「切りつけてやればいい!」母親の怒声に娘は震えている。私は娘を抱いて隣室に逃げた。
■37
大きく見開かれた娘の目に、みるみる涙がたまり、両の頬をつたって床にこぼれ落ちた。私は娘を抱き上げ、その場を立ち去る。
今も夢に見る、いつかあったシーンだ。
あれは元妻が拉致を敢行する三ヶ月ほど前・・・・・・私たちは、新潟駅南口の間取り2DKのハイツで暮らしていた。
発端は、些細なことだった。
「今日の晩ご飯は、なに?」
帰宅するなり、そうたずねた私に元妻はぴしゃりと言った。
「あのさあ、私たちって共働きだよね?」
意図は分からなかったが、「あのさあ」と言われた瞬間から身体はこわばり、心臓が萎縮している。自動的に「怒られる構え」をとるよう、調教済みだ。
「共働きなのに、なんで私がご飯つくってんの?」
それは・・・・・・
ここから先は
888字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?