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026_ひとり海外旅行 〜中国人の奇行〜

とある先輩社員が鬱になった。新人のときからお世話になっている、二周りくらい年上のおじさんだ。そのおじさんは娘が可愛くて仕方がなく、震災で車が被害に遭った先輩だ。購入してまだ半年の新車だったらしい。その車は廃車になったらしい。

鬱になった原因は分からない。しかし、周囲は何となく、理由を心得ていた。
どうせアイツだろう。

パワハラ上司(以下パワ上)は夕方になると、日報業務でPCにかじりついている社員のもとへ行き、他部門の社員や他社のことをネタに、永遠おしゃべりしている。
これが鬱陶しくてしょうがない。パワ上の雑談を無視すると、

聞いているのか?

と聞いてくる。聞いているわけがなかろう。
一通りお喋りをしてスッキリすると、今度は別の社員を捕まえる。哀れなり。

鬱になった先輩社員は治療のため、欠勤し始めた。ベテランの社員が抜けた穴は、埋めるのが難しい。退職予定者を引き止め、なんとか人員の穴埋めをしている。
鬱になった先輩は、飛び抜けて明るくギターが好きで、暇になると昼寝をしていたお調子者だった。小学生の娘が可愛くて仕方がなく、娘さん手作りのポーチをいつも持っていた。
新車が半年で廃車になっても、大きなため息をついていただけで、仕事は休まなかった。

鬱は、だれもがかかりうる病だ。用心する私に、パワ上はこう言った。

ったくめんどくせぇ。(人員)調整も(長期休暇の)申請もめんどくせぇ。病気になりたきゃ、勝手になってろ。

モスクワのランドマークといったら、赤の広場である。広場からみて北から時計回りに、ロシア国立歴史博物館、カザン聖母聖堂、グム、聖ワシリイ大聖堂、4つの塔、大統領府にレーニン廟、そして無名戦士の墓がある。また、ちょっと歩けば、クレムリンやボリショイ劇場もある。
歴史、文化、聖堂という市民が生きて紡いだ証が、半径1km以内に収まっている。
観光として散策するには手頃だし、大統領の目の届くエリアにあると解釈することもできる。つまり、ロシアにおける重要な建造物として認められ、ロシアと運命をともにするということだ。

そんな豪奢で歴史がある建物を一望できる赤の広場で、私は思いがけないものを目の当たりにした。

それは、大量の中国人観光客である。ただの観光客ならいざ知らず、彼らは民族服を着ていたのだ。
私がイメージする中国の民族衣装は、華美な宮廷仕様か所謂チャイナドレスであるが、中国人観光客が来ていたのは、それとは違う、太極拳の服であった。光沢がある生地に龍や花の刺繍、上下揃えの表演服は、男女でお揃いである。それを、おそらく親戚同士ではない中国人観光客10数名の団体が、お揃いで着用していたのだ。
しかも、その団体は一つだけではない。数えてみたところ、4つほどあった。そして全員が、壮年の男女である。

白衣装の団体
光沢のある紫衣装の団体



いい歳超えて、お揃いの民族衣装を着ている……。

なかにはスリットが入った黒いチャイナドレスのおばさんもいた。そして皆、赤の広場の晴天の下で、人目を憚らずに着替えていた。

ロシアの(政治的文化的)中心で、ロシア味が全く感じられない。
あるロシア人おじいさんがカフェぼやいていた。
「赤いガチョウがガーガーと五月蝿い」
赤は中国の国旗、もしくは社会主義の色である。
ガチョウは中国人の隠語である。
そういえば、どこかのネットにも、「近くの川にガチョウはいなかったはず」と呟いて窓の外を眺め、あぁそういうことね(中国人観光客がガーガー鳴いていたのね)、と納得する人がいた。

チャイナドレスの団体
建物の写真を撮りたかったのに、否が応でも映り込んでしまう



世界中で、中国人をガチョウに例えているのはなかなか面白い。

なぜ中国人が(当時から)世界で嫌われているのか、その原因として以下のように考えらえる。
彼らは"他人の迷惑"というものを、"知らない"のだ。
他人に迷惑をかけるという行為自体は、知っているし理解できているだろう。もしそれが分からないなら、いつも団体で来るはずがない。
他人の迷惑と言うのは、自分や知人以外の人の立場に立って考えることができない、ということだと考えられる。

異国情緒を味わい、その国が辿った歴史に心を寄せたい旅行者が、中国民族衣装を着たおばさんたちをみて、がっかりした。ロシアの歴史のなかに、目障りでロシアと関係ない中国要素が混入しているのだ。異国情緒が味わえるはずがない。
ましてや、服装を正し敬服する聖堂や墓があるその目の前で、お着替えをするという羞恥心も欠片もない蛮行に、腹を立てるのも当たり前である。

他人の迷惑に気づかない限り、隣人愛は絵空事だ。ましてや、同じ場所で働くことはできず、周囲の誰かの価値観が歪められ、大変な不幸を被るのだ。

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