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eポートフォリオの光と闇

お世話になります。ドリームラーナーズの石原です。鳥取県倉吉市で進路指導と学習法指導の塾を運営しています。学習指導は中学生・高校生・大人、英語の指導は小学生から対応しています。LINEなどを活用して、遠隔地でも進路指導・学習指導に対応しています。

今日は、とある界隈で話題になっているeポートフォリオの話をします。

eポートフォリオって何?

高校での学習や部活動などの記録を生徒自身が電子データにまとめる「eポートフォリオ」を導入する動きが広がっている。2020年度から始まる大学入試改革で「主体的に学ぶ態度」が重視されることが背景にある。生徒の学習態度や学校生活について高校教員が作成する調査書(内申書)と連動させて大学入試で使う案も出ている。



eポートフォリオが広がる背景には、20年度からの大学入試改革がある。文科省は知識・技能や思考力・表現力などに加え「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するよう大学に求めている。受験生にとっては高校時代の成長や学ぶ意欲を示す必要が出てくる。


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日本経済新聞:「eポートフォリオ」高校で導入増 生徒が活動を記入
2019/6/11付 から引用、太字は筆者による強調
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45897430Q9A610C1KNTP00/

発火元は、某AO入試特化型G塾が開いたイベントに某政治家が参加し、その総括ツイートに対して、はるかぜちゃんが批判(https://twitter.com/harukazechan/status/1225978392886927361)したことです。

さらに、関連ツイートで畳みかけた(https://twitter.com/harukazechan/status/1226166879686803458)ことでだいぶ話題になっています。

このeポートフォリオを、いくつかの視点からその意義や、懸念事項を拾い上げていきたいと思います。

視点①:調査書と活動報告書のデジタル化

eポートフォリオとは単に、生徒と先生がデジタルで指導履歴を共有するためのものと考えることができるでしょう。

担任変更で指導履歴が共有しづらいことが解消され、eポートフォリオがいい感じで活動報告書や推薦書を作成してくれれば、出願準備の手間も減り、今後国公立でも積極活用すると文科省が大学側に指導を進めている、推薦AOに出願しやすくなります。

学校によっては推薦・AO入試への出願は一般入試の勉強の邪魔だとして、学校から指定された生徒以外は例え評定平均が足りていたとしても出願不能ということもありました。教員の手間が削減することでこれが解消されることを願います。

視点②:記録を貯めてくれる生徒は、指導しやすいし手間がかからない

指導履歴を残すことは担任の仕事ではありますが、生徒からいちいち聞き出すことはとても難しいので、先生方のマンパワー(記憶力とマメさ)で乗り切っていました。

現在は校内のシステムがデジタル化し、先生同士で記録を残すのは容易になってきましたが、このeポートフォリオは生徒も先生も相互に書き込みチェックできるので、効率化がさらに進みます。生徒側が能動的に記録できるようになれば、担任はそれをチェックして、問題がなければすぐに正式な指導履歴として残ることになります。この手間の削減は非常に大きい。

また、「何を指導されたか」が生徒から上がってくるということは、教員側からすれば何が生徒に伝わっているのかが把握できるので、それをさらに指導にフィードバックすることができます。検証不可能だった自分の指導に対する率直な評価が上がってくるのは、指導技術を磨くのには役立ちます。匿名ではないので、ある程度の人数は真面目に書いてくれるであろうし。

絶対にまともに書かないやつはいる!しかし…

もちろん、このeポートフォリオを有効に活用するには、生徒側もある程度、文章として残すスキルがあるという仮定が必要です。雰囲気と空気感でなんとなく記録してしまう生徒は絶対にいますし、誰かのを写したり、そもそも覚えてないし書く気もない生徒もいるでしょう。

しかし、こういったシステムを「業務効率化」の目線で導入するメリットとして大事なのは「一定以上のボリュームがうまく使ってくれる」ことが期待できればよく、外れ値(上も下も)はどうしても個別対応になるのは仕方がありません。それに、高校の場合、上の外れ値(想定:ちゃんと記録しないけどテストの点数はめっちゃいい)は、AO推薦に出せなくなるぐらいの話なので、一般入試が消えないうちは大丈夫です。

視点③:学校内・外で経験値が積みやすい富裕層の優遇

話題になっているのは主にこの話です。いろいろな方向から批判されています。

富裕層の子供の方が課外活動にもお金をかけれるのでポートフォリオが充実する/隠キャを排除している/大人が認める子供、を演じることを強制される/様々な事情で学校に行かなかった子が排除される

こう言った批判があり、それぞれはもっともな話だと思います。

また一方で、学力についても塾や予備校に通うお金が潤沢に出せれるのは富裕層だと言う話もあり(大手予備校に勤めていたので強い実感あり)、どーすりゃええねん、となります。

しかし私は、推薦AO入試が拡大することで、そうした層だけが優遇される、とは限らないと思うのですよね。

私の意見は端的に140字以内で表すとこうです。

私は、大学入試で、不器用だが知的能力の高い人間が排除されてはいけないと思っています。ペーパーテストで測れない学力を測る、と言うのが本来の主旨だったと思います。

本当に、ペーパーテストで測れない学力を測れているのか? AO入試の追跡検証をした大学もあります。散々な結果が出ている大学もあれば、中退率が低い、学業成績は高い、などの良い面もあります。

しかし、推薦入試と言いながら、一定以上の評定平均を要求するだけで、普通に学力試験を課す大学もあります。一方で、クッソ高難易度の小論文・面接試験を課す大学もあります(東北大学・立命館大学・慶應大学など)。育成型と名乗り、ペーパーテストによる学力自体を問わない、どのように学習していきたいか入試の面談の中で決めていく、と言う形の入試もあるようです。

このように、推薦AO入試を、その名称だけで十把一絡げにまとめ上げることはできません。

器用で育ちも良くて能力も高い人間を、レベルの高い大学の卒業証書付きで取りたいという大企業側(大学入試に口だせるレベル)は、「選抜生の高いペーパーテストを突破する能力が高い集団」よりも「いろんなことに積極的に取り組んで、課外活動も充実しており、かつペーパーテストを突破する能力の高い人間」の方が欲しいのは理解できます。石を投げたら優秀な人材にたくさん当たりそうですものね。

しかしながらこのポートフォリオがそうした目的に活用されるのは仕方がないにしても(現状の入試ですら不正が全くないとは言えない)、知的に突出した異能を認めてくれる先生と出会えれば、能力に偏りがある場合でも大学入試を突破できる可能性があると思います。

ちょっと楽観的すぎるよ、と思われるでしょうね。ただ私の立場は明確です。一般入試(主としてペーパーテスト)に対して、現状の調査書点以上に、ポートフォリオ評価が点数化されて課されるのは反対です。推薦やAO入試で異能を見つけるために活用してください。

視点④:指導履歴はセンシティブな個人情報になる可能性がかなり高い

去年の資料ですがこんなのがあります。最後のページでも言及されている通り、指導履歴は要保護個人情報になる可能性がかなり高いです。このセンシティブなデータをどのように保管するのかが見ものです。いや内部のセキュリティとか見れるわけないのですが。

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図:「JAPAN e-Portfolio」における「情報銀行」の活用についてから引用

eポートフォリオはいくつかの業者が中心となってやっており、そこには個人情報漏洩実績のあるベネッセもあります。既に多くの学校にクラッシーというシステムで入り込んでおり、どんどん記録が集まっているところでしょう。高校導入実績が着々と増えているリクルートのスタディサプリforスクールに同様の機能があります。そう言えばリクルートも「内定辞退予測データ」の件でいろいろやってますね。

この辺りの不安はありつつも、お上からのお達しや、学校内業務の効率化、ICTを導入していると言う実績づくりなど、様々な思惑が絡み合い、すごいスピードで導入が進んで、高校生たちは既に活用段階に入っています。

センシティブ情報の把握は必要か?

学校の中にも医療・福祉など地域との絡みが発生しているのは昔からそうですが、どうしても学校の中だけで抱えようとすることが多かったのです。そのために対応が出遅れ、不幸な結果になることも少なくなかったのです。

ここの、医療・福祉などとの絡みにセンシティブな情報は活用できそうですが、本人・保護者の同意なしにやれる範囲はどこなのか、あるいは同意がどこまで必要なのか、非常に難しい問題だと思います。

現場は大混乱/今は移行期間で強制スクロール中

学校ごとのこの辺りの差が今は非常に大きいです。GIGAスクールでインフラを整えていくようですが、まだ活用段階での課題が大きいのが現実です。転勤の多い教員という仕事では、ICTを活用した指導に習熟しないままこの期間を過ごしてしまう可能性が高いです。

しかしながら、このポートフォリオも然りですが、「あらゆることを記録して活用する」の流れは止まらないと思います、これを拒否できる個人は少なくなってくるでしょう。個人情報管理がそうした情報インフラ企業の基本になってきており、各社担当者は超苦労しているようです。

そもそも生まれた瞬間から個人情報の抜き取りは始まっており、小学生になるご家庭には某ゼミのDMが来たりするわけで…どんどんデータ規模が巨大になってきますね。

流れは止められなくとも、個人のデータの扱いを適切に(個人が個人のデータの追跡・消去可能性を保持できること)やってくれることを願います。

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