見出し画像

018_ひとりロシア語学習

 高校生の時、電子辞書を買ってもらった。我が家の教育費は基本的に母親の財布から出ていくが、その財布のひもが堅く、小学校のときに使用していた辞書を、高校生になってまで使っていた。
 もちろん、掲載している語数が少ないため、使い物にならない。そこで見かねた父親が、電子辞書なるものを買ってくれたのだ。それがすべての始まりだった。

 電子辞書には、漢語林や広辞苑、英語はブリタニカ百科事典までそろっている。そして、それらの辞書を横串で検索できたのから、いらない検索がはかどらないわけがなかった。暇さえあれば電子辞書を開き、ページをめくり。説明欄にリンクもあるので、ページを飛んで。辞書を手軽に読めることが、楽しくて仕方がなかった。

 そんなある日、『海外旅行で使えるフレーズ集』なるものを発見した。ロシア語との出会いはまさにここである。
 この時海外には全く興味はなく、あっても第一次世界大戦くらいである。今のヨーロッパやアジアは国名や大統領くらいしか知らないし、中南米やアフリカに至っては、『クレイジージャーニー』という番組で得た知識しかなかった。

 『海外旅行で使えるフレーズ集』は、英語・中国語・フランス語・イタリア語・ドイツ語・スペイン語・ロシア語あたりのラインナップであった。まるでHNKの外国語講座のようである。

 実生活に立ち返って考えたいのだが、現在ヨーロッパ各国で教育を受けた人は、ある程度の英語が使えるし、だいたいは観光で大人しく来日し、慎ましく帰国する。また私も、大人しくその国の文化に触れ、必要であれば英語で会話をし、慎ましく帰国する。

 日常生活でコミュニケーションを取らなければならいなのは、移民や留学生としてきているアジア圏の人ではないのだろうか。スーパーの細い通路に5人も固まって陣取っていたり、自転車の暴走運転をしたり、細かく注意したいことをや咄嗟の一言を言いたいとき、英語で言っても「俺にいってんじゃないよな」という横顔で正直うんざりである。外国人がひとりでいるときは、素直で愛想も作るので、まるでどこかの中学生か高校生みたいだ。

 それはそうと、そのフレーズ集をなんとは無しに、紙に書き写していた。私は、新規性を見つけたり学んだりする勉強は好きだが、技能習得や覚えた知識を試す勉強は大嫌いだったので、自然と受験からは離れていったのが私である。
 ロシア語独特の発音や文字に惹かれ、文法や発音の規則などを全く学ばず、ただフレーズとそれに対する日本語をノートに書いていったのである。

これが何とも言えないほど楽しい。

 フレーズを組み合わせて対話文を作ったり、フレーズから対応する単語はこれかな?とあたりを付けたりした。
 私の地元ではロシア圏のラジオがたまに入る。そのラジオから知っている単語が聞こえると、また楽しい。そんなことで受験期に暇をつぶしていたら、案の定ことごとく受験した大学に落ちた。しかし、唯一合格した地方私立大学で、私はロシア語検定という検定試験があることを知った。

 大学に落ちて自己効力感がなくなったため、リハビリにロシア語検定に挑戦しようと思い立った。ここまでの間の出来事は、友人はおろか家族ですら全く知らないことである。
 インターネットでロシア語検定の準備対策を知り、初めてロシア語の辞書も買った。英語の授業で学ばなかった語幹や接尾詞、活用など、言語にしてはルールが多すぎる。

 英語の授業を受けているときに、ふと疑問に思ったことがあった。

「こんなルールばかりで、一体だれがこんな言語を使っているのだろうか? 本当は使っていないんじゃないか」

 ロシア語でも同じことを感じ始め、少し嫌いになってきた。
 言語は"好き"という感情を持ちながら、自由に扱っている分には良い。しかし、学問としてルールを学び、興味のない文章を読解し始めると、苦く苦しい苦労がにじみ出る。しかし、受験すると決めたから、合格はしたい。どうせなら独学で合格したい。

私がロシア語を始めたきっかけは、ざっとこのようなものであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?