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『遠野物語』 映画化できただけでも素晴らしい。年を経るほどに輝きを増していく作品でもある。

評価 ☆☆




あらすじ
明治三十七年、岩手県の南部に位置する遠野郷。土地の豪農である佐々木家にあって、ひとり娘である小夜は今日、十六歳の誕生日を迎える。寺ではオシラサマの祭りが執り行われた。その帰り道、玉依御前と契りを交わした日月の白馬が吊され殺されたという満開の桜の巨木にたたずんだ。





時代に埋もれてしまう名作がいくつかある。そういう映画を何とか知らしめたいと思うことがある。映画『遠野物語』もそのひとつ。1982年に公開された作品で、監督は村野鐵太郎。出演は原陽子、隆大介など。





柳田國男の名著「遠野物語」をモチーフに再構成されたもので、明治時代の岩手県遠野市を舞台にしたラブストーリー(といってもいいんだと思う)である。僕は「遠野物語」という本が大好きで何度も読み直している。この本を元に映画が撮影されることを知り、かなり期待していた。



同じ映画サークルの大先輩のY氏が遠野出身だった。僕が旅をした時にふと立ち寄ってご迷惑をおかけしたこともある。その節は申し訳ありませんでした。



実際、この映画は僕の予想とは異なった仕上がりになっていたけれど、十分にクオリティは高かった。全体的にはオフビートではあるものの、緻密な映像で綴られている。白馬の疾走がスローモーションで撮影されているシーンなどは鳥肌モノである。咲き誇る巨大な桜のカットはそれだけで荘厳ですらある。



ちなみに撮影直前まで桜が十分に花を咲かせていなかったらしい。俗説ではあるが、日本酒を桜の根本に撒いたら花が咲く、と言われていたので、一か八かやってみた。すると、翌日に満開になったので撮影したという逸話が残っている。柳田國男も驚きの話であるが事実らしい。



役者たちも素晴らしかった。隆大介のストイックな演技も原陽子の純粋さを兼ね備えた美しさも印象的だ。映画の中には年齢を重ねれば重ねるほどに輝きを増してくるものもある。三島由紀夫や芥川龍之介の小説を若い頃に読んだような感覚に近いのかもしれない。ちなみに彼らもまた柳田の「遠野物語」を高く評価している。





監督は村野鐵太郎。僕はあまりこの監督のことを知らない。映画の見方は「面白いか、面白くないか」だけではない。そんなことばかりで判断していると大切な何かを見失うことにもなる。そのことを気づかせてくれる映画でもある。



機会があればぜひ観てほしい。ただし、ストーリーや盛り上がりだけを求める観客ならば、この映画は覚悟が必要かもしれない。だが。こういうのを映画的体験というのだ。



初出 「西参道シネマブログ」 2011-09-16



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