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『細雪』 映画監督として市川崑が小津安二郎への尊敬をカットの中に表現している。

評価 ☆☆☆



あらすじ
昭和13年春。大阪船場で暖簾問屋を経営する蒔岡家。そこの四姉妹は今年も花見をするために京都の料亭に集まっていた。長女、鶴子は婿養子で銀行員の辰雄と子供たちと共に上本町の屋敷で暮らしている。次女の幸子は婿養子で百貨店勤務の貞之助と娘の悦子と芦屋の分家にいる。独身の三女・雪子と四女の妙子も分家の方で暮らしていた。



久しぶりに『細雪』を観た。佐久間良子、岸恵子、吉永小百合、古手川祐子が姉妹を演じているが、若い頃観た時は「美しい映像だな」とか「『犬神家の一族』に映像が似てるなぁ」なんてことくらいしか頭になかった。けれど、今回はいろんな発見がありました。



今回の『細雪』は1983年版。監督は市川崑。出演は佐久間良子、岸恵子など。1959年にもすでに映画化されている。そちらの監督は島耕二。轟夕起子、京マチ子、山本富士子、叶順子が出演。根上淳、川崎敬三らが脇を固めている。



発見のひとつは、小津安二郎の映画を相当意識して作っているということ。特に小津映画の中でも『東京暮色』あたりのオマージュがいっぱいある。病室のシーン、バーのシーンなんてそのままだ。



市川崑監督はテレビドラマで『晩春』をリメイクしたことでも知られるけれど、それも納得。ただし、流用とか引用というよりもオマージュに近い。自分ならこう撮影した、というスタイルは全然崩れていないです。さすが市川監督。



もうひとつ、谷崎的日本のあり方がよく伝わってきた。本家と分家の対立、時代に逆らおうとする昔気質の姉たち、時代にはじき飛ばされながらも自由奔放に生きようとする妹たち、没落していく大阪の名家など。将来、こういう物語を描いてみたいものだ。崩れゆくものとか、壊れゆくものって、やはり美があっていいですよね。



もちろん、着物の美しさ、日本庭園の素晴らしさ、桜の舞いも切ない。フィルムならではの深い色合いもいい。こういうのを観るとCGの浅はかさがよくわかる。デジタルはまだまだ所詮若造かな。谷崎の「陰影礼賛」を思い出す。



ただし、音楽に関しての「あれはないでしょう」という意見もあるみたいだが、僕も同意。クラシックをそのまま使うと考えるとスノッブ過ぎる気はするけどね。じゃあ、どうすればいいかと聞かれたら、わかりません。わからないけど、クラシックで良かったんじゃないかな。



あんまり関係ないけど、映像では一度も出てこなかった吉兆の料理、食べてみたいですね。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-03-03



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