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20010407 粋な機構

 ある雑誌を読んでいたら、おもしろい時計の紹介があった。男心をくすぐる機構を持った時計である。

 時計の動力源としては様々なものが利用されている。ゼンマイ時計はゼンマイ、鳩時計などは錘(おもり)、電気式の時計は電池であったり家庭用100Vであったりする。腕時計の中には充電池に太陽電池で充電$${^{*1}}$$したり、自動巻腕時計についている回転する錘で発電機を回し発電して充電池に充電するもの$${^{*2}}$$もある。もっと変わっているのでは電波で電磁エネルギーを時計に送り、それを腕時計の中で電気に変換して充電するもの$${^{*3}}$$もある。

 腕時計の電池を交換するのではなく、外からのエネルギーで充電する機構はそれなりに男心をくすぐるのであるが、何か安直な気がする。時計の針を動かすのにゼンマイの代わりに電池とモータを使うという発想に安易なところがある、ともともと感じている。自動車のエンジン制御がどんどん電子化されるようなものでつまらない。やはり機械は最後まで機械機構で制御するのが粋である。

 紹介されていた時計は置き時計で1926年に発明された。Atmos$${^{*4}}$$という名の時計で、ジャガールクルトJaeger-LeCoultre$${^{*5}}$$という有名時計メーカが生産している。動力源は気体の温度変化による膨張収縮を利用している。時計自体はゼンマイで動く$${^{*6}}$$。ゼンマイを巻くのに気体の膨張収縮を利用している。

 蛇腹$${^{*7}}$$を持った金属製の密閉容器にある気体と液体の混合物を入れておく。気温が変化するとこの密閉容器の中の気体が蛇腹をアコーディオンのように膨らませたり縮ませたりする$${^{*8}}$$。この力を利用してゼンマイを巻く。15℃から30℃の室温状態で1℃の温度変化があれば48時間動く。

 平和鳥もしくは水飲み鳥$${^{*9}}$$と呼ばれる玩具に匹敵する清々しいほどの駆動機構である。特別なエネルギーは一切使っていない。地球に降り注ぐ太陽からの光によって発生した気象エネルギーだけで動くのである。殆ど永久機関だ。温度差で発生するエネルギーはそれほど多くないので時計の機構はできる限り滑らかに静かに動くように作られている。たとえば時刻の基準となるテンプは1分に1回しか往復しない$${^{*10}}$$。「エネルギーを消費しない度合い」は、この置き時計を6千万台同時に動かしたとしても消費されるエネルギーは15Wの電球のそれよりも少ないらしい。

 精密に作ってあるだけではなく、摩耗もほとんど無いので耐用年数が優に600年に達するようだ。ただ最近は大気汚染の影響があるので20年に一度は点検に出した方がいいとしている。

 それにしても6千万台とか耐用年数600年とか1℃で48時間とか景気がいい話がぞろぞろ出てくるのはやはり「粋な構造」だからだろう。

*1 シチズン テクノロジーサイト[CITIZEN-腕時計]
*2 K I N E T I C の 駆 動 原 理
*3 電磁誘導式無接点充電アナログウォッチREQ
*4 Perfect Tyme - Atmos (Jaeger-leCoultre) Clocks
*5 Jaeger-LeCoultre - Bienvenue - Welcome - Willkommen
*6 アトモス/ジャガールクルト
*7 Atmos Clock: Replacement of Old Bellows
*8 HOW THE ATMOS CLOCK WORKS http://www.abbeyclock.com/gbk/aatm21.html
*9 ああ懐かしの玩具たち
*10 Mike's Clock Clinic's Atmos Clock Caliber 540 Parts Page

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