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20191227 チャリンコ暴走族

 僕は職場までの移動で自転車を使っている。なんとただ自転車を漕いでいるだけの半年間で7キログラムもの体重が落ちた。どれだけ僕が身体を弛み鈍らせていたのかが如実に知れる。健全な精神を健全な肉体に宿らせるためにも、この良き習慣を飽きずに続けていきたい。全人類が同様の取り組みをすれば、巡り巡る結果として地球環境保全に役立ち、桶屋が儲かるのではないかだろうか? 僕も一介の環境活動家として、国連人間環境会議へ出席し、堂々たる金切り声でスピーチをせねばなるまい。移動は飛行機を使いたい。彼女の活動には敬服しかない。
 今でこそ、僕はチャリンコの虜ではあるが、過去には四輪自動車を使うこともあった。しかし、周辺環境の点から利便性がそれ程芳しいとも言えず、移動距離や出不精が故の使用頻度の極端な少なさとの釣り合いがあべこべに感じて手放すことにした。
 それから原動機付自転車に乗り換えた。元々は大学生の頃に友人から買い取ったもので、「不要になったから、二万円でいいよ」という破格の提示にカルカンに食いつくより早くまっしぐらに受け取った。それは天下のホンダ謹製、スーパーカブであった。あれから数年以上が経っているが、未だ僕の債務は不履行のままだ。払いたい気持ちは山々で、最早物見遊山できるまでに積もった。僕の財嚢にはいつも二人の諭吉が日の目を待ち侘びている。そのスーパーカブがあまりにも丁度良い塩梅だったために、僕はそいつと心中する覚悟を持って愛情を注いでいた。「ハイヨーシルバー!」と発破をかけながら、キックスターターを踏み込むと、そいつはブゥンと血気盛んに嘶いたものだ。
 しかし、あれは出梅をワイドショーで知らされたばかりの夜だった。僕の愛機のタイヤは物の見事にパンクした。一月前の定期点検に出し、磨耗したタイヤを欧米人くらいに堀の深いイカしたものへと交換したばかりだというのに、だ。湿度はよもや水中ではないのだろうかと疑う程で、僕は額から脇から至る所から吹き出でるナトリウム水溶液で張り付く衣服や頭髪に憤慨しながら、初夏の夜に舌打ちを響かせた。僕は愛機を必死の形相でそいつを押して帰った。坂道を登る推進力を得る為に一度スロットルを捻れば、具にそいつはブゥンと鳴った。僕はその軽快なエンジン音を聞いた時に、無性に腹が立った。どうして僕がこんな目に遭わなければならないのか。一体全体誰に許可を得てこいつはパンクしたのか。僕の問いかけにスーパーカブはブゥンとした嘶きで応えるのみだった。殊更に腹が立った。腑が煮えくり返ってE難度の大技を決めた。体を包み込む気候の暑さと、エンジン機構の熱さで朦朧としながら帰ったあの日から、僕はスーパーカブと袂を分けてしまった。
 そうして僕は瀟洒なミニベロを乗り回している。しゃかりきに漕いでいる。インターネット通販で数万円で購入した僕の新しい相棒の防犯登録をするべく、自宅近くの自転車販売店に持って行った。僕は法を遵守する男だ。判事の次に僕がいるやも知らない。しかし、その販売店はあーだこーだと屁理屈だか何だかわからぬ言い逃れをし、屋号に背く働きをした。建前ではなく本音が何かはわかるけれど。それ以降はそちらへ金銭を落とすつもりだった僕の気持ちは宙を舞って、霧散した。是正勧告を受ければいいのに。

映画観ます。