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「ビッグX」手塚治虫が嫌いだった理由がエグい!

今回は巨大化ヒーローのパイオニア「ビッグX」をお届けいたします。
巨大化ヒーローと言えば「ウルトラマン」のイメージが強い方が
大半だと思います
しかしそんな巨大化ヒーローの元祖は
実はこの「ビッグX」なのであります。

テレビ化もされヒットもしましたが「ウルトラマン」に粉砕され
しかも手塚先生自身も好きではなかったと語る作品。
その秘密を今回はじっくり解説したいと思いますので
ぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編行ってみましょう。

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本作は1963年から66年まで「少年ブック」にて連載された作品であります

あらすじは
第2次世界大戦中にナチスドイツの秘密兵器としてある薬品が開発されていました。それは人間を一定時間、無敵のサイボーグのような体にし
そして巨大化させる「ビッグX」と呼ばれる化学薬品兵器でありました。

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その技術は戦時中には使われることはなかったのですが
20年後の1965年
世界征服を企むナチス同盟という組織が悪用することをたくらみます。

それを阻止するべく
ビッグX開発者の孫である朝雲昭が自らがビッグXとなりナチス同盟と戦う
というのが大枠のあらすじとなっております。


本作は当時アニメにもなりむしろ
アニメの方がイメージが強いかもしれませんね。

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アニメ放映は原作の翌年1964年8月からなのですが
前年の1963年といえば、
元旦から虫プロ製作による日本初の週刊テレビアニメ『鉄腕アトム』の放送が始まり、まさに日本のテレビアニメブームが開幕した時期であります。
そして『ビッグX』の雑誌連載開始とほぼ同時期の10月からは、
あの『鉄人28号』のアニメ放送が開始。
11月からは『エイトマン』の放送も始まり、その人気の高まりの翌64年8月にこの『ビッグX』のアニメ化がスタートしました。

『ビッグX』が斬新だったのは、
なんといっても主人公自身が巨大化するということです。
今でこそ
『ウルトラマン』が巨大化変身ヒーローブームの代名詞となっていますが
『ビッグX』は『ウルトラマン』放映のなんと3年も前なのです。


つまり日本の巨大化ヒーローの元祖がこの『ビッグX』なのであります。

元祖にも関わらず
もはや完全にウルトラマンの影に隠れてしまい
今やその存在すら知らない方も多いのではないでしょうか。

なぜウルトラマンに完膚なきまでに叩きのめされたのか…?

ここを見ていくことで
この『ビッグX』の惜しいところが色々と見えてくるんですね。


まず最大の要因は「人間がそのまま大きくなっちゃった」という点ですね。
これ結構重要なところでありまして
巨大化すると言う着想はめちゃくちゃ良かったのですが
人間がそのまま大きくなるってぶっちゃけ怖いです(笑)
…ていうかキモイ。
見慣れた顔がデカくなったら怖くないですか。

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確かに大きくなったら、強いし爽快感あって気持ちいいヒーローではありますが巨人って単純に…アホっぽいじゃないですか(笑)
ガリバーとかダイダラボッチもデカいだけで賢いって感じしなくないですか
だから巨人ってヒーローっていうか、一歩間違うとただの化け物です(笑)

大体ヒーローって
何かに変身して大きくなったり、巨大ロボットだったりするんですけど
人間がそのまま大きくなっただけですから、ガチで「進撃の巨人」です

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しかもミリタリールックですからね、手袋にブーツ
そしてヘルメットですから、めちゃくちゃ怖いです。

これ設定上、最大で90メートルまで巨大化しますから
90メートルのミリタリーの巨人ってちょっと怖くないですか(笑)

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やっぱり「ウルトラマン」筆頭に変身して大きくなるからいいんですよ。
ハヤタ隊員がそのままデカくなったらあそこまで人気にならなかったと思いますよ。
「キン肉マン」も一瞬だけめっちゃデカくなる設定がありましたけど
やはりあれは封印して正解ですよね(笑)あれやっちゃうと何でもありになっちゃいますからね。

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あとは子供の頃は全然意識せずに読めたんですけど
これ実は設定が第二次世界大戦のナチスドイツの秘密兵器ですからね。
ヤバイでしょ。
ギリギリアウトなような気がします(笑)

コスチュームも軍服イメージですし、めちゃくちゃヒットしてたとしても
ちょっと世間的にマズいんじゃないかな…
ヘルメットなんてモロにドイツ軍のヘルメットデザインですからね。

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確かにナチスの軍服って若者の支持率を上げるためにカッコよくデザインされていたので分からなくもないんですが
…ヒーローがナチの軍服じゃやっぱマズいですよね。

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あと巨大化する方法が注射を打って大きくなるんですけど
薬物注射のヒーローもマズイです(笑)
さすがに人体実験はアウトですね。
これはアニメ化の際にはさすがに…ってことだと思うんですけど
特殊な電磁波的なものを出して巨大化させるという設定に変更されていました。

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このようにエンタメとして新機軸を打ち出した設定でしたが
所々に惜しいところがあって埋もれてしまうことになりました。
手塚作品の持つメタモルフォーゼ感があんまり発揮されない作品でもありましたね。そのまま大きくなっちゃったので手塚漫画の持つ歪な変身って感じをあまり感じる事ができなかったのは残念でした。


やはり手塚漫画って変身によるいかがわしさ
歪な世界観が作品への没入感に繋がってくるのでこの要素が薄まると平凡な作品になっちゃいますよね。


ストーリーもどちらかと言えば単調で
デカくなって暴れまわるだけと言うマンガになっちゃった感が強くてせっかくの大きくなる設定を活かした面白いエピソードがなかったのも残念。

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「戦争の狂気」「悲惨さ」という手塚作品の反戦テーマも感じさせてくれるるんですけど他の手塚作品と比べてしまうと「らしさ」があまり発揮されていない感じがします。

先生ならこの「ビッグX」の力をもっと平和のために使おうとか
大きな力を得た者は使い方次第で善にも悪にもなるよと言ったメッセージ性をもっとストーリーの中に放り込んでくるんですけど
どうしたって巨大化してストレス発散的な敵のなぎ倒し方していたら
ストーリーが単調になりやすかったんじゃないでしょうか…。


マンガという新しい文化を大人にも読ませるといったバランス感覚が手塚作品の持ち味でもあったわけですが残念ながら本作ではその要素は発揮されず
これまでのような重厚なテーマ性をもった手塚作品と比べるとややストーリーが弱くなったのは否めません。

実際、
先生本人も本作のことを「あまり好きではない」と言っておられます。
この理由が「あとがき」に書いてありますので
これを紹介して今回は終わろうかと思います。

「ヒットはしましたが、ぼくとしてはあまり好きな作品ではありません。
やたらと正義の味方ぶるからです」

そこかい!

理由そこかい(笑)

さすが手塚治虫です。



というわけで「ビッグX」お届けいたしました。
設定自体も決して悪くないですしテーマも反戦テーマという手塚作品の王道とも言える作品でありましたが先生本人もあまり好きではなく、
そして当時のマンガ、テレビ共にヒットはしていたにも関わらず
大きく業界を変革させるような代表作にはならなかった、
なれなかった「惜しい」作品と言えると思います。
これは手塚あるあるなんですけど
ちょっと時代が早すぎたのかもしれませんね。

よろしければお手に取って読んでみてください。


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