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ブラックジャック未収録作品を解説

今回は「ブラックジャック未収録作品」についてご紹介いたします。

ブラックジャックにはいくつかの単行本未収録作品があるのですが
それを取り上げる上で1冊の本をご紹介いたします。
それがこちら「BLACK JACK Treasure Book」

諸般の事情により文庫本に収めることができなかったエピソードの収録やガイド、インタビューなどを掲載したファンブックです。

本書のポイントは、なんといっても
文庫版に未収録の「壁」「落下物」が掲載されていること
今回はこちらをベースに「未収録作品」の解説をしていきます。


過去記事ではブラックジャックの最終回
伝説の未収録最終回と呼ばれる「ミッドナイト版」もご紹介しておりますのでぜひ併せてご覧になってみてください。

それではいってみましょう

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未収録の定義


まず未収録の定義を説明しておきます。
ブラックジャックは秋田書店と講談社から出版されているのですが
単行本版、文庫版、豪華版など数々の種類があり
仕様によって収録作、収録数、収録順番が異なっているという
とてもややこしいマンガです。

そして最大の特徴とも言えるのが一つの出版物でブラックジャックを全話コンプリートすることは不可能だというです。
じゃあ出版社関係なく販売されている書籍を全部買えばコンプリート出来るのかと言えばそうでもありません。

はい、全部買っても全部(全話)揃えることは不可能なのです。

なかには入手困難なものから
未だに単行本化されていないエピソードも存在しており
ファンでもおそらく全話を読んだことがない読者の方が多いと思います。
マニアの方でも全話読んだことがある方が珍しいとも言える
完全にファン泣かせのマンガなのです。

そして当然ながらそれらのエピソードはファンの間では幻のエピソードとして語られることとなり今でも復刻を願う声が後を絶ちません。


第28話「指」 第58話「快楽の座」


そんな幻のエピソードから有名なのは
第28話「指」
第58話「快楽の座」
の二作品

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第58話「快楽の座」
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第28話「指」

この2作品は未だに単行本化されたことがなく
著作権者である手塚プロダクションの意向により、
今後も単行本収録の予定はないそうです。

理由は所説ありますが
未収録の主な理由として「差別」表現、「差別」発言に対しての類で俗に言う放送禁止に当たるとされており、連載当時とは社会情勢が異なっていることを考えると今後、世に出る可能性は限りなく低いと思われます。
…というより公式で「収録予定はない」とコメントされているので
ほぼ確実に無理でしょう。

手に入れようとするとそれこそ週刊連載されていたチャンピオンを
買うしかありませんが現在は高値で取引されております。
(もしくは所有はできませんが、国立図書館で見ることは可能)


ちなみに第28話「指」の方は
第227話「刻印」(単行本20巻収録)というタイトルで改稿・改題されて収録されているので「刻印」は比較的容易に手に入れることができます。
ただし、第28話「指」をベースとしてその上から書き換えられて製作された作品が第227話「刻印」なので、この世に第28話「指」の生原稿は存在しません。存在しないものは掲載もできないので可能性はゼロです。

そして興味深いのはその中身で
登場人物のロックの性格が驚くほど変更されています。
性格を180度変えてしまうほどの猛烈な改編。
手塚先生が作品に込めた想い、
如何なる理由があったのかぜひ知りたいものです。

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第227話「刻印」


チャンピオンコミックス単行本のみ収録作


続いて
チャンピオンコミックス単行本のみ収録されていたものを紹介します。

第22話「血が止まらない」(単行本3巻収録)
その他未収録理由:『血友病』に関する団体などの抗議によるためだと思われます。


第36話「しずむ女」(単行本4巻収録)
その他未収録理由:公害問題と差別発言が多いためと思われます。


第41話「植物人間」(単行本4巻収録)
第4巻初期「植物人間」は、増刷時に「からだが石に…」に差し替え。
その他未収録理由:脳手術が題材で非人道的ともとれる表現が問題と思われます。


第76話「水頭症」(単行本6巻収録)
その他未収録理由:特に問題ないような気もしますが知能に関する話だからかと思われます。


第128話「最後に残る者」(単行本13巻収録)
その他未収録理由:六つ子が全員未熟児で、他の弟たちの死体から移植手術を行う設定、セリフや表現に問題があったと思われる


第139話「魔女裁判」(単行本17巻収録)
その他未収録理由:これはなかなかに描写が強烈。
公害病により奇形になった子供、宗教裁判、リンチ、偏見と差別
科学と迷信がぶつかる問題作。納得の未収録。


以上がチャンピオンコミックス版のみ収録されているエピソードですが
第41話「植物人間」のみ初期出版ものしか収録されていません。
初期出版という基準が微妙なのですがおよそ15刷~18刷くらいまでが掲載されているらしいラインなので本屋さんに売っていたとしても、その辺りを必ずチェックした上でご購入くださいまし。
重版されたものはカットされていますのでご注意くださいね。

そしてタイトルが増刷時に「からだが石に…」に差し替えられておりますのでそこもチェックです。
初版を手に入れるにはネットかブックオフなどのリサイクルショップ、または田舎の汚ったない古本屋か床屋にいかないと手に入れるのは困難ではないかと思います。

ちなみのちなみですが、同じ4巻に収録の「2人のジャン」も未収録作品ですのでこの第4巻だけで3本の未収録作が読める代物になっておりますので非常に貴重なコミックスとなっております。

アマゾンキンドルでも見られるものがありますので
ぜひチェックしてみてください。(無料で読めます)

以上がチャンピオンコミックス単行本のみ収録されていたものです。


文庫版のみに収録作


続いて文庫版のみに収録されたもの紹介します

第145話「金!金!金!」

第159話「不死鳥」

第166話「おとずれた思い出」

上記三篇
こちらは文庫版17巻に集中していますのでこれ一冊手に入れれば
一気に読むことができますのでめっちゃオススメ!


手塚治虫文庫全集で読む場合は7巻と8巻に収録されております。


他にもまだ未収録作品ありますけどそこまで入手困難ではないので
ここでは全部ご紹介しません。

「BLACK JACK Treasure Book」


そしていよいよ今回ご紹介の「BLACK JACK Treasure Book」

こちらに収録されている未収録ですが

第37話「2人のジャン」
第172話「壁」
第209話「落下物」(文庫全集10巻収録)

の三篇が収録されております。

第37話「2人のジャン」は全集にも収録されており比較的手が届くエピソードですが第172話「壁」は復刊ドットコムの「ブラックジャック大全集」を除くとここだけしか読めないエピソードですので非常に貴重です。

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第209話「落下物」は手塚治虫文庫全集10巻と
「ブラックジャック大全集」とここだけの収録です。
放射線問題と被爆関連の問題で未収録なのではと思われます

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ということでブラックジャックファンであれば
十分買う価値ある1冊だと思います。
価格変動ありますが安い中古品が出ていたら即ゲット間違いなしの逸品です


これら未収録作品の楽しみ方として
もちろん「まだ読んだことがないから」という理由で購入するのは当然でありますが、「なぜ」掲載を見送ったのか?という視点で読んで見るのも面白いかと思います。言ってることマニアックかも知れませんけど…。


「あ、コレ確かにヤバイなぁ」とか
「手塚治虫すげーとこまで切り込んでるなぁ」とか

曰くつきである理由をピンポイントで楽しむのも
未収録の楽しみではないかと思います。
それが手塚治虫の未収録作の楽しみ方のひとつでもあると思っています。

手塚治虫という作家は漫画というジャンル自体を
押し上げてきた作家でもありますので
常にその時代の表現のキワキワを攻めていた作家としても有名です。

性の表現、暴力、障害、差別など現代の物差しで見ると
完全アウトなものも当時の表現の幅としてどこまで耐えうるか
常に模索、実験して描いていました。

そのチャレンジの繰り返しによって、
今日の漫画文化における様々な表現
アプローチが広まるようになっていったわけで、
その狭間で適正でないと判断された多くが
この未収録作品なのであります。

その中には自主的に取り下げたものも存在しますが
医療の進化によりストーリーに合わなくなったものなど
様々な事情により未収録という決断に至っているので
ただ単に安直な理由で掲載を取り止めたということではなく
その背景に見え隠れする手塚先生の表現への想い
感じ取りながら読み進めていくことで
より一層未収録作品への理解が深まるのではないかと思います。


今回ご紹介したエピソードは未収録の中でも代表的なものだけであり
未収録作全編をご紹介しきれておりませんし
内容についても細かく触れておりません。
残りはまた別の機会にでもご紹介できればしていきたいと思います。


さて…本書は未収録以外にも
ブラックジャックについての解説が書かれています。
関係者へのインタビュー
ブラックジャックについての考察…

ファンなら一部知っている内容でしたがじっくりとブラックジャックを楽しむまたは制作の裏側を楽しみたい方には良いコンテンツだと思います。


ブラックジャックがどのような経緯で書かれたのかとか
創作の秘密を知るとより一層作品に没入できますからね


あとは、第232話の「虚像」の制作過程原稿が掲載されています。

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ネームと完成原稿が比較して掲載されているので非常に見やすいです。
この線がこういう風にして完成されていくとか
セリフが修正されて
どのような過程で原稿が仕上がっていくのか
手塚先生がどこでアシスタントに指示を出しているのかなど
こういうメイキング的な原稿は個人的にはたまりません。

ボクはネームとかこういう未完成原稿が大好きなので
これは非常に良かったです。
ボクと同じベクトルを持っている人であれば間違いなく興奮ポイントですのでオススメです。


という訳で今回は
「ブラックジャック未収録作品について」お届けいたしました。

併せてこちらの記事もどうぞ

それでは最後までご覧下さりありがとうございます。

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