「赤い月」


わがこころ いつしか和み あかあかと 冴えたり月の のぼるを見たり・・・

お疲れ様ですの声が右に左に反響する帰り際の校門。
私もまた同じように数人に会釈して門が閉まる前にとその場を離れる。
隣に並んだ君を横目で見ると心なしかいつもより背中が小さく見えた。
「二度とスカート履いてやんない」
口にしたのは拗ねたような文句言葉。でも心の中ではその反応を期待していた。
背中を小さくして謝る君の姿を見ていると、その純粋さに悪戯心も潰れてしまう。

「絶対的な信頼」

最近よく聞く曲の歌詞。やけにそこだけ耳に残るのだ。

きっとそれは紛れもない自分の胸に重なるからで。

拗ねてみても、嫉妬してみても、怒ってみても。結局は

その言葉に真の意味なんてなくて、ただその些細なやり取りや不毛な駆け引きに幸せを感じているんだ。

「別にいいけどね。まあ暫くはスカートは履かないかな」

また天邪鬼に返すと、頭に置かれた手で視界が下に下がる。
二人の足元。見慣れただけの足元。
ただ今日は何か違った。

(赤い・・・?)

その理由を察し視線を上げると案の定目の前には大きな赤い月がでていた。

見惚れた。

まるで神話の中のような真っ赤な月明かりの下、私たちは立ちすくんでいた。

ちょうど一ヶ月前、夜景を二人で見た日のことを思い出していた。

後にも先にも忘れられないくらい美しい夜景。

もう何年住んだ街が見る人一つでこうも変わると名前も知らない感情に翻弄されたんだ。

あの日。

あの日も今日と同じ、見たこともないほどに真っ赤な月だった。

柄にもなく頭に浮かんだのは「運命」とかいうありふれたワードで。

でもそのシンプルな言葉がどんな言葉選びよりしっくりきた。

その日の晩君から送られたLINEには全く同じ「運命」というワードが入っていた。

一ヶ月を迎えた今朝6時半。

隣でまだ寝息を立てる君を起こさないように君がプレゼントしてくれたワンピースに袖を通した。

「スカート履かないって言ったの誰だよ」

あと15分で君が目覚めればちょっと特別な今日が始まる。

踊る気持ちを昨日残した缶ジュースで流し込んで君のそばに向かった。


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