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【追悼】「さいとうたかを」と手塚治虫

今回は「さいとうたかを先生追悼特別版」をお届けします。


2021年9月24日
「ゴルゴ13」でおなじみの
「劇画家」さいとうたかを先生がお亡くなりになりました。


偉大なる昭和の巨匠がまた一人この世を去ったわけです。

このチャンネルは手塚治虫専門チャンネルでありますので
さいとう先生の功績をご紹介するというのではなく
「手塚治虫とさいとうたかを」というテーマで追悼したいと思います。



さいとう先生と言えば「ゴルゴ13」に代表されるように「劇画」という一大ジャンルを確立したことで有名です。
かつては「子供のためのもの」と思われていた漫画のイメージを覆し
大人も読めるという漫画の裾野を広げた
日本漫画の歴史を作った偉大な漫画家でもあります。

実はさいとう先生と手塚先生とは結構、
縁が深く手塚治虫抜きでは「さいとうたかを」を語れません。
なによりまず11月3日生まれと言うことで誕生日が一緒ですからね。
この時点で縁深いものがありますね。

まぁそれはさておき…

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「さいとうたかを」と手塚治虫とのイメージを語るとき最初に出るのが
対立構造です。
これ必ず出てきますね(笑)

これまで漫画とは可愛い子供向けだったいわゆる手塚スタイルを駆逐し
「劇画」を世に広めたというものというあの図式ですね。
…ひどいものになると
手塚治虫を敵対視しているという声もあるほどですが…

これね、間違いなんですよ。


一部分だけ見るとその通りなんですが
正確にはこれは正しいものではありません。

敵対も何も、さいとう先生は手塚先生のこと尊敬してますからね。
「ボクの漫画家人生は手塚先生抜きにはありえない」
と自ら仰っておられますし
「漫画界に導いてくれた恩人」とまで言っています。


遡ること1947年、
当時11歳のさいとう少年は手塚治虫の「新宝島」に出会います。
その時の出会いをこう語っております。

「その衝撃たるやいかんばかりか、今までの漫画とはまるで違う
まるで映画を見ているようなメリハリのあるコマ割りとスピード感ある展開
「紙で映画みたいなものができる」と興奮したのを今でも覚えている
漫画界はこれから伸びる。これは生涯の仕事にするべきだと思った」

と述べておられるように
藤子不二雄先生、石ノ森章太郎先生他、数々の巨匠たちを虜にした
手塚治虫伝説の傑作「新宝島」の
魅力に憑りつかれた一人だったわけであります。

この記事は「漫画家が見た手塚治虫」という本の中の一遍
さいとうたかを先生の「偉大なる先輩 手塚治虫」というページに記されておりますので興味がある方は見て頂ければと思います。
↓ こちら。


この本には載っておりませんが実はさいとう先生
この時、感動しすぎて宝塚にある手塚先生の実家を訪ねているんですね
残念ながら居留守使われちゃって会うことはできなかったんですけど…
これね
藤子不二雄のお二人と全く同じことやってますよね(笑)
もういても経ってもいられなくなるという衝動。
若さゆえの漲る圧倒的情熱とパワー、青春です。
まんが道に宝塚を訪ねるシーン掲載されています。


その後さいとう先生は漫画家を目指すために「漫画少年」に投稿を続け
審査員をしていた手塚先生の目に止まりデビューすることになるんですけど
この時は手塚先生にボロカスに言われちゃうんですね(笑)

…でもこれは手塚治虫のいつものパターンのやつで
才能ある新人に嫉妬してクソミソに言うという例のアレなんで
実は最大級の評価であります。


でその後、
さいとう先生は辰巳ヨシヒロを筆頭として「劇画工房」を立ち上げるわけですよ、
この「劇画工房」の誕生は日本漫画の歴史において非常に重要な転換点となりますので漫画ファンはぜひとも押さえておいてくださいね。

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そして1956年に劇画中心の雑誌「影」が発刊され
この時に初めて「劇画」という言葉が日本で誕生するんです。

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そしてその時に
立ち上げの気合を入れるために「打倒手塚!」を掲げるわけであります。

そもそも「打倒手塚」ってワードが今考えるととんでもない事で
一人の漫画家を名指ししてますからね(笑)
それほどまでにこの時期は「漫画=手塚治虫」だったんですよ。



それほどまでに手塚治虫とは大きな存在でありましたから
新しい漫画を描く=手塚の敵と思われてもしょうがないんですね。

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このイメージが一人歩きしちゃって手塚治虫との対立構造を生んでしまうんでしょうけど実際は全然そんなことはなく、むしろ「劇画工房」のメンバーほぼ全員が熱烈な手塚ファンという状況だったそうです(笑)

こちらの「手塚治虫とキャラクターの世界」という雑誌に
さいとう先生の記事がありまして
そちらにはこうあります。

「漫画家を目指す人の動機は手塚先生に憧れてというのがほぼ100%で
漫画がこれから成長するビジネスだと考えていたボクは異端だった」

…とあります。

まぁ影響を受けていないと豪語したところで「打倒」を掲げている時点で
何らかを意識しちゃっているわけで
当時漫画を語る上で手塚治虫を通るというのは
ある種の通過儀礼みたいなものでありました
実際、最初の頃のさいとう先生も手塚タッチでしたからね(笑)



続けて
「他の人たちみたいにボクは手塚先生を神様とは思ってはいない。
でも「新宝島」で漫画の可能性に気づかせてくれた恩人として漫画界に新しい風を吹き込んでくれた偉大な天才として尊敬している」
とあります

さいとう先生は手塚先生に影響を受け尊敬はしているが
目指すべきところではない、
むしろそれとは違うスタイルに活路を見出していたんですね

ここですよね。
違うスタイルであっても決して批判ではないということですよ。
世間はネガティブなネタの方が取り上げられるし、むしろ話題になる
だから悪いほうへ拡大解釈されがちになっちゃうんですけど
実際は大きなリスペクトを持っていたということなんですね。

極めつけは1970年代に入り手塚治虫が冬の時代、大スランプ期に入り
それを機に「劇画」が急速に勢力を拡大していきます。
「手塚は終わった」「これからは劇画の時代」「劇画が手塚を倒した」
そう世間は新しいタイプの漫画をもてはやすようになります。

その時のことを振り返りさいとう先生はこう語っております。


「たまたまその時期と手塚先生が低迷された時期が重なっているせいで
先生が劇画を敵視していた、劇画に刺激を受けて
大人向けの漫画を描くようになったと噂されているけど
ボクはとても光栄なことだと思う。
あの「天下の手塚」が
劇画を同じ土俵に上げてくれていたということの表れ」

…とどんな状況にあっても手塚治虫の偉大さ感じていたようですね。

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そして執筆スタイルも手塚先生とは異なり
さいとう先生は分業制として有名であります。
これも手塚スタイルを批判しているのではなく
むしろ常に何でも一人でこなしてしまう天才手塚治虫の仕事に舌を巻いていたそうです。

「原案、脚本、絵を描くそれぞれは別の才能である
ところが手塚先生はそれを一人でやっていく
しかもどの作品もレベルが高い、とてつもない天才だと思う」

と手塚治虫の変態ぶりに驚愕しておられました。

自分にはとてもできない、
だから自分はこのスタイルでいくと製作を分業制にしていたわけで
これも決して対立構造ではないんですね。

まぁ実際、締切が遅れまくって出版社に迷惑をかけていた手塚スタイルは決して褒められたものではありませんけど(笑)
かたや分業制も「目」しか描いていないなんてデマが流れたり
世間はどっちがいいとか優劣をつけたがりますけど
作家それぞれにあったスタイルを互いに追及していたということだけなんですね、

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そしてさいとう先生は

「ボクはリアルなドラマを表現したかった、
実は劇画の主体はドラマだということを知って欲しいね」

と語っており以外にも
「劇画」と言うとリアルなタッチばかりが目にいきますが
実はその背景にある精密なドラマが「劇画」の根幹であると
言っておられます。

事実「ゴルゴ13」は非常にドラマ性があり
ストーリーが緻密に練り込まれているのが特徴です。
専門家が唸ってしまうほど細部にこだわり資料を徹底的に読み込み
設定ストーリーを練り上げていく。
これこそ、さいとう先生の大きな特徴といっても過言ではないでしょうね。


続けて

「手塚漫画が今も読まれ続けているのは話がちゃんとしていれば時代が変わっても読みものとして通用するという証拠だ」

とも語っており
やはり漫画においてストーリーこそが
最大のポイントであると言っておられるわけですね。

だからさいとう先生って実は
「劇画漫画」というより「ストーリー漫画」が正解なんですよね。

これは「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」のカテゴリーでギネス世界記録に認定された作家ならではの解答ではないでしょうか。
有無を言わせぬ説得感があります。

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ギネス記録の201巻(仮想通貨の話題を取り扱い時代に沿った脚本ストーリーはさすがの一言!)



…というわけで非常にサラリとではありますが
「手塚治虫とさいとうたかを」にまつわるお話をさせていただきました。


日本の漫画界を形作ってきたレジェンドたちが徐々にこの世を去っていき
非常に悲しくもあり、また時代の流れ移り変わりを感じます。
いつか必ずこのような日が訪れるわけですが
その際には改めて故人の作品に触れることで
その偉業を風化させることなく次の世代へと紡いでいければいいなと思っております。

謹んでお悔やみ申し上げます


「さいとうたかを」を読もう!





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