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『メトロポリス』 マリアは現代のAIアイドルである。大正時代に製作されたSF映画の金字塔。

評価 ☆☆☆



あらすじ
未来都市メトロポリスでは富裕層は地上で豊かな生活を送り、労働者たちは地下深くで過酷な労働をしていた。ある日、メトロポリスの支配者フレーダーセンの息子フレーダーが労働者階級の娘マリアに出会った。一目でマリアに惹かれたフレーダーは彼女を追って地下に入っていった。



巨大な時計の針を無意味に動かす男。「この労働はまるで永遠だ!」という字幕が入る。『メトロポリス』のこのシーンを観たのは、20歳前後の頃だった。時が経ち、仕事をするようになってみると本当によくわかる。永遠に思える単調作業ほど苦しいものはない。僕もアルバイトで単純作業をすることが何度もあったけど、本当に永遠に思えるほどつらかった。



『メトロポリス』は1926年に製作されたSFサイレント映画。1926年といえば大正15年。フリッツ・ラング監督作品であり、SF映画の原点として知られている。



『メトロポリス』は共産主義と資本主義の対立をベースにしている物語であったために、完成後、アメリカの映画会社によって勝手にラストを改変させられたという。その後、大戦が始まり、この映画は一時期フィルムが散在した。現在も修復しつつあるが、そのバージョンによっては話がわからなかったりもするらしい。



ストーリーの面白さもさることながら、登場人物たちの奇妙な演技、ラングのデザインセンスの凄さ、映像の圧倒さが際立つ。僕が最初に観たのは1984年ヴァージョンで、これはジョルジョ・モロダーが音楽をつけ、カラーリング(フィルターをかけたみたいな感じ)したバージョン。当時はこれしか手に入らなかったのだ。



その後、調べたらモロダーはこの映画でラジ―賞を獲得していた。ジョルジュ・モロダーはシンセサイザー演奏、映画音楽家としても知られる。この作品というかメトロポリス再リリース企画にはクイーンなども参加していた。クイーンのプロモビデオにこの『メトロポリス』の一部が使われていて、こっちはカッコよかったです。



最近、いわゆる完全版を観たのだが、これがすごかった。当時、世界的な好景気だったのがよくわかる。お金がかかっています。CGなんて一切使わないでここまでのことができるとは、ちょっと信じられない。



ブリギッテ・ヘルムは、人造人間(懐かしい響きだ)と本物のマリアの二役を演じているが、目がいっちゃってます。狂気を孕んだ人造人間って怖い。このマリアのアンドロイドの造型は、その後、『スターウォーズ』のC-3POに引き継がれている。ついでに『ボディーガード』の中で、女性シンガーのプロモーションビデオの一部として使われているのが、この映画の断片である。



この映画はPerfumeを思い出させる。彼女たちの曲の中で「エッジ」というのがある。この「エッジ」をPerfumeがライブで行う動画を観た。これはまさに『メトロポリス』だ。この映画の持つ宗教性がふたつの動画を結びつける。彼女たちは、この映画のマリアのように、男たちを集め、歓喜させ、興奮させ、先導するかのようだった。



もう少し言うなら、アイドルとテクノロジーの融合。そこに、プラスしてカリスマあるいは宗教性持つことを『メトロポリス』は予言し、perfumeはそれを体現した。ここには性的関心とアイドルそしてテクノロジーという3つの要素の共通部分として成立する宗教性あるいは母性を提起する。AIアイドル(初音ミクの発展形といっていい)の発現と発展は、すでにこの映画で映像化されていたことが驚きだった。



ある意味、預言的な映画でもあった。そうでなくてもそのイマジネーション、予算のかけ方、クオリティを含め、映画史上に残る作品であることは間違いない。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-02-16



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