【ss】海砂糖　#シロクマ文芸部

海砂糖を使った料理を作ろう

何に入れようか、メインディッシュのビーフシチューか、やはりデザートのカシスシャーベットがいいだろうか。

ネットでみつけた海砂糖は、深海約300mに咲く真紅の花から抽出されたもので、とても希少価値が高い。

らしい。

10gで30万円は決して安くはなかったけど、たったひと匙で、【永遠の痺れる甘さに溺れる】というフレーズに惹かれて迷わず購入した。

光の届かない真っ暗な海に咲く赤い花とはどんな花だろうか。潮の流れにゆうらり、ゆうらりと揺れる花を想像していると、いつしかそれが浴槽に浮かんだあの女の黒い髪と重なり、口が緩む。

ほどなく手に入れた小さな瓶に入った海砂糖は、乾いた血のような色で少しがっかりした。ルビーみたいに綺麗な赤だと思ったのに。

鍵を開ける音がして、夫が帰ってきた。

病める時も、健やかなる時もと誓ったあの日の2人のように、今夜、痺れる甘い永遠を誓うのだ。

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