『メジロマッチ』⑤
「ほら! もっと足上げて! とにかく思いっきり地面をけって前に進むんや!」
放課後の校庭で町田が間野の横を併走しながらゲキを飛ばした。
間野は見ているこっちが心配になるぐらい苦しそうだが、言われるまま頑張って何度も走った。
そろそろ練習も終わりにしようかという頃、
「おーい、お前らがんばっとるなー!」
と担任の岡田先生が私たちの姿をみつけて声をかけてきた。
「練習すんのは、ええけど、ちゃんと暗くなる前に帰るんやで」
「分かってるって、もう終わりにしようか思ってたとこや」
「そうか。ちゃんと宿題もやるんやで」
「うん」
「それとな、おまえら帰るとき、花子と一緒に帰ったてくれや」
そう言うと、岡田先生は校舎の窓を見上げた。
私たちのクラス、六年四組の窓から同級生の谷口花子がこっちを見ていた。
「なんやあいつ、まだ残っとったんか」
町田が言った。
日本人形みたいな髪型をした、しずかで陰のあるタイプの花子が、放課後の校舎から、こっちを見ている姿は、なんとなく不気味だった。
「知ってるか、花子のお母さん占い師なんやで」
と間野は言い、町田は、
「ほんまか。オレ、あいつ暗いからちょっと苦手やねん――」
先生が居ることなんか気にせずに、そんな言葉を返した。岡田先生は苦笑いを浮かべていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?