見出し画像

『メジロマッチ』⑥ 

これまでのお話:校内一の俊足「町田」と校内一の鈍足「間野」という両極端な二人を有する六年四組男子リレーチーム。一度目の予行練習では間野が文字通り足を引っ張り、運動会本番での苦戦が予想される結果となった。
そこで間野は自ら特訓を志願した。謎多き同級生「花子」の視線を感じながら、練習を続ける六年四組男子リレーメンバーの運命やいかに。
前回までのリンク     


 間野のトレーニングは毎日続いた。途中からは放課後だけでなく、学校に早めに行って朝もトレーニングしていたが、私は「朝起きられない」という
短所を発揮して、そっちは一度も付き合ったことがなかった。

 その代わり、放課後の練習は毎日いっしょにした。間野のためでなく、私も町田もやはり勝ちたかったのだ。

 花子は毎日学校に残っていて、ぼんやりと私たちの練習を眺めていた。仲が良いわけでもなく、なにか会話をすることもなく、ただじっと眺められているのは、心地が悪くて、初めのうちは花子が見ているのに気づくと、急に練習がやりづらくなったが、そのうちに馴れた。

 一度町田が、「花子も一緒に練習するか? おまえかって徒競走でるんやろ」と誘ったが、花子はクビを横に振っただけだった。

 そのときにふと、花子は以前からずっと、放課後こうして学校へ残り、ぼんやりとひとりで過ごしていたのかもしれない。私は学校が終わればすぐに家へ帰っていたので、そのことに気づかなかっただけじゃないか? そんなことを思った。


 本番を翌週に控えた他クラスとの合同練習で、私たちは二十メートルほどリードを作って、間野にバトンを渡した。

 間野は相変わらず手足をバタつかせながら不恰好に走るが、最初の時よりも、だいぶ前へ進むようになっていた。

 ゴール前五メートルぐらいで、ゴボウ抜きにされてしまい、結局その日もビリだったが、確実に他のクラスとの距離が埋まっているのを感じた。

「あと五メートル・・・・・・何とかなるかも知らんな」
 町田がつぶやいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?