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【落語deざわざわ #第一席】 『化け物使い』に見る、パワハラとダイバーシティ

【落語deざわざわ】とは、現代のさまざまな諸問題を古典落語の演目にこじつけて論じるコンテンツです。基本的に「若い衆(わかいし)」と「横丁のご隠居さん」との会話スタイルで展開(例外もあります)しますが、内容はいたって無責任ゆえ気軽な読み物(時々深いかも)としてお楽しみください。

第一席目は『化け物使い』です。

あらすじ(前半、端折ってます):
人使いの荒いご隠居さんが「化け物がでる」ことで知られる一軒家に引っ越します。それまでは人使いの荒さに耐えていた奉公人も「化け物は苦手だ」と出て行ってしまい、ご隠居さん一人の暮らしが始まります。
そして、さっそく第一夜目から出てきます。
まずは、一つ目小僧。出てきたはいいのですが、洗い物や肩たたきなどこき使われた挙句「明日はもっと早く来い」と言われてしまい、泣きながら帰っていきます。
第二夜は、大入道。出てきたはいいのですが、ここぞとばかりに力仕事や屋根上の草むしりなどやらされた挙句「おまえはたまにでいいから、小僧を早い時間に来させろ」と言われてしまう始末。
第三夜は、のっぺらぼうの女。出てきたはいいのですが、針仕事を命じられたり、寝床(ねどこ)を用意させられたりしつつ、わざわざ「変な意味じゃないよ」などのセクハラまがいの言葉をかけられた挙句「明日からはお前が来い」と本気のご指名を受けてしまいます。
無給でコキ使い放題と味を占めたご隠居ですが、第四夜にやって来たのは狸。
今までの仕業は、全てこの狸が化けて出ていたのでした。この狸は泣きながら「こう化け物使いが荒くてはたまりません。お暇をいただきます」と帰っていってしまいました。

※故 柳家小三治 師匠の高座が鮮烈に記憶に残っています。

若い衆:
この噺のご隠居さん、パワハラ凄いですね。人でも化け物でも相手構わずこき使ってますよ。サービス残業だってさせてるし。のっぺらぼうにはセクハラですよ、完全に。一つ目小僧だって労働基準法にひっかかりません?

横丁のご隠居:
お前さん、いいところに気づいたね。まぁでもさ、適材適所って感じもするだろ。ほら、見てみな、ウチの庭。わしだって大入道が来たら色々やってもらいたいもんだね。

若い衆:
でも、あらすじには出てきませんが、この大入道は残業を無理強いさせられたって話じゃないすか。そもそも、残業代どころか給金無しじゃぁないですか! 話をすり替えないでくださいよ。

横丁のご隠居:
うん、そうだな。ハラスメントってぇのはよくないな。皆んなそう言ってるしな。この噺のご隠居は奉公人へのリスペクトが足らんのだな。ちゃんと土下座してお願いしないといかんな。お前さんも、大入道の身になって考えてみぃ。一度、のっぺらぼうになってみるか? キッツイぞ、きっと。

若い衆:
いや、そういうことじゃないでしょ! っつか、皆んなって誰なんですか!

横丁のご隠居:
皆んなってぇのは、その他大勢の人たちだよ。ほら、匿名でさ、なんでもかんでも噛みついてくる連中がいるだろ。エスエヌエス、てぇのか? お前さんもやった方がいいぞ、エスエヌエス。ありゃぁ、面白いぞ。蝋燭なんぞつけなくても炎上するらしいじゃないか。その火を使えば原発なんかいらないよ、きっと。

若い衆:
あれれ、話が違う方へ行ってません? それに、そんなこと言っちゃっていいんすか?

横丁のご隠居:
おっと、そうかい。まぁでもさ、多様性? ダイバーシティってぇのか、この噺のご隠居は多様性を尊重してるように見えなくもないかい?

若い衆:
まぁ、そりゃぁ、過去の奉公人にだって、出てくる化け物によってだって、態度を変えるとかしてないようですしねぇ。それに、言われてみれば、それぞれの特性を考えてミッションを与えているように見えなくもないか・・・って何か違いません?

横丁のご隠居:
おぉ~。やっと気づいたかな。この噺はな、全て一匹の狸の仕業だったっつうところがミソなんじゃよ。多様性、多様性っつてもな、元々は一匹の狸が化けてただけ。それだけのことだったっつうこと。つまりな、上っ面だけ「多様性、多様性」と連呼してみても、「全く無意味なこと」に過ぎんという話だ。たかが一匹の狸が、上辺だけ化けて出て来てもな。

若い衆:
そんな話なんすか、この噺って。狸がメタファー?

横丁のご隠居:
おぉ、お前さんの口からメタファーが出てくるとはの。まぁ、それぞれの身になってみるってぇのは悪ぃことじゃぁねぇかもしんないけどな、やっぱり猿真似じゃぁ、本質には迫れんのよ。おっと狸だったか、ん。まぁそれじゃぁ、誰ぁれもついて来んぞ。お前さんの周りにそういう輩は、おらんかな? そういう間抜けな殿様とかおらんかの。

若い衆:
殿様なんかに知り合いはぁ、いやしませんって!

横丁のご隠居:
ほほぅ、そうか、そうか。そりやぁ幸せなこったな。まぁ、そもそもわしら人間なんか、誰に言われんでも多種多様なのは当たり前な話じゃぁないか。現に、お前さんと熊公は同じか? 与太も同じか? お前さんが振袖着たってお初っちゃんにはなれんぞ。

若い衆:
まぁ、でも振袖は着てみたいかも・・・って違うでしょ! そういう話なんすか? なんだか、いろんな方面に刺さってません? 大っぴらにそんなこと言ったら、それこそ炎上しません?

横丁のご隠居:
エンジョウな。圓丈師匠が生きていたら、どう解釈するかの、多様性。

若い衆:
は? その駄洒落が言いたくて、さっきエスエヌエスの話題に持って行ったんすか?

横丁のご隠居:
まぁ、まぁ。つまりな、根本的なところをちゃぁんと理解した上で、人としてリスペクトがあって、その上で個性を認めないといかんっつぅ話じゃ。

若い衆:
ん~。そういうもんすかねぇ。

横丁のご隠居:
そういうもんじゃて。お前さんもそのうち分かる日がくると、いいんだがな。まぁ、また何か聞きたいことがあったら、いつでもおいで。次は羊羹でも出してやるからな。ただし、薄切りでな。

若い衆:
へぇ、へぇ。ありやとやんした・・・

まとめ:前田


この記事について
“ざわざわ”は、ツールの使い方や社内コミュニケーションの最適解を教え合う場ではありません。道具が多少足りなくても、できることはないか?姿勢や考え方のようなものを「実務」と「経営」の両面から語り合い、共有する場ですが、【落語deざわざわ】におきましては、戯言に近しい話がほとんどですので、単なる「ボケ」とお考えいただいても一向に構いませんし、これを機に落語沼にハマっていただいても構いません。ただし、日常生活に支障を来たすほど寄席に通ってしまうようになっても、“ざわざわ”では一切責任を負いません。

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