見出し画像

レジェンド漫画家たちから見た「神様、手塚治虫」の素顔

今回は「漫画家が見た手塚治虫」と題して
レジェンドたちが見たマンガの神様と呼ばれた手塚治虫の
リアルな姿を追ってみたいと思います。

生涯描いた原画は15万枚、作品数は実に700作品
マンガの神様と呼ばれ
神格化されている手塚先生の素顔とは一体どういうものだったのか?


長年その姿を間近で見てきた
レジェンド漫画家さんたちが
手塚先生との思い出をマンガ化したものを一冊にまとめた本書を元に
神様の本当の姿を辿っていきましょう。

画像1


まずは藤子不二雄A先生

ジャングル大帝の原稿をお手伝いしているところから始まり
主にトキワ荘の思い出が語られています。
藤子不二雄A先生と言えばトキワ荘14号室
何を隠そう手塚先生の引継ぎで部屋に入ったまさに後継者

手塚先生がトキワ荘を出て行った後も藤子A先生は
断続的に手塚先生のアシスタントを務めています。
そして手塚先生は若い漫画家たちに
「いいマンガを描くためにはいい本を読んだりいい映画を見る」
事が大切だと常日頃から言っており
本作のラストシーンでもそのエピソードが描かれております。

なんてことのない日記的な作品ですが
それ故に昭和30年代の日常がリアルに描写された
手塚先生との深い師弟関係のような温かさを感じさせてくれます。



古谷三敏先生
手塚先生の壮絶なアシスタント生活の模様を描いております
その時はなんと月間20社と契約しており
毎月25日になると編集さんと壮絶な戦争状態になるらしい。
1週間缶詰で編集者が住み込み状態になり
原稿の取り合いで殺気立ってケンカになるなど
今では考えられないくらいの修羅場だったそうです。

これらは非常に有名な話ではあるのですが
元アシスタントの立場から描かれると非常にリアルですね。

編集者を高級スコッチで酔わして仮眠をとるとか
トイレからこっそり抜け出す手塚先生のお手伝いをするとか
本当マンガのようなお話。

まさに軟禁状態(笑)

凄まじい…。



永島慎二先生
手塚先生にお金を借りた話が収録されていますが
最後のコメントが素晴らしいのでちょっと紹介します。

「先生にまつわる面白い話はやまほどある、
いくら描いても手塚治虫を正確にとらえることはできまい…
巨人手塚治虫を知るためにはその作品をできるだけ多く読むしかないのである。それはきっとあなたにとって楽しい時間になるはずだ」

…と

くぅ~。これ最高の一言ですね。



みなもと太郎先生
こちらはみなもと先生が新人のときのある漫画賞のパーティーでのこと
初めて手塚治虫を見てキンチョーしている中
手塚先生が話しかけてくれて、
しかも新人の名前を知っていたことに驚きを隠せません。

駆け出しのマンガ家のことを大御所が知っているなんて
考えられないことですからね。
あの手塚治虫に名前を憶えてもらえているだけで昇天ものです。

このエピソードは手塚先生が常に新しいことや新人に目を向けているという証明でもあります。信じられないくらい多忙なのに1年に300本くらい映画を見たとか、人の7倍の速度を本を読むとかインプットの量も常人の理解を超えた能力を持っていたそうです。…いやはやすごい。

そしてそのまま高級クラブに連れていかれド緊張で会話もなく1時間半!
気が付いたら別れていたというドキンチョーの模様を描いております。
そりゃあ初対面で憧れの手塚先生と飲みに行ったら何も話せませんよね(笑

一生ものの自慢話ですよ。



里中満智子先生
憧れの手塚先生と新幹線で三時間余り、気が遠くなりそうな緊張の中
先生との2人の時間を独り占めした半ば初恋のようなマンガを描いています。
女性の視点から見た手塚治虫が興味深いですね。

アレも聞きたい、コレも聞きたい、プライベートも聞いちゃおっかなぁ
…なんて乙女心も炸裂させたラブロマンスのようなマンガになっています。



極めつけは
石ノ森章太郎先生
雑誌「COM」連載していたジュンという作品について憧れの手塚先生に
「あんなのマンガじゃない」と言われ
あまりのショックに連載を降りると告げたところ
その夜、自宅に手塚先生本人が謝りに来たという逸話があるんですが
これがひとつの都市伝説にもなっています


この時の模様を石ノ森先生が直筆でマンガにされております。
都市伝説でもなんでもなく事実だったことが分かるエピソードです。

小学生の頃に手塚マンガに出会い、憧れのマンガ家になり
その若き才能に嫉妬した巨匠が目の前で頭を下げている

「申し訳ないことをした」と。

手塚先生って雲の上の存在なんだからじっとしていればいいものの
常に若い才能を意識し、嫉妬し
思わず暴言を吐いてしまう。
だけど自らの過ちだと思ったことは目下の者であろうが頭を下げることができるすごく人間味の溢れる人柄であったことが伺えるエピソードです


実に本作の誰もが口を揃えて手塚治虫は本当に優しいと言っていますし
とかくやさしさに溢れたエピソードが次々と描かれているのも
作品だけでなく人としても素晴らしい人物であったことが垣間見ることができます。


最後にゴルゴ13のさいとうたかお先生のコメントを紹介しておきましょう。

「ぼくの漫画家人生は手塚先生を抜きにはあり得なかった。
漫画界にぼくを導いてくれた恩人だ。
11歳の頃に初めて読んだ「新宝島」の衝撃たるやいかんばかりか…。
今までの漫画とはまるで違う
まるで映画を見ているようなメリハリのあるコマ割りとスピード感ある展開
興奮したのを今でも覚えている。
とてつもない天才だと思う
手塚先生が亡くなって28年
手塚漫画がいまでも読まれているのは話がちゃんとしていれば
時代が変わっても読み物として通用する証拠だ」

と絶大なる評価をしています。

この他、
松本零士先生、水野英子先生など
巨匠たちが見た巨匠手塚治虫との思い出を語っておられます。


全体的に皆さん手塚先生から受けた衝撃、影響を描いておられますが
どの作品も決して崇高な神様のようなイメージではなく非常に人間味がある一人のおっさんを描いています(笑)。

圧倒的な存在感を放ちつつも
人懐っこく常に真摯でたとえ子供であろうが礼を尽くして接する

でも仕事となると
一切の妥協を許さない超傲慢変態作家で
なりふり構わずまさしく命を削る覚悟で
気迫で原稿を仕上げていた巨匠手塚治虫

何かに取り憑かれたように描き続けた手塚先生は数々の偉業を残します。

その偉業はもはや今日では当たり前の事ばかりなので
偉業とすら認識できないくらいマンガの基礎を構築していきます。


作品だけでは見えてこない
漫画の神様の本当の姿を辿ってみてはいかがでしょうか。
今回は秋田書店発行の「漫画家が見た手塚治虫」をご紹介しました。

おすすめの手塚作品をご紹介しておりますので併せてどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?