見出し画像

『本日は、お日柄もよく』を読んで。言葉の力を信じているからこそムカついた。

この本のことを”お仕事青春小説”とゆうらしい。知らなかった。
以後、私の本棚への入場をお断りするジャンルとなった。

血反吐を吐きながら仕事をこなしている私には、
「お仕事」「青春」もない。
ただただ「仕事」である。「お」なんてつかない。部活でもない。

ありえないシンデレラストーリーにムカついているのではない。
むしろ読書においてはありえないことを望んでいる。

なぜこの本を読むことになったのか。
それは女の子にススメられたからだ。
共通の話題を増やすために読んだ。下心とゆう燃料で読み進めた。
さしずめこの本の領収書の税務科目は「接待交際費」でもいいくらいだ。

冒頭からいきなり、私がこの本のターゲットとされる読者層ではないことに気づかされる。
この本の招かれざる客であることには早々と気づいた。

結婚式で吉野家と思わしき会社の社長さんのスピーチが退屈すぎて、居眠りをしてしまいスープの皿に顔を突っ込むとゆう場面。

組織の中で地位を得ている人は、挨拶をすることが非常に多い。場面に合わせたスピーチは重役にとって必要不可欠なスキルである。これを欠いている人が出世できるほど甘くはない。
したがってあんな商店街のおっさんみたいなしどろもどろなスピーチしかできない能力で、吉野家クラスの企業の社長に就任することは不可能だ。

次に、主人公の働く会社のPRに電通のエースがコンサルするくだり。
電通のクリエィティブ局には非常に優秀な人が多い。
そのエースが「チャンスイーツ」なんてゆう親父ギャグのようなコピーを提案する。もうちょっとなかったんかい。

でもって、「CHANGE」の「G」の線を一本消して「C」にすると「CHANCE」になるって、おいおい言うたでおい。
そんな三流の自己啓発セミナー講師がこすりたおしたようなネタを、電通のエース様が言う?
それを聞いた伝説のスピーチライターも「さすがね」っておいおい。

さておき、私が一番ツッコみたいのは政治編である。実際の政治はこんなに甘くないとか、そんなことを言いたいのではない。

この本のテーマは「言葉の力」「スピーチ」「世界を変える」だ。
そこで、伝説のスピーチライターがその具体例として小泉純一郎の「郵政民営化」の戦略を引き合いに出していることに違和感を感じた。

あの選挙戦略は当時も話題になった。
有名なB層戦略だ。
小泉純一郎の郵政民営化の広報チームは、
スピーチにおいての言葉の力を信じていなかった。
なぜなら、ターゲットにした有権者は難しいことを理解することができないリテラシーの低い人、すなわちB層たちだと分析したからだ。
要するに、アホには長文のスピーチなんてキャパオーバーで理解できないからワンフレーズを強調したのだ。
つまりイメージ戦略だったのだ。

スピーチにおいての「言葉の力」が世界を動かした具体例ではない。逆だ。
言葉の力を悪用したのが小泉純一郎だ。

スピーチは真剣に聞いてくれる人には感動的だと思う。
結婚式の新婦と友人はまさに感動的だった。

この本では、「言葉の力」が雑に扱われている気がした。
こういうのがみんな好きでしょ?と。
私は言葉の力を信じるイチ読者としてムカついただけだ。
言葉は人類が生み出した世界を切り取るための精巧な記号だ。

そして、私はこの本をススメてくれた女の子に、
「めっちゃ泣けた〜」あたりさわりのない感想を伝えました。
「でしょ〜」と言われました。
まるでパンケーキが美味しいのと同じように。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?