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翻訳の研究について

翻訳(translation)は、外交、貿易、布教、統治、文化・思想・学問・技術の伝達や受容など、多種多様な場面で、様々な担い手によって行われてきた。歴史上常にその実践が先行してきた翻訳は、必ずしも研究の対象として重要な位置を占めてきたわけではない。

もちろん翻訳の議論の萌芽は確かに古代にまで遡ることができる。
ミカエル・ウスティノフの翻訳史を筆頭に、翻訳学の入門書において近代以前の研究史を扱う際、精神的な始祖として必ず言及される人物は、キケロー(前106-前43)とヒエロニュムス(347-420)の二人。西洋の翻訳論は、非宗教的な文学テクストの翻訳論は キケローに起源があり、宗教テクストの翻訳論はヒエロニュムスに起源がある。

彼らをはじめとする翻訳や通訳(interpreting)に関わる人々が展開した古代の議論にも、現代の翻訳理論にも通じる論点 ―起点テクストと目標テクストのいずれに重きを置くかのような― を見出すことも確かにできる。ただ、欧米を中心に翻訳そのものや翻訳するという行為についての学術研究が体系化されたのは20世紀後半になってからのことだ。

この数十年で本格化した、翻訳を研究する学術分野は、英語圏ではホームズ(Holmes, J.S.)によって提案された“translation studies”という名称で呼ばれている。

一方、日本ではどうかというと、“translation studies”への定訳すら定まってすらいないのが現状である。日本において、欧米を中心に台頭した動きやその成果に注目が高まったのは比較的最近。1990年代に理論研究がはじまり、学会(日本通訳翻訳学会 The Japan Association for Interpretation and Translation Studies)が設立されたのは2000年のことだ。

この“translation studies”が結構面白い。
そう思っているのだが、それについてはまた改めて。


~参考文献~
鳥飼玖美子編著(2013)『よくわかる翻訳通訳学』ミネルヴァ書房
ミカル・ウスティノフ(2008)『翻訳 : その歴史・理論・展望』白水社

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