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20020628 dbx

 カセットテープの雑音低減のための仕組みでdbx$${^{*1}}$$というのがあった。カセットテープ自体を日常では余り使わなくなったので、dbxも殆ど見かけなくなった。

 カセットテープ再生時の雑音を少なくして音質を良くする仕組みではドルビーDolby$${^{*2}}$$が有名であった。かつてはカセットデッキの殆どにDolbyの仕組みが搭載されていた。最近は映画館やDVDの立体音響の技術$${^{*3}}$$を提供する会社$${^{*4}}$$と言った方が馴染みがあるかもしれない。

 何も録音していないカセットテープを再生すると「シャー」という音が聞こえる。これはヒスノイズと呼ばれる雑音で、磁気テープを使うとどうしても発生してしまう雑音である。特にカセットテープではテープの幅が小さいため、テープに記録された音の信号の強さはそれ程大きくならない。磁気テープを使うことによる雑音は幅が小さくても発生してくるので、録音された音に対して雑音の成分が大きくなる。

 録音された音に対する雑音の成分を下げるため、音の信号を強くして録音すればよい。「シャー」という音は一定の強さの高い音の成分で出来ているので、録音する音の高い音の信号分だけを強くして、再生するときは元の強さに下げれば雑音の成分は音に対して相対的に低くなる。これがドルビー式の原理$${^{*5}}$$である。

 dbxは「大きな音」を小さく、「小さな音」は大きくしてテープに録音する仕組みである$${^{*6}}$$。再生するときは小さくした「大きな音」を大きくして、大きくした「小さな音」を小さくする。こうすることによりカセットテープが録音できる音の大きさの範囲以上の非常に小さい音から大きな音まで録音できる。ヒスノイズはテープから発生する雑音で耳に聞こえるが、本来は「小さな音」である。この音はdbxで再生すると、直接テープから出てきた音だが、録音時に大きくされた「小さな音」として扱われ、ヒスノイズは更に小さくなって再生される。つまり雑音が低減されたことになる。

 dbxのスイッチを入れるとヒスノイズが殆ど聞こえなくなり、ドルビーよりも断然効果があった。もうこれからはdbxしかないと直感して、dbxばかり使って録音をしていたらdbxはカセットデッキから絶滅してしまった。絶滅寸前にカセットからMD$${^{*7}}$$に移し換えておいた。使っていたdbx搭載のカセットデッキは壊れてしまったので移し換えてよかった。

 今それらを聴くとカセットに録音しあったとは思えないぐらい「シャー」というヒスノイズは聞こえない。MDは磁性体を使った録音媒体$${^{*8}}$$であるが、録音再生はレーザ光を使っているので、ヘッドが直接磁性体に接触することによるヒスノイズ$${^{*9}}$$は発生しない。

 私は「ヒスノイズ」を「ヒステリシスノイズ」の略だと勝手に思っていた。磁性体にはヒステリシス$${^{*10}}$$という特性があり、これらが原因で雑音が発生$${^{*11}}$$すると勘違いしていた。ヒスノイズの「ヒス」は「hiss$${^{*12}}$$」で「シュー」とか「シャー」という音という意味だった。アナログレコードでも発生している。つまりヒスノイズは磁気テープだけではなく磁性体以外の色々な物から発生する可能性がある。だがMDなどディスクからレーザ光で信号を読み出す装置$${^{*13}}$$では、読み出し時点では原理的にヒスノイズは発生しない。 

*1 dbx Professional Products
*2 ドルビーラボラトリーズ
*3 ドルビー技術年表
*4 Dolby Laboratories, Inc.
*5 Digital Audio Paradise / 第10回
*6 dbx
*7 20020522 MDの修理
*8 じしゃく忍法帳 / 第48回「録音機と磁石」の巻
*9 パイオニア株式会社 報道資料
*10 図2 B-H曲線(磁気ヒステリシス曲線)
*11 じしゃく忍法帳 / 第64回「ミニ磁石の観察法」の巻
*12 英語「hiss」の意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書
*13 20011215 光の針

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