロの歌」には特別オリジナル版がありますのでそちらをご紹介しておきます。

改編修正大好きな手塚先生、
今回も例に漏れず連載された本編が単行本化される際に
コマ割りやセリフなどが変更され改変箇所は100ページにも及びます。
さらに収録されなかった未収録や扉絵やページも含めると、
改変は実に150ページ以上にもなってしまいます。

画像7

画像8

画像9

画像10

画像11

このオリジナル版は現存する原画を使用し、カラーページもそのまま再現
オリジナル原画のコマ割りと構成を復元、セリフも可能な限り連載時に近づけた仕上がり
さらに予告カットや単行本の表紙なども掲載しており
関連資料的な要素も追加されており
まさに完全版として復刻されております。

有害図書にまで指定された本書の修正前のオリジナル版
ぜひともありのままの姿での歴史的一冊を体験して欲しいと思います。


最後までご覧くださりありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?