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「ブラック・ジャック創作(秘)話」手塚治虫異常なる変態伝説!

今回は「ブラック・ジャック創作(秘)話」をお届いたします。

もはや手塚治虫の実録漫画のド本命なのでご紹介するのも憚るんですが
手塚治虫に興味を持ったばかりの人
手塚治虫の人物像をあまり知らない人など
手塚治虫を知る上ではやはり非常に際立った作品ですので
今回はその魅力をお伝えしたいと思います。

以前に
手塚治虫を主人公とせず別視点から見た天才手塚治虫の素顔を描いた
傑作漫画「チェイサー」をご紹介しております。
こちらもめちゃくちゃ面白いです。
というか破格に面白いです。
両作ともコンセプトが違うので二作品読むことでより手塚治虫という変態作家を知るキッカケになりますし、手塚治虫好きじゃなくてもクリエイターや「ものづくり」の現場に携わっておられる方であれば必ず刺激的な一冊になろうかと思うオススメの1冊になっております。

ぜひ併せてご覧になってみてください。


それではいってみましょう
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まず本作を一言でいうなら

「まさに変態」です。

これは常人の理解を遥かに超えたド変態人間の物語です。

もうぶっちぎり過ぎて今では考えられない常識が絶え間なく炸裂するという手塚治虫伝説!!!!!!

人ってめちゃくちゃに好きなことを追求すると
こんなにも人様に迷惑をかけるんだなっていう典型的な例がいくつも紹介されています(笑)


そんな面白過ぎて夢中になって読みまくってしまうこの漫画
「ブラック・ジャック創作(秘)話」と言いまして
原作宮崎克(まさる)さん、作画吉本浩二さんによる
手塚治虫の制作現場の舞台裏を描いた実録漫画であります。
その中から今回は面白いエピソードをいくつかご紹介しようと思いますが
マジで面白いのでネタバレしたくない方は今すぐポチってください。

それではネタバレいきますよ。



まずは絶望的な状況の中で「ブラックジャック」を1日半で描き上げた話

とにかく締切ギリギリで有名な手塚先生ですがこの時も超ギリギリ
ブラックジャックの読み切り依頼が入っていたんですけど、
しかしそんな予定など
マネージャーの耳にも入っていなかったという大ピンチを迎えます。
もちろん隙間時間なんてない超絶な過密スケジュールですから
今書いている他の原稿をすべて止めて書き出さないと
間に合わない状況というとんでもない異常事態です。


担当編集はもうこれは完全に終了…
ついに原稿を落としてしまったと途方に暮れていたところ
そんな中、たった今、別雑誌の100ページ企画が終わって疲れの限界の
手塚先生が担当者を呼び止めて
「ストーリーを3つ考えました」って誰もいない仕事場で声をかけてくれるんですね。
そうです別の編集者の居ない時間を見計らって時間を割いてくれ、さらに3つもストーリーを考えたというから驚きです。

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そしてすごいのはここから…
先生は3つあるストーリーの内「どれがいいですか?」って聞くんですけど
担当者はストーリーなんか正直どうでもいいから

「どれが一番早く仕上がりますか?」

って言っちゃうんですね。
これに対し、手塚先生は激怒して仕事部屋に引っ込んじゃうんです。

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完全に怒らせた…

せっかく時間を割いてくれ、しかも手を抜かず真剣に考えてくれている先生にとても失礼な返答をしてしまった。「もう終わりだ」

…なんて思っていると
30分後に「もう一個考えました」って
なんと手塚先生は別案を持って来たんです(笑)えええええ!4つ目!
そっちかい!
そこから怒涛の勢いで描き上げ1日半でブラックジャックの作品を仕上げ
間に合ったというお話なんですけど…
色々凄まじすぎて笑っちゃいますよね。

この時担当者は
どんなに過酷で限界な時でも決して妥協せず常に最高のものを届けようという手塚治虫の姿勢に感動したそうです。

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その時のエピソードが第232話「虚像」であります。
1日半ですべてを完成させた作品をぜひご覧になってみてください。



続いてバンダーブックのお話

これはすごいですよ(笑)
数ある伝説の中でも超ド級の凄まじいお話です。

これは記念すべき第一回目の24時間テレビの中で放映される2時間アニメの「バンダーブック」のとき。
一向に絵コンテが仕上がらず放映日2か月を切っても何も進んでおらず
あろうことか製作担当が突然失踪しちゃうという大事故が起きます(笑)

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この一大事に特別会議を開き
どこが遅れているか確認して分担しようってなったときに
こことここが遅れてますって話になると手塚先生は

「これ手塚やります」「これも手塚」って
全部引き受けちゃうんですね(笑)
結果、ほぼすべて手塚先生がやることになって、
スタッフたちは安堵するんですが…

実はここから本当の地獄の始まるわけです

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遅れ遅れなんとかギリギリのギリギリでやっと試写までこぎつけるんですけど手塚先生はほとんどに仕上がりに「リテイク」出すんです。
要するに修正やり直しです。


ただでさえ遅れていて時間がないのに「リテイク」の嵐でスタッフの不満も溜まっていくんです。
「先生もう無茶ですって…」
それでも手塚先生は妥協を許さないんです。
そもそも無茶なスケジュールの中、アニメの仕事を引き受け
スタッフに逃げられながらも、残りを全部自分で引き受けて、
さらに自分で状況を悪化させ、
それでも作品には妥協せず全力で取り組む手塚治虫

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今でこそ美談に聞こえるかもしれませんけど
この時点で締切1か月切っていますからね。2時間アニメですよ。
2時間アニメを1か月ですよ。
映画と同じ尺です(笑)
映画アニメを1か月で作っちゃうようなもんです。
どんなに早くても半年以上はかかると言われているアニメ映画を1か月で、しかも本業のマンガの連載も死ぬほど忙しい中で
アニメ映画を並行して行うという無茶ぶり。

そんな猛烈に地獄的な状況の中
やり直し(リテイク)をするんです(笑)

ハンパじゃありません。

はっきりいって正気じゃないです!
この時の熱気、破壊的で絶望的な状況はぜひ漫画で体験してみてください。猛烈ですから。

そしてなんとなんと…
奇跡的にオンエアに間に合っちゃうんですね。。
ここら辺が手塚治虫なんですけど…

どのくらい奇跡かというと放送開始日の開始時間ギリギリに納品され
すでに放映中にも関わらず、後半の最後のリールが納品されていなかったというくらいむちゃくちゃな話です。

これが終わってみると番組内最高視聴率の28%を叩き出しスタッフの苦労が報われると言う恐ろしいくらい漫画のような伝説的なエピソードなのであります。この熱気といいますか狂気の仕事現場をぜひご覧になってみて欲しいと思います。

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続いて伝説のアメリカ電話事件いきましょか。
これも、もはや語り草になるくらい超有名な変態エピソードです。

1980年の夏、アメリカ・サンディエゴで開催されるコミック・コンベンションに参加することになった手塚先生
スケジュールを前倒しで進めると言いながらも結局出発日に原稿は上がらず
仕上がっていない原稿はアメリカから送ると約束したものの…

この日までに原稿が届かなかったら
終わりという日になっても原稿が届きません。
やはりというか恐れていた事は実現しちゃうんですね

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もはや絶望的。
当時はインターネットもFAXすらない時代、
原稿を送る手段は完全に断たれたというのに
それでも手塚先生は前代未聞の方法で原稿を仕上げるという。

その方法とは
国際電話でスタッフに方眼紙でコマ割りを指示し、
コマだけの空欄原稿を完成させるという。

???

スタッフは皆困惑します。

手塚先生から電話がかかってくると
すかさず手塚先生から細かな指示が下ります
一体電話だけでどうやって背景の指示をするのかというと
「ブラックジャック」の三話前6ページ3コマ目の校門をこのコマに入れてくださいとか
「三つ目がとおる」2話前の10ページの住宅街をよりクローズアップして全面にとか
過去の作品のどこそこを参考にして背景の指示を出していたんですね。

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しかも本当にすごいのは
手塚先生はアメリカのサンディエゴから
何の資料もなしで一片のメモもなく
すべて手塚先生の頭の中にある記憶から指示していたんです。

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つまり事務所の本棚のどこに何があるか、すべての作品の何ページに何が描かれてあるかをすべて暗記しているってことです。
立ち会った人達は先生の頭の中いったいどうなってんの?

と何が起きているか理解できなかったそうです。
これぞまさに凡人には到底理解できない変態の領域ですよね。

そのおかげで
何とか帰国後に手を加えてギリギリ締切には間に合ったそうです。

…とまぁ
とにかく今回ご紹介したような爆裂的なエピソードが満載なのが
手塚治虫でありその執筆における破壊的なエピソードを詰め込んだのが本作であります。

製作現場を実際に肌で感じ共に苦しみ抜いた体験者の方々のインタヴュー、証言をもとに本作は漫画化されていますので
非常にリアル且つ当時の熱い熱気が焼き尽くされるほどに伝わってきます。

手塚治虫の情熱、狂気、異常
めちゃくちゃ熱中して周囲に嵐を引き起こすまさに台風のような存在なんですけどその凄まじさ故になんだかんだ言って廻りの人たちもその異常なエネルギーに感化されていくという凄まじい光景を見ることができます。


なにより本書に出てくる手塚治虫像がえげつない。


漫画の神様という神棚に祀り上げられる存在なんて何処にもなくて
ランニング一枚で差し歯を外してハゲた頭を散らかしながら汗だくで
がむしゃらに漫画を描いているだけの
其処らへんにいるただのオッサンなんですよ(笑)

実際、作中でアシスタントが「誰これ?」って間違えてしまうほど
素の手塚治虫像が描かれています。
華やかさのかけらもなくただひたすらに漫画に打ち込む真の手塚治虫像
これはぜひともご覧頂きたい。

タイトルには「ブラックジャック」ってついてますけど「ブラックジャック」に限らずそのほかの作品についても描かれていますし間違いなく手塚治虫の仕事を知るには最適の1冊です。

もちろんまだまだ今回ご紹介できていない「ブラックジャック」のトンデモエピソードも満載ですよ。
ブラックジャックが本当は3~4回で終わる予定だったとか
毎回エピソードを3つ用意してたとかブラックジャックの裏話もじっくりと収録されております。ぜひチェックしてみてください。

それでは!


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