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20010703 虫歯痛みを去る奇法

 耳袋(みみぶくろ)$${^{*1}}$$という江戸中期に書かれた随筆集がある。当時の奉行、根岸鎮衛(ねぎしやすもり)$${^{*2}}$$が書いた。原本では「耳嚢(みみぶくろ)」となっている。

 虫歯$${^{*3}}$$の痛みを取り去る方法に関するものがあった。

「韮の実を火に焚いて、その煙を管などを使って虫歯の部分に導き、燻(いぶ)してやるとすぐ痛みが取れると人が語った。また、瓦を焼いて半盥(はんぞう)に入れて、韮の実を置いてお湯をかけてやると煙が出てくる。その煙で耳を蒸してやると耳から白いものが出てくる。その白いものは虫歯のむしらしい」

 最後の部分は「右白きものは虫歯のむしと也といへるが、まのあたり様(ため)し見し」とあったが、一部訳を省略してしまった。手許に古語辞典がないので「まのあたり様(ため)し見し」の意味がよく判らない。「実際に見たことがない」ぐらいだろうか。半盥とは何のことなのかはっきりしていないらしい。耳盥(みみだらい)$${^{*4}}$$ではないかと解説にある。耳盥$${^{*5}}$$とは盥に持ち運びやすいように耳を付けたもので、お歯黒に使う道具である。

 $${^{*6}}$$が虫歯の痛みに効く$${^{*7}}$$というのはどうしてだろう。韮の臭いが如何にも効きそうだからだろうか。多少なりとも韮が痛み止めになるという現代の医学での根拠があるのだろうか。

 科学の発達にはこの「理由はともかく何となく効くかも知れない」という考え方が必要である。常に効率を重んじ、現時点で確立された理論を元に演繹的に結果を導き出すだけでは大きな発展が得られない。TRIZ$${^{*8}}$$の話題でも書いたが、既存の理論からは自動的に全く新規な理論は出てこない。人間の「何となく」という感覚が必要である。しかしこれははずれも多いので効率は悪い。

 ところで耳袋に書かれているのは虫歯の痛みを治す方法であって虫歯をそのものを治す方法ではない。題目も「虫歯痛みを去る奇法の事」とある。虫歯は自体は治らないものという認識は昔からあったようだ。

*1 耳袋
*2 江戸財政改革史外伝
*3 20000112 医療廃棄物
*4 お歯黒について - 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020
*5 葵紋菊蒔絵耳盥 - 仙台市の指定・登録文化財
*6 韮 (にら)
*7 丹平製薬 今治水
*8 20010702 TRIZ

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