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僕らがいなかった父さん

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一ヶ月後に迫った姉の結婚式。ヒロキには、ある想いがあった。「生き別れになった父親に、参列して欲しい」。十七年の断絶を経て、父を探す同機を得た彼は父を知る人物を訪ねる旅に出る。(事… もっと読む
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〈3〉女は男を独占しないと気が済まないの。幸せとは関係なく、ね。

〈3〉女は男を独占しないと気が済まないの。幸せとは関係なく、ね。

〈ヒロキ〉
 あ、みき? うん。いや、まだ柳田さんの家にいる。
 そうだね、思ったよりキツかった。父さんのこと、あまりよく思っていないみたいで。
 うん、大丈夫。けっこう呑んでて、今はもう酔っ払って寝てしまった。
 奥さんが駅まで送ってくださるって言うから、明日のアポは大丈夫そうだけど、ちょっと自信なくなってきたよ。
 残念だけど父さんは、あまり良くない人間かもしれない。
 だから母さんは僕たちに

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〈2〉おまえの親父は、根無し草だ。

〈2〉おまえの親父は、根無し草だ。

〈みき〉
 ヒロキ、おはよう。
 ちゃんと着いたんや。良かったなあ。気ぃ遣って電話してくれたん。もう怒ってへんって。ありがとう。
 お父さんが新潟に住んでいたころの友達なんやろ。ええ人やろな。
 あ、そうなんや。電話では怖い感じやったん。・・・・・・あんた怖くなったから、私に電話してきただけやんか。もう、しゃあないなあ。
 あんたが生まれるころには、もう親交はなくなってた人やもんなあ。あんたのこと

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(1)でも父さんは、僕に会いたいのか?

(1)でも父さんは、僕に会いたいのか?

〈ヒロキ〉

 この通り。僕が悪かった。許してくれ。
 分かってる。完全に僕が悪い。四日間の有給休暇。週末とつなげて六日間の休み。黙ってて悪かったよ、ごめんなさい。
 僕も君と一緒にいたいよ。本当だって。ないない。飽きてないって。四年お付き合いしてるけど、飽きてません。大丈夫だから。
 でも、今回だけは、一人でやりたいことがあるんだ。考えたいこともあるし。
 えっ? 旅行だよ。ちょっとあちこち、行

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