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手塚治虫『新宝島』の衝撃を現代でどう説明するか…

手塚治虫『新宝島』の衝撃

今回は手塚治虫のデビュー作であり後の日本マンガ史において
強烈な光を放ち続ける伝説の作品『新宝島』をご紹介いたします。

まさに手塚治虫伝説の始まりであり
数多くの著名人たちに影響を与えた戦後漫画の出発点、
日本漫画の概念を変え、
さらには
文学や映画含め日本のあらゆるジャンルの文化レベルをも高めたキッカケともなった記念碑的作品

その言葉が決して大袈裟ではない理由を今回は解説いたしますので
ぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編行ってみましょう!

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さぁこの『新宝島』は研究の対象にもなるほど
日本漫画に与えた功績は大きく影響力という括りではおそらく日本ナンバーワンに位置するくらい絶大な影響力を持ちます。
故に語るべきところがたくさんあるんですが
今回は押さえておきたい概要を絞ってお伝えしますのでぜひ覚えていただければと思います

さていきなりですが冒頭でデビュー作と申しましたが
正確にはデビュー作ではありません(笑)

正確な手塚治虫のデビュー作は「マァちゃんの日記帳」という4コママンガですので『新宝島』はデビュー作ではありません。
ただ長編ストーリー漫画としてはデビュー作であり単行本でもデビュー作でもありますのでそのような表現をされることが多いのも事実です。

まぁ世の中に鮮烈なインパクトを与えたという意味でも『新宝島』がデビュー作と言った方がカッコイイし見栄えがいいのでこのような表現されることがあるんですが実際は違うので押さえておきましょう。


そんな『新宝島』ですが
どのような作品だったのか見ていきましょう。

発表は1947年
戦争が終わったのが1945年ですから戦後わずか2年後の出版です
戦後とはいえ漫画自体は存在していましたが、
当時のマンガといえばおよそ4ページくらいが主流です
そんな中
この『新宝島』は当時の常識をぶち破った200ページを超える圧倒的ボリュームをかまします。

さらに革新的なのは
それまでの漫画というのは、単調な画面構成が主流だったのですが、
この『新宝島』では映画の手法を取り入れた躍動感に溢れるアクションや
構図で表現されているところです
この描写がとんでもない衝撃を子供たちに与えるわけですよ

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イメージすると新聞4コマ漫画の時代に
現代漫画みたいなコマ割りがあるイメージですかね。
分かりますかね?
4コマ漫画と現代漫画

そりゃあ迫力が全然違いますよね。
特に冒頭の車を走らせるシーンはマンガ史に残る屈指のオープニングであり
当時の子どもたちが見たこともない面白さに震えた伝説のシーンとして語り継がれています。

なんせ
ただ車が走っているだけのシーンで贅沢に何コマも使い
臨場感とスピード感を演出した技法なんてこれまでになかったわけですから
この大胆で洗練された革新的な表現方法は相当な衝撃だったようですね
これは手塚先生が映画が大好きで
映画的手法をマンガに取り入れた事がキッカケと言われ
これが後の漫画表現の基盤になっていくわけであります。


ここら辺の表現は現在の漫画に触れている我々読者にはよく理解できないと思いますしボクも実際に体感していないのでわかりません。
正直リアルタイムで本作に触れた読者にしか感じられない領域だと思いますし、とにかくこれまでの概念とは全く異なる衝撃があったことは事実なわけです

その興奮をマンガ化しているのがご存じ
藤子不二雄A氏の代表作「まんが道」です

藤子不二雄のお二人が初めて手塚先生の『新宝島』に出会った時の衝撃シーンがこれでもかとばかりに描かれています。
光り輝いてめちゃくちゃ神々しい演出ですからね(笑)
もうその崇拝っぷりったらハンパじゃありません。

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このシーンを見るだけで如何にこの『新宝島』の出現が異次元だったのか感じ取れると思いますので参考までに一読してみてください
(というかこのページを読んでおられる方なら間違いなく「まんが道」を読んでいると思いますけど…)

そしてその衝撃は藤子不二雄先生に限らず
今日の漫画の隆盛を担ってきた若い作家たちにも
大きな影響を与えた事でも知られています。
その代表的な例が石森章太郎先生や赤塚不二夫先生
その他
ちばてつや先生、つげ義春先生、楳図かずお先生、望月三起也先生、
など多数いますし
ゴルゴ13のさいとう・たかを先生もその衝撃を語っています。
後に「劇画」というジャンルを提唱させ
手塚治虫に対抗した辰巳 ヨシヒロ先生も熱中していましたしね。

漫画家以外にも、立川談志、小松左京、宮崎駿、横尾忠則
その他まだまだ沢山おられるんですけど
超一線級の芸術家たちがその影響化にあったと言われています

凄まじくないですか。
後にも先にもこんな多彩に影響を与えたマンガは他に存在しないでしょう
とにかくあらゆる面で影響を与え散らかしたのが「新宝島」の存在です。


本当に当時の娯楽に飢えていた子どもたちにとっては
まさに『新宝島』の登場はカルチャーショックであり、
バイブル的な存在だったことと思います。
時代こそ違えど
ボクも昔は好きなマンガを毎日握りしめていた時もありましたし
今のようにスマホ一台で何でもかんでも情報が手に入る時代じゃなかったわけですから当時のエンタメの希少価値って凄まじく高いんですよね。

そりゃあもう宝物を握りしめているような感じで
大事に大事にしながら、それでも擦り切れるように読んでましたから。

それが戦後わずか2年という本当に娯楽の乏しい時代に
彗星の如く現れた1冊の本に日本国中の子供たちが熱狂するのも頷けます

そしてこの『新宝島』の登場によって
漫画本来の持つ面白さ、漫画制作に目覚めた子供たちが後に、
日本を代表する人気作家や著名人になっていくわけですから
そのそうそうたる名前を見れば
この『新宝島』が日本漫画史のスタート、歴史の転換期であることに疑いの余地はないでしょう。


しかし、そんな歴史的傑作でありながら手塚先生は本作を
「ボクの作品からかけ離れている」と定義づけております。


それはなぜかと言いますと…実はこれ共作なんですね。


当時大阪マンガ界のベテラン作家だった酒井七馬さんの原作をもとに、
無名時代の手塚先生が絵を描いたものなのであります。

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執筆のいきさつは手塚先生曰く
これは酒井さんから合作の依頼があり「好きなように描いていい」と言われたので描いたにも関わらず60ページ以上も削られたり
セリフやキャラクターの顔など勝手に描き直されたという
非常に遺恨を残した曰くの作品なんですね。

しかも表紙こそ
原作:酒井七馬 作画:手塚治虫になっていますが
奥付の著者名には酒井七馬とあり手塚先生の名前がありません。

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好きにしていいよって言われて
勝手に編集されられ
著作権利はすべて剥奪され


これで完全に手塚先生は「マジ無理」「あり得ん」ってブチ切れしちゃうんです。

今でこそ、そんな事されたら怒るのが当たり前のことでありますが
当時はこの辺の著作物に関してもゆるゆるですし
酒井さんは大御所で手塚先生はまだ新人、
パワハラされてもしょうがない関係性だったんで
ブチ切れた新人手塚は相当生意気な青年だと思われていたそうです。

普通なら作家としてそこで潰されて終わりなんでしょうけど…

そこは手塚先生
元々持っているポテンシャルが規格外なので
『新宝島』発売直後から一気に頂点へ昇りつめ
手塚治虫の名が世に知られることになるわけです。

…といういきさつがあるので、
「手塚治虫の鮮烈なデビュー」と(実際はデビューじゃありませんけど)
「異次元の漫画の登場」という文字通り漫画界にディープインパクトを与えた伝説の作品であるにも関わらず手塚先生は
「ボクの作品からかけ離れている」と定義づけているのであります。

そしてこの定義づけのこだわりが尋常ではなく
講談社の手塚治虫漫画全集発行の際には全く別物になっております
というのも全部手塚先生が書き直しているんですね。(笑)

書き直しているレベルもハンパじゃありません。
当然タッチも異なりますし、コマ割りも違うし、
ラストも元々構想していたラストシーンが追加されたり
細かいことを言うとキリがないくらいめちゃくちゃ修正が入っていて
もはや別作品といっても過言ではないくらい手が入っております(笑)

はい、別作品レベルです。

というのも元々自身の全集に入れることすら拒んでいた手塚先生ですが
さすがに自身の全集という事と、現在の漫画ブームを生んでしまった歴史的作品であるだけに資料的価値としてやはり掲載しなければならないだろうという周囲の声もあり渋々掲載を決定したのです。

その理由やいきさつなどは
手塚治虫漫画全集版巻末の「『新宝島』改訂版刊行のいきさつ」において語られていますのでそちらを参考にしていただければと思います。
これについては非常に事細かく描かれておりますので
いづれ別記事でもご紹介していこうと思っておりますのでお楽しみにしていてください。


そして
これらの編集作業をしたのはなんと1984年当時の手塚治虫先生本人であり
1989年に亡くなるほんの5年前なんですね
自分のほぼデビュー作を晩年にリメイクするってどんな心境なんでしょうね

やはりそれほどまでに自身の作品に、他人の手が勝手に加わったことが
我慢ならなかったんだと思いますし、自分の思い描く作品を読者に提供したいと強く秘めていた証だと思います。
まぁ本当にいやだったんでしょうね(笑)

事実
手塚先生は生きている間はこの『新宝島』の再販を認めていませんでした
これにより実際の初版の衝撃はリアルタイム世代しか見ることができなくて
マニアですら初版の作品を見たという方は限られていたという
超絶な稀少本になっていました

この入手困難という状況も
神格化に拍車をかける要素になりどんどん希少性が上がり
現在では初版の『新宝島』の市場価値は約500万円とも言われており
現存するマンガの中で最も高い値がついている文字通り伝説の作品となっております。

しかし
手塚先生没後ついに復刻版が登場します
数十年の時を経て、あの幻の作品と言われた日本漫画の原始が再び姿を現すんですね。

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数量限定のため現在でもおいそれと読める代物ではないですが
それでも貴重な初版本を元に、完全復刻した作品を読むことができるのは
非常に歴史的見地からみても意義のある一作だと思います。

日本漫画の夜明けと言っても過言ではない資料的価値の高い本作
ご興味のある方はぜひご覧になってみてください


ざーっと紹介して参りましたが「あらすじ」言ってなかったですね
まぁあらすじはいいです(笑)
ボクもはっきりと覚えていませんから…
これは内容というより
存在を楽しむまさに歴史的資料のように読むマンガなので
歴史の一端に触れるという立ち位置で読んでみるのがよろしいかと思います。



というわけで今回は現代マンガの始祖『新宝島』をお送りいたしました。

こちら須崎正太郎さんの「酒井七馬と手塚治虫」という小説を朗読している動画があるのですが
これがめちゃくちゃ面白いのでぜひ聴いてみることをおすすめします。
マジでめちゃくちゃオススメなので必聴です!


とんでもなく長い動画なんですけど(笑)
そのクオリティがマジでハンパじゃありません!
終戦直後の大阪大空襲の焼け跡残る大阪で、漫画にのめり込む若者の血沸き肉躍るドラマがぐいぐいと引き込まれていきます。
なにより新人手塚治虫という切り口が新鮮です。
神格化された手塚治虫像は多いですけど
新人手塚治虫を描いた作品はほぼありません。
若き天才の圧倒的な才能が迸る物語は猛烈に面白い。
手塚治虫が如何にして漫画界へ登場したのかを知る極上のエンタメ作品になっておりますのでぜひポチってみてください。

思わず聴き込んでしまう魔力を秘めております。
めちゃおすすめです。


それでは最後までありがとうございました。


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