ハロウィンと税金の使い道
「いま日本では災害が続いて人手もお金も必要な時に1億円も税金を投入して警察も警備を強化しなければいけない状況っていうのは非常に残念に思います。」
ハロウィンの際に、渋谷で発生する警備料に対するコメント。
とあるアナウンサーの言葉だ。
ミタパンというアナウンサー。
素晴らしい発言。
小悪魔的な容姿とは違い、とても真っ当な意見。
確かにバカ騒ぎなんかに、大切な税金を使いたくないよな。
ミタパン、一気にファンになった。
彼女のコメントに報いるために、ひと肌脱ごうじゃないか。
本当の悪魔が。
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10月31日18時。渋谷駅前。
「トリック オア トリート!トリック オア トリート!!」
わたしはカボチャの形をしたアメを配っていた。とっても可愛いアメ。店長の提案で、カボチャだけじゃ物足りないから、丸くて大きい耳をつけた。どこかで見たことがあるマスコットを意識した作りだ。
仮装をしている人達にアメを配った。ハロウィンの渋谷を少しでも楽しんでもらえるように。お菓子をあげる側なのに、トリック オア トリートと言っているのは、ご愛嬌だ。
少し離れた場所では、店長も同じように配っている。かなりセカセカと配っている。全ての仮装している人に渡すんだ、という気概を感じる。こういうところがほんと変わった人だ。いや、悪魔か。
わたしは渋谷にある中古屋で働いている。ただの中古屋ではない。悪魔がやっている中古屋さんだ。なんでも買い取る。宝石や時計のみならず、不動産や車から、ノートやクッキー、写真までも。
実際はモノを買い取るのが目的ではない。本当に買い取りたいモノは、キオクなんだ。そのモノに詰まったキオク。キオクを買い取るために、形式的にモノを買い取っている。
モノ……キオクを売ると、売った人のキオクが消える。売ったモノにまつわるキオクだけがなくなる。みんな忘れたい思い出を売りに来るんだよ。
キオクなんて買い取ってどうするかって?そんなの秘密だよ。
ハロウィンの翌日から特別キャンペーンが始まった。ハロウィングッズを売ってくれた人には抽選で100万円プレゼント。180人に配るから、総額1億8,000万円のキャンペーン。フォロー&リツイートは不要だよ。
思った通り、大きな反響があった。近くに住んでいる人達は、持ち込みで売りに来た。大行列になってしまった。遠くに住んでいる人達は郵送による買い取り。全国から山のようにハロウィングッズが集まったよ。入りきらないから外部倉庫に直送してもらったりもした。
全て買い取らせてもらった。キャンペーンの1億8000万円もなんとか配り終えた。
これで日本中からハロウィンのキオクがなくなっただろう。来年から馬鹿騒ぎをすることはない…………はずだ。
忙しかったお店がやっと閉店の時間になった。店じまいの支度をするために店長を呼びに行った。店長は店の奥でお茶を飲んでいた。そして、物憂げな顔をしてテレビを眺めていた。
テレビからは小悪魔な顔したアナウンサーが、記事を読んでいる声が漏れていきた。
「新国立競技場の建築費は1,546億円です。これは東京ドームの4倍以上の建築費です。」
わたしは思わず「東京ドームの4倍もお金を使ってスタジアム作るなんて、税金の無駄遣いも甚だしいですね」と言った。
それを聞いて、店長はポツリと呟いた。
「失敗したな。渋谷で騒いでる子供たちへの警備費なんて、新国立競技場の建築費に比べたらかわいいもんだ。まず、この建築を決めた政治家から、国立競技場の記憶を奪うべきだったんだ。」
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