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手塚治虫『新宝島』の衝撃

今回は手塚治虫のデビュー作であり後の日本マンガ史において
強烈な光を放ち続ける伝説の作品をご紹介いたします。

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いきなりですがこちら正確にはデビュー作ではないんですね。
デビュー作は「マァチャンの日記帳」という4コママンガなので
『新宝島』は正式なデビュー作ではありません。
ただ長編ストーリー漫画としてはデビュー作なのでそう語られているってわけです。

そしてこの『新宝島』が鮮烈にして衝撃なデビューを飾るわけでありますが
なぜ戦後漫画の出発点、日本漫画史のスタートとして歴史に大きく位置付けられている作品なのかご紹介します。


手塚伝説は、ここから始まったと言ってもいいでしょう

それではどのような作品だったのか見ていきましょう。

戦後1947年に発表され、
なんと40万部も売れたと言われる当時の大ヒット作品。
最も大きな衝撃は
それまでの漫画というのは、単調な画面構成が主流だったんですが、

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『新宝島』では映画の手法を取り入れた躍動感に溢れる画面構成を取り入れました。(ここら辺は映画好きの手塚先生らしい演出と言えます。)
そして単純で短かいという当時の常識をぶち破った200ページを超える圧倒的ボリューム(ページ数)

冒頭の車を走らせるシーンはマンガ史に残る屈指のオープニングであり
当時の子どもたちが見たこともない面白さに震えたそうです。

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次の日、学校で「おいあのマンガみたかよ!」
「すんげぇ面白れ~マンガみつけたんだよ~」

って子供たちの間で『新宝島』の話題で持ちきりだったそうです。
戦後まもなく娯楽も文化も成熟していない時に現れた
革命的な表現方法は相当な衝撃だったようですね。

ここら辺の表現は現在の漫画に触れている読者にはよく理解できないと思いますしボクも体感していないのでわかりません。
正直リアルタイムで本作に触れた読者しか感じられない領域だと思います。


その興奮をマンガ化しているのが
ご存じ藤子不二雄A氏の代表作「まんが道」です

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藤子不二雄のお二人が初めて手塚治虫先生の『新宝島』に出会った時の衝撃シーンがこれでもかとばかりに描かれています。光り輝いてめちゃくちゃ神々しい演出です
もうその崇拝っぷりったらハンパじゃないですね。
このシーンを見るだけで如何にこの『新宝島』出現が異次元だったのか感じ取れると思いますので参考までに一読してみてください

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そしてその衝撃は藤子不二雄先生に限らず
今日の漫画の隆盛を担ってきた若い作家たちにも大きな影響を与えた事でも知られています。
その代表的な例が石森章太郎先生赤塚不二夫先生
その他
ちばてつや先生、望月三起也先生、楳図かずお先生、中沢啓治先生、など
多数いますし
ゴルゴ13のさいとう・たかを先生もその衝撃を語っています。

漫画家以外にも、立川談志さん、小松左京さん、宮崎駿さん、横尾忠則さん、超一線級の芸術家たちがその影響化にあったと語っています。

当時の娯楽に飢えていた子どもたちにとって
まさに『新宝島』はバイブル的な存在だったことと思いますよ
ボクも昔は好きなマンガを毎日握りしめていた時もありましたし
今のようにスマホ一台で何でもかんでも情報が手に入る時代じゃなかったわけですから
そりゃあもう宝物を握りしめているようなもんですよ。
大事に大事にしながらそれでも擦り切れるように読んでましたから。

そんな漫画の原点ともいえる作品に触れ
漫画の面白さ、漫画制作に目覚めた子供たちが後に人気作家や著名人になっていった名前を見れば
日本漫画史のスタート、歴史の転換期であることに疑いの余地はないでしょう。


そんな貴重な『新宝島』ですが
現存が確認されたものが2002年時点で3冊しかなく、
一節には初版本ならなんと300万円、
再版でも150万円前後と藤子不二雄の『最後の世界大戦』と並んで
『日本一高い漫画単行本』となっているそうですね
これはもう博物館もんです。お持ちの方は売らずにぜひ博物館に寄贈しましょう。

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そんな貴重な『新宝島』ですが、実は講談社発行の手塚治虫全集で手軽に読むことができます。
しかしですねこれは
1986年に全てが描き直され、タッチもコマ割りも異なり、
昭和22年発行の元祖『新寶島』とは全く異なるものになってしまっています。

めちゃくちゃ修正が入っているんですがその理由やいきさつなどは
手塚治虫漫画全集版巻末の「『新宝島』改訂版刊行のいきさつ」において語られていますので
そちらを参考にしていただければと思います。

まぁ初版本じゃなきゃ絶対ヤダ!という方以外、
初めて読んでみようと思う人は全集版の『新宝島』の方がいいと思います。

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なんといっても読みやすい。
絵が綺麗。構図も整理されていて現代でも通用する読み口になっていますし
とても70年以上も前の作品とは思えないほど自然に読めます。
ここらへんは本当驚きに値しますね。古いんだけど古臭くないというか…
そしてストーリーも不本意だったところを構成し直して、
手塚治虫先生本人がの本来の意図するオチを付け足してあり、
「起承転結がきっちりとした」ものになっている。と語っています。

これら作業をしたのは1986年当時の手塚治虫先生本人で1989年に亡くなるほんの3年前
自分のデビュー作を晩年にリメイクするってどんな心境なんでしょうね
元々手塚先生は修正大好きっ子で『新宝島』に限らず数々の自分の作品で手を加えることで有名です。
あの有名な「鉄腕アトム」でも複数のクライマックスが存在しますし
「ジャングル大帝」も書き直し過ぎてオリジナルがどこにあるのか分からないと言うほど修正マニアです。
ですのでこの『新宝島』のリメイクも不思議なことではありません。

ちなみに先ほどご紹介した
『まんが道』に登場するものはオリジナル版なので気になる方はこちらもチェックしてみてくださいね。


さぁ前置きが長くなりましたが今更ながらあらすじを追ってみましょう。

あらすじ
端的に宝島の地図をめぐる冒険活劇です。
亡くなったお父さんが残した宝島の地図を見つけたピート少年は、お父さんの親友の船長とともに、
宝探しの航海に出ます。ところが船は海賊に襲われて、捕まってしまい、さらに海賊船が嵐にあい、ふたりは漂流してある島に漂着してしまいます
するとそこは、お父さんの地図にあった宝島だった。
ここから夢とスリル満載の冒険が始まりますというストーリー。

手塚先生本人が「宝島」と「ロビンソン・クルーソー」と「ターザン」
ミックスしたような作品と評していましたがまさにそんな感じの作品ですね。

今の世代の方が読むと物足りなさを感じるとは思いますが
今でもふつうに読めてしまうというのは漫画としての普遍的な面白さが凝縮されているからだと思います。

娯楽がほとんどない時代においてこの完成度はまさに特筆すべき作品といえます。

日本漫画の概念を変え、漫画を魅力的な芸術の域にまで押し上げ、
文学や映画含めあらゆるジャンルの文化レベルをも高めたキッカケともなった記念碑的作品

ぜひ一度、手に取って見ては如何でしょうか。


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